第4話 嵐の中で_1
やがて僕は大人になり結婚した。
生まれ育った港町に所帯を構え、妻と娘の3人暮らしだ。
妻の実家の跡を継ぎ、仲間と漁に出る日々を送っていた。
「誠二!」
仲間が呼ぶ。
僕は、今日の漁は気が乗らなかった。
何だか嫌な予感がした。
だから念入りに機材や救命用具を点検していた。
「こんなに風が凪げてイイ天気なのに、何いつまでもやってんだよ!」
「ん……あぁ、ちょっとな」
「もたもたすんなよ! 行くぞお!」
五隻の船が出港した。
「おぉ!今日は風も波も最高だぁ!」
仲間が恵まれた天候に活気つく。
「……!! なんだありゃ」
水平線遠くに、何かが見えた。
仲間の一人が望遠鏡で覗く。
「蜃気楼だ……。 こんなの初めてだなぁ!」
「写メ撮ってブログに載せるか?」
「いいねー!」
僕も仲間の話しに大笑いしたが、何か……どこか、ひっかかった。
なんだっけ……何か笑えない事……。
僕は仲間に声をかけた。
「おい、救命用具を再確認しよう。 胸騒ぎがする」
「なに言ってんだよ、誠二!」
「一度都会に行った奴ぁ、怖がりになって、しょうがねぇな」
「ちげぇーよ!」
仲間達のカラカイに反発しかけたが……やめた。
黙々と一人で再確認し、持ち場へ戻った。
他の四隻にも注意を促し、再確認するよう言ったが
彼らも僕をからかい、笑うだけだった。
今日はいつになく大漁だった。
船上は神輿を担いでるような大騒ぎだった。
僕以外の誰もかもが浮かれ喜んだ。
余りの大漁さに、酒とご馳走を大盤振る舞いする用意をしろと
仲間達は家族へ電話した。
……信じられるだろうか。
今、僕の船には他の四隻の仲間達が全員乗り込み、救助を待っている。
僕の船以外は全部大破し、唯一残った僕の船でさえ
計器や無線機や、なにもかも壊れた有様になっていた。
しかも、僕の手が強く握っている "ガラケー" は
契約切れで写メを撮るしか機能しないやつ……。
何で、今日に限ってコレを持って来ちまったんだろう!
後悔しても仕方がないが……。