第1話 真夜中の電話
僕が子供の頃は、どこの家でも黒電話で
電話をかけた奴が誰かなんてバレ無かったから
暇つぶしにクラスの連絡網とか電話帳とかを見て
適当に電話して遊んでいた。
「はい、野坂ですが」
「……」
「もしもし」
「……」
「あら変ねぇ……。もしもし?」
ガチャッ!
笑いを堪えて電話を切ると、友達と馬鹿みたいに大笑いした。
「あら変ねぇ……わっははは!」
さっきの何処かのおばさんの物マネをして笑う。
今日は朝から雨で、外で遊べなかったから
友達と3人で、僕の家で遊んでいた。
帰り際、友達の1人が言った。
「夜中の2時2分2秒に、2を連続してダイヤルを回すと
どこかに繋がって女の子と話しができるんだって。
昨日さ、俺、試しにやったけど繋がらなかったから、今度はお前やってみろよ」
「起きれっかな……」
「やってみろよ! もし誰かが出たら教えてくれよな」
「おっ! 俺にもな、教えて!」
「……やってみるよ」
ドラえもんの最新巻を借りただけに文句は言えない。
友達が帰った後、テレビつけながら漫画を読んでいたら
爺ちゃんが僕に聞いてきた。
「誠二、今、昭和何年だっけ?」
「昭和54年」
「今日は……」
「7月29日 日曜日! 夕飯はまだ食ってねーよ!」
「ああ、そうか。 誠二は何でも知ってるなぁ! さすが小学……何年生だっけ?」
「6年!」
このクソジジイ!
夕方、ひどくボケた爺ちゃんの面倒をみるのが僕の役割だ。
「母ちゃん、 爺ちゃん同じ事ばっかし言う!」
「年寄りなんだからしょうがないだろ?
ほらぁ、箸ならべて! 飯できたよ! あと、父ちゃーん! 飯だよぉ!」
「おう!」
母ちゃんが軒先で、漁に使う網の手入れをしている父ちゃんに叫んだ。
爺ちゃんがこんなにボケなきゃ、僕も父ちゃんと一緒に手入れしてたのに……。
「誠二、一生懸命勉強して会社で仕事できる奴になれよ」
今日捕ってきた魚と飯をほうばりながら父ちゃんが言った。
「……うん」
だけど僕は父ちゃんみたいな漁師になりたい……。
荒れる海の中で船を操る父ちゃんはカッコイイ!
「シケが続くね」
母ちゃんが、爺ちゃんと父ちゃんと自分用に酒を注ぐ。
明日の漁は、天気が悪いから結局やめるんだ。
うちの大人達が酒を呑む時は、いつもこうだ。
「ここ数年、海が違う……」
父ちゃんが母ちゃんにまた愚痴る。
僕は父ちゃんの言葉の意味など深く考えもしないで、憧れだけを優先させていた。
父ちゃんと母ちゃんは酒をたくさん浴びて寝た。
僕は今夜だけは一生懸命寝たふりを続けていた。
長い退屈な時間を我慢して、やっと夜中の2時になった。
僕はこっそりと布団から抜け出す。
大人に丁度良い高さの台に置いてある黒電話を畳に置き
豆電球のわずかな明かりの下で『いびきの大合唱』を聞きながら
"その時" を待つ。
2時2分2秒。
よし、今だ!
2……
ジーゴロゴロゴロ
2……
ジーゴロゴロゴロ
2……
ジーゴロゴロゴロ
"2" の穴に入れる指が緊張で震える。
……なんだ、繋がらないじゃん。
「……もしもし?」
「うわぁっ!」
突然、受話器の向こうから女の子が応える。
驚いた僕は、思わず叫んでしまった。