彼女は一つの賭けに出ていた
このパートは非常に短い。
何とか、尚李を信じ込ませることには成功した。
本当は、術式など使わずに…正確には使えずに、ただ引きずり上げただけだった。尚李が気を失っていたから気付かれはしなかったものの、優位に立つには仕方がなかった。
本当は契約なんてしていない。私の魔力の回復が間に合わず、儀式ができなかったからだ。だが、いずれ隙を見て契約を果たす。そのためには、少々脅しをかけてでも尚李にそう信じ込ませる必要があるのだ。
「…ちょっと考えさせてくれ」
「ふむ、いいだろう」
思い悩む尚李を見て、手応えを感じた。
尚李に他の道はない。私に従う道を、選ぶはずだ。
「うーん…」
面白い顔をして悩む。なんだこの馬鹿面は…。こんなのが私の下僕だと…?
「契約、って言ったよな。契約の証みたいなものはあるのか?」
ぎくっ!
本来なら、契約を終えた者には私の腕の紋章と同じ模様が、身体のどこかに浮き出る。それが証となるのだが、契約を済ませていない以上それは存在しない。
…仕方ない、多少強引な手ではあるが…。
「…あるぞ」
「え?」
驚き、目を見開いている。
「尚李の体内に流れている血液や構成している細胞全てに、私の力が流れ込んでいる。私が命じればそれら全ての魔力を爆発させ、肉体ごと吹き飛ばすことも可能だ」
「まじかよ…」
焦燥の表情を浮かべている。此奴は馬鹿なのだろうか…普通に考えたら、そんなことありえはしないのに。ただ、その馬鹿さ加減のお陰で此方は助かっているが。
「わかった…仕方がないから、従うしかない…」
仕方がない、か。でも…
「そうか、よかった…」
「え?」
しまった、ホッとしたら思わず…。
「か、かかか勘違いするな。げげげ下僕とは言えなな尚李は私にとってじじ重要な存在だ」
「…重要な存在?」