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結果としてこうなりそうだと思わなくもなかったので全て犬に任せた

 さて、どこから説明すればいいのだろう。

 俺が実は死んでいたこと?

 リリトナに助けられたものの、それはリリトナの謀略によるものだったとか?

 あの犬…実は猛獣なんだぜ?とか?

 …いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 知佳を巻き込みたくない。

「知佳、ここから離れろ。後で全部説明する。だから、言うことを聞いて…」

「うおー、すげーーーー!」

 がくっ…。

「…知佳、言葉遣い…」

 こんな状況で言わせないでくれ。

「兄さん何それ!コスプレ!?ってかその子誰!超可愛いんですけど!」

 こんな夜中にコスプレをしていて、お前が言う可愛い子と二人で、ガラスの割れた部屋で対峙しているとして、何も不思議に思わないのか。

「知佳、もう一度言う。ここから離れろ」

 語気を強めて言う。

「え~?」

「え~じゃない!」

「良いではないか。娘、面白い物を見せてやろう」

 す、と腕を振ると俺の翼は大きく羽ばたく。俺自身の意志とは関係なく。

「おー!動く!すげー!」

「ふふ、こんな事も出来るぞ?」

 翼は羽ばたき、暴風が舞う。

「尚李、大丈夫か!?」

 だだだ、とリリトナが駆けつけてきた。

「ごきげんよう、姉様」

「妙な気配がすると思ったら…やはりヴェリーチェか。何をしに来た」

 キッと睨みつける。

「ご挨拶ですわね姉様。そんなの、連れ戻しに来たに決まっているでしょう?」

「なぜだ?お前には関係のないことだ。それに、母様の了承も得ている。今回のことに関して、あなたが関与する理由など無い」

「あら、冷たいこと…そのわりに、随分可愛らしい格好をしてらっしゃる」

 ツインテールのまま寝たのか…髪ぼっさぼさだぞ。しかもパジャマのまま来たってことは、リリトナにとってそれほど急ぐべき予想外の事態だったと言うことか…。

「…ケルベロスを見つけた時、少しでも疑うべきだったわね。追っ手がかかるようなことは無いと思っていたけど…ヴェリーチェ、悪いけど帰って頂戴」

「姉様…たった数日でどうしてしまわれたの?そのような格好で人間と馴れ合い、恐怖を感じるほどの魔力も感じない。それに、以前の姉様なら強制的にでも私を帰還させていたでしょう?それすらもせず帰れとしか言わないなんて…」

 しばしの静寂。

 そんな中、知佳が口を開く。

「…姉妹喧嘩?」

「…まあ、そんなとこ?だ」

 また少しの静寂。非常に居心地が悪い。

「…もう疲れたのだ、冥界での暮らしに。私には、母様の代役を務める事なんて出来ない。ヴェリーチェ…あなたの方がよっぽど素質があり、適しているわ…そう母様に話した。そうしたら、『あなたの納得のいくようにしなさい。選択の先にいずれ死があったとしても、私があなたを再び受け入れる』と言ってくれた。だから…私は人間界に来た」

 …そんな事情があったのかよ。

 俺の力を奪い、冥界で実力者として君臨するためじゃなかったのか。

「…リリトナ」

「…尚李を私の我が儘のために死なせてしまった。本当に済まないと思っている。謝るだけでは到底償えるものではない」

「…」

 何も、言い返そうとは思わなかった。まだ、こいつはきっと何か言いたいことがあるはずだから。

 それに、今更感もある。本当は不安でしょうがないが、考えていては押しつぶされそうになるから、現状を受け入れるほかない。逃げだと思うが、「俺」が「俺」として「生きて」いるられれば、それでもいい。

「聞かせてください、姉様。なぜ、人間界なのですか?冥界が…エリュズニルが嫌で、私に道を譲るというなら他にいくらでも方法があったというのに…」

 声を震わせ、必死に言葉をつなぐヴェリーチェ。

 こいつはこいつなりに、姉のことを心配して追いかけてきたんだろうな…。

「ヴェリーチェ。私は常々思っていたことがある。ヘルヘイムに訪れる者達は、なぜあのように…後悔の念も無く、過ごしていられるのだろうか、と。まあ、残してきた家族が心配だ、まだやりたいことがあったのにという声も聞くが…総じて、運命と割り切り次の時を待っている。煉獄に逝く者達は人間界に恨みを抱き続けているが…」

 全員が、黙って続きを待つ。

 ふと、割れた窓ガラスの外側にケニーがいることに気付く。

「ケニー、どうした?」

『ヴェリーチェが妙な行動を起こすようなら止めにかかる』

「わかった、でも早まるなよ」

『笑止、誰に言っている』

 もちろんこれは俺達だけの会話だ。不思議なことに。

「人間界とはどのような場所なのか、興味が湧いた。誰も居ないのを見計らって、エリュズニル地下の冥鏡を使い人間界を覗き込んだのだ。するとどうだ?醜い部分は確かにあるが、それ以上に美しい大地、人々の営み。有限の時間の中で、いかに立派に生きようとも死は等しく訪れる。それを繰り返し、少しずつ進歩を遂げていく人間、そして生物…我々魔族から見れば、何て滑稽なのかと思ったよ。だが…」

「この者、なのですね。姉様…」

 全員が、俺を見つめる。

「…よせやい恥ずかしい」

 なんて言えるわけないだろ、こんなシリアスな状況で。

「尚李、お前は私にとって…魔族にとって、最大の敵であり、救世主でもあるのだ」

「…言ってることがよく分からんが?」

 どっちだよって。

「あの~…私完全に置いていかれてるんですけど~…」

 半笑いで、手をそーっと挙げる知佳。すまん、もう少し待っていてくれ。

「尚李、どうする?お前は知佳を巻き込みたくはなかったのにな…だが、もう説明逃れは無理だろうな」

「…」

 もうちょっと、心の準備をする時間が欲しかったけど…。

 …よし、言うぞ。

「知佳、実は…」

「ううん、大丈夫だよ兄さん」

「へ?」

 遮られた。決心したというのに…。

「例え兄さんがどんなでも、私にとっては変わらない。優しくて、厳しくて、あったかい…そんな兄さんに、変わりはないよ」

 涙を浮かべながら、必死に笑顔を作ろうとする知佳。

 …さすがに、今までの会話で察したのか。驚くようなことばかりだったろうに、取り乱さず、じっと、ただこらえて聞いていてくれたんだな。

「…知佳。ありがとう」

「えへへ、兄さんのこと大好きだもん。これくらいどうってこと…ないよ」

 ごしごしと、涙を拭う。

「ぐすっ…ごめんね、リリトナちゃん。続き、話してよ。リリトナちゃんのことも、よく分からなかったけど…ちゃんと知りたい。その上で、仲良くしたいよ」

「知佳…」

 お前、そんなにしっかり話せる奴だったっけ…最近変な言動ばかりだったから忘れていたが、元々は物静かでよく考え事をしたり、本を読み耽っているのが好きな子供だったんだよな。いじめが原因で引きこもってた時期も重なってたから、思い返せばホントはこいつはまともな妹なんだ。

「尚李。私はお前を利用しようとした。それに偽りはない。だが、本当の理由は違うところにある」

「…というと?」

「…ヴェリーチェを見て分からぬか?」

 浮いていたはずの彼女はすでに力を失ったのか、へたり込んでいる。その足下からは、血が滲んできている。

「ちょ、馬鹿お前、血出てんぞ…ちょっとそっち動けるか?」

 と言ってもだいぶ辛そうなので、手を貸しベッドに座らせる。

「どういうことだ?リリトナ」

 何もしてないのにヴェリーチェが消耗していること、それにさっきの話の続きを促す。

「…尚李の力は、魔力で不運を引き寄せることだと言ったな。つまりは、悪しき意図や魔力を引き寄せていると言うことになるのだが…お前は、ずっと生きて来られたな」

「ああ」

 おかげさまでな。

「その引き寄せたものがどうなっていたか、まで考えたことは無いのか?」

「全く無い。不幸中の幸いでなんとか凌いできただけだと」

 そう、それは俺の反射神経の良さであったり日頃の行いが良くて髪の祝福を受けているとか勝手に思いこんではいるけどな。

「…引き寄せた魔力を、尚李が吸収しているのだよ」

「…へ?」

 苦しそうに、ヴェリーチェは俺を見つめる。

「…傍にいれば、私の魔力はいずれ尚李に吸収され、無力となる。限りなく人間に近い存在になれる。だが、それはつまり死期を確実に早めることになる…」

「は?じゃ、じゃあ俺を殺す必要なんて無かったんじゃ…?」

 だとしたら、これは酷い話だぞ。

 殺す理由もそうだが、そもそもリリトナが今まで俺に言ってきたことの殆どが嘘だったんじゃないか。

「いや、必要はあった。人間界にある魔力を吸収し続けている以上、いつか限界が来る。そうなると、抱えきれなくなった魔力が尚李自身を冒していくだろう。そうなると器は暴発し、尚李は死ぬ。飛び散った魔力は人々に降りかかり、災厄が訪れる。私が見たかった人間界は…そんなものじゃない。だから私がその魔力を一時的に解放する必要があった。それが…その翼だ」

 うわ、契約の証とか言ってたのにそれも嘘かよ。

「その時に、私自身の魔力と交換していたのだ。私の魔力は尚李に吸収され、それまで尚李が抱えていた魔力は私が請け負った。融合しない魔力はやがて無と化す。ならば少しずつ命の灯火が消えていく間に、人間界を楽しむことが出来る。私にとってそれは望んでいることであり、救われること…即ち、尚李を救世主と呼んだ所以だ」

「そうだったのか…」

「私がただ悪しき思考の持ち主で、尚李を消そうと考えていたとしても、それは不可能なのだ。あらゆる魔力を吸収されては手も足も出ない。だから、今のヴェリーチェにとっては最大の敵だな」

「なるほどね…」

 まあ、分かったような分からないような。

「姉様…そんなにも高度な術式まで使えるのに、なんで…」

 ひっく、と泣きじゃくるようにヴェリーチェは泣く。

「ごめんなさい、ヴェリーチェ…あなたには、辛い思いをさせてしまったわね。話せば反対されると思って言わずに出てきたのだけれど…あなたの気持ちを考えていなかったわね…本当にごめんなさい。大事な妹なのに…」

「姉様…姉様ぁーーーーーーーーーー!」

 がし、とリリトナに抱きつくヴェリーチェ。

 誤解が生んだ姉妹喧嘩って、こうして終わるんだな。

「私の方こそ、ごめんなさい…姉様」

「うう…感動じゃ…」

 知佳、お前は何なんだ。なぜここでお婆言葉か。

「尚李を…奪ってしまうことをお許し下さいね」

「うぐっ…がはっ…!?」

 どす、と倒れるリリトナとそれを見て不敵に笑い立ち上がるヴェリーチェ。

「…本当に、どうしてしまわれたのかしら。命を狙われる可能性だって充分にあると分かっていたはずですのに…」

 ふぅ、とため息をつきこちらを見つめる。

 その手には、割れたガラス片。赤く染まり、ぽたぽたと血が垂れている。

 倒れたリリトナからは、徐々に赤色が広がっていった。

「な、何てことしやがる!お前…!姉なんだろ!どうしてこんなこと…!」

「…言ったでしょう?姉様を連れ戻すと。身体は死しても、魂はエリュズニルに還る。説得は困難だと判断しただけのことよ」

 強引なことを…!

 外に目を向けると、ケニーは既にいない。

「どこを見ているのかしら?…ああ、あの犬ならとうに撃ち落としたけれど、それが何か?」

 うっわ、モロバレだったんじゃねえか。肝心な時に役に立たねぇ…。

「犬?ケニーのこと?」

「ケニー?そんな名前が付けられていたのね、馬鹿馬鹿しい…まあいいわ。あなたには関係のない事よ。手出しするというなら…あなたも、殺して差し上げましてよ?」

「…ッ!?」

 知佳の動きが、止まる。

「知佳ッ!?って、あれ?」

 俺の体も動かせない。

「そこで見ていなさい、私だってもう魔力は残っていないのよ。余計な真似しないで」

 魔力が残ってない?だったら、消耗させれば奴の動きも止まる…?

 …よし、引き延ばしてみるか。

「ヴェリーチェ、俺をどうする気だ!」

 ま、完全に負けセリフから入ってしまったが。

「決まっているでしょう?あなたから姉様の魔力を奪い返す。私はそれを受け入れるだけのキャパシティは持っているわ」

「そ、そんなことしたら俺死んじまうだろ!」

 弱い立場を見せて、ヴェリーチェに優越感を与えよう。性格的に釣れそうな感じではあるから、気持ちに余裕が生まれて、どこかで隙が出来るはずだ…!

「知らないわ、そんな事。元はと言えばあなたがそんな意味不明な力をもっているのがいけなかったのですわ。一体、どんなイレギュラーで生まれたのか…」

「知るか!そんな事!」

「…それは、私の所為なの!」

 場を劈く、知佳の叫び声が聞こえた。

「…何だと?娘、どういう事だ」

 いいぞ知佳、でたらめとはいえ時間稼ぎをしてくれるとは…!

「兄さん、それはね…天使様の加護なんだよ」

「てんしさま?」

 状況に思考回路が追いつかなくなってついに壊れたか、知佳よ。

「…」

 ヴェリーチェは何も言わない。次の言葉を、ただ待っている。

「兄さんは憶えていないだろうけどね…私、小さい頃から引っ込み思案で、暗くて、それにクラスで苛められてて…あの時は、児童館で絵本を借りて家に帰る途中だったの」

 昔のこと、か?

 あんまり憶えていることは多くない。何せ、毎日がエブリデイ危険日だったからな。

「その帰り道で、クラスの男の子達が遊んでいる公園があるんだけど、その日はたまたま誰も居なくて。天気もいいから、ブランコに乗りながら絵本読もうかなって思って」

 それは危険だ。揺れながら読むテクニックは難易度が高い。

「さすがにブランコを漕ぐことはできなかったから、ただ腰掛けて絵本読んでたの。そしたら、いじめっ子達が来て…」

 あー、絡まれたか…。

「いつもの悪口と、いつものちょっかい…でも、その日は絵本の内容がいじめっ子に立ち向かう子供の話だったの。だから、私もそうしたいって思って…抵抗したの。そしたら、怒って殴ってきて…」

 そんなことがあったのか。知らなかった…っていうか、憶えていない。

「まだ帰ってきてないからって、母さんが兄さんに私を捜させに行かせてたって、後で聞いた。私が大泣きを始めちゃった時に兄さんが来て、いじめっ子達とケンカし始めちゃって…でも、兄さんは追い払ってくれたの。ボロボロになってね」

 にこ、とヴェリーチェの術に掛かりながらも笑う。

「ごめん、憶えてない」

「そうだと思うよ…。だって、その後に…」

「…くっ、ここまで、か…」

 ふと、体が軽くなる。手足が動かせる。

「あ、動ける…はあ、助かった~」

 ぺた、と座り込む知佳。

 ヴェリーチェはといえば、吐息荒く再びベッドの上に座り込んだ。

 …知佳の話の続きは気になるが、今はリリトナをどうにかしないと…。

 リリトナに近付き、その身体に触れる。

 びりっ、と静電気が流れるような感覚。これが魔力の共鳴だというなら、リリトナはまだ死んでいない…?

「はあっ、はぁ…ッ…」

「…ヴェリーチェ。悪戯が過ぎたな」

 このまま放っておけば、こいつはこのまま死に、元いた場所に還されるだろう。

 でもそれは可哀想だ。

 ヴェリーチェの本心はきっと、リリトナと一緒にいたいって気持ちの方だと思う。会いたい、会えて嬉しいと思ったから、あんなに泣いたんだ。演技じゃないと信じたい。

 それに本気でリリトナを消す気なら、俺達を相手にせず真っ先にリリトナを殺していたはずだと思うから。

「…はぁっ、はぁ…。ふ、あなたに何が分かるというの?何千年、何万年と共に過ごしてきた姉様との時間…それを失ってしまったのよ…共感しろなんて言わないわ、もう放っておいて頂戴…」

 こいつはきっと、受け入れる。

 このままここで果てて、母親の元に戻らなければいけないということを。

 その先で、リリトナとまた一緒に暮らせると思っているだろう。だが、リリトナの本当の気持ちを聞いた今、それが叶うかどうかの保証はない。

「放っとけるわけ、ないだろ…」

 でも、どうすればいい?

『桐堂尚李よ…聞こえるか?』

「その声は、ケニー!?」

 驚いた。撃ち落としたとか言ってたからもう死んでるものかと思った。

『勝手に殺すでない。それよりも…お前はどうしたいのだ』

「うーん…」

 どうしたいって、二人とも助けたいに決まってるだろ。

『リリトナのことは分かる。だが、なぜヴェリーチェまでも助けようとする?』

 そんなの決まってる。

「姉妹だからだろ。どっちか死んだら、それこそ孤独になっちまう。例え魂が還ったとしても、別々になるのは駄目だ」

『…身勝手だな』

「まあな。俺も俺自身そう思ってるから」

『…そうか。実直なのか我が儘なのか分からぬ、面白い奴だ…お前に飼われるのも、良かったのかもしれないな…』

「え?」

『桐堂尚李、約束を果たそう』

 約束?

『手を貸す、と言っただろう』

 ああ。

 でも、どうやって…?

『一時的に、我がお前に憑依する。その間は我が魔力でお前の身体を維持する。行き場を失ったリリトナの魔力は、自然と持ち主に還る。この時点でリリトナは元に戻れる』

 そいつはいいな。で、ヴェリーチェはどうやるんだ?

『我が魔力が消失する前に、お前から離れヴェリーチェに憑依する。我が魔力の触媒となれば、ヴェリーチェは生存できるだろうが…そうなると問題が二つある』

「問題?」

『一つは、ヴェリーチェに憑依することで我が魔力は徐々にヴェリーチェに吸収されていく。魔力の絶対能力に差がある以上、避けられぬ。実体を維持する魔力すら失い、我は人間界から消える。とはいえ元いた場所に戻るだけで、我としては問題ないのだが…そちらはどうだ?』

 うーん…それはちょっと困るな。知佳がケニーのこと超お気に入りだし。

『ふ、そうだな…だが、そうする以外に今のヴェリーチェを救う道はない。リリトナに魔力が戻ったとしても、身体の損傷が激しい分そちらの修復に時間が掛かるであろう。魔力を注ぐに至る前に、ヴェリーチェが死ぬ。それから、もう一つの問題がある』

 忘れてた。もう一つって何だ。

『魔力を失った桐堂尚李自身がどうなるかの保証はない』

 …そう来たか。

『リリトナの回復を待つ余裕は無い。それに、魔力を取り戻したヴェリーチェがまた刃を向ける可能性もある。致死率は限りなく高い。それでもなお、この姉妹の生存を望むというか?』

「…大丈夫だよ、兄さん」

「知佳?」

「兄さんには、天使様の加護があるんだもん。だから大丈夫」

 またそれかい。

「ケニーがいなくなるのは寂しいけど、兄さんがそう決めてるなら…そうしていいと思うよ。ケニーも、ありがとう」

 って、俺達の会話丸聞こえだったのか!?

『この期に及んで隠す必要もあるまい?』

 こいつ、わざとか…!?

『そう憤るな。話は早いだろう?』

「まあ、そうだけどさ…」

『桐堂尚李。妹を信じてみてはどうだ?』

「天使様の加護か?うーん…」

 じっと、ケニーと知佳に見つめられる。

 目の前には、今にも息絶えてしまいそうな二人の冥界王女様。

 …悩む必要なんて、無いんだよな。正直、滅茶苦茶怖いけど。

 リリトナが俺のこの翼を出した時、死ぬほど…ってか死んだほど苦しかった。あの感覚をまた味わうことになると考えると、な…。

「このまま二人を放っておけば、きっと平穏な日々なんだろうけどな…」

 知佳が言う天使様の加護に守られ、俺は生き延びる。

 リリトナとヴェリーチェは、姉妹喧嘩の果てに親元に還される。

 本当なら、それでいいはずなんだけど。

「ケニー…やってくれ。お前のことも、知佳のことも、ヴェリーチェのことも、リリトナのことも…全部信じてやるよ。それに今生きていること自体奇跡に近いんだし…生きていることに感謝してる。だから、どうなっても後悔は無い」

『…戻れなくなるぞ。それでもか?』

「ああいいぞ 決意が揺らぐ その前に やってくれよと 俺は語りし」

『…承知した。しかし何だその妙なリズム感は…』

「気にするな。動揺をひた隠しにするために平静を装っているだけだ」

『…馬鹿め』


 閃光が 辺りを 包む 。


 それを見つめる姿が桐堂家の外に一つ。

「お兄さん…どうか、無事で…」

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