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安息の場所はもはや激動の大地となりやがて戦場と化す前兆


 スーパーでドッグフードを買い、帰宅する。

 途中、道に迷ったというお婆さんを交番に連れて行ったら徘徊癖のあるお婆さんで家族から捜索願が出されていたと知り駆けつけた家族にやたら感謝されたり、そう言えば営業時間終了間際のパン屋は最後に売り切りセールをやるのを思い出して寄ってみたら普段は売れ残らないような人気のパンが残っていてなんと八割引で買え、ふらっと立ち寄ったコンビニで好きなロボットアニメの一番くじを買ってみたら特賞を引き当て、それを貰って店を出たら知らないお兄さんに声をかけられ「それどうしても欲しいので売ってください」と懇願され困っていた所これと交換でどうですかと言われ見せられたのが映画館のフリーチケット四枚でたまたま見たい映画がやってることを思い出したのでまあいいかと思い交換してあげたりと、いろいろあった。

 うん、やっぱり俺って、本当は幸運体質なんじゃないか?リリトナの呪術が無くなって以降、なんだかいいことが続いている気がする。…まあ、ケニーという予想外の事例もあるわけだが。

 そうだ。餌あげるまえにちょっと情報引き出しておくかな。

 帰宅すると、部屋に戻っていたはずのリリトナがリビングに戻ってきていた。うーん、いきなり計画倒れだ。

「尚李、遅かったな。ケニーがお待ちかねだぞ」

「悪いな、ちょっといろいろあって。ほれ、今やるから待ってろよー」

 缶を開けて、もう使わないであろう古い皿に餌を盛る。餌容器なんて無駄な買い物しなくても、これで充分だろう。

『…これが、食事か?』

 ぽかーん、として餌の前に立ちつくすケニーは、哀愁を漂わせていた。

「何だよ、犬のでいいって言うから飼ってきてやったんだぞ?」

『う、うむ…』

 なんだ、躊躇ってるな。まあ見た目はそんなに美味そうに見えないからな。

「いいから食ってみろって」

『…』

 かぷ、と一口食らい付く。

 すると、美味かったのかがつがつと食べ始め、あっという間に平らげてしまった。

『…もう終わりか』

 げふ、とゲップをする。おっさんかお前は。

「よかったなケニー、これで死なずに済んだな」

 そんな大げさな…。

「ところで、リリトナは何しに戻ってきたんだ?部屋に行って寝るとか言ってなかったっけ」

「ああ、そうだ私の寝装束はどうしたのかと思ってな」

 寝装束?

 ああ、パジャマのこと言ってるのか。朝洗濯しておいたから、大丈夫だと思うが。

「洗濯機の中にあると思うから、持っていけば?」

「わからぬ」

 まあそうだな。


 脱衣所に向かい、入ろうとしたところ中から知佳が出てきた。

「お、兄さんも風呂かい?」

「いや、リリトナのパジャマを取りに。ってかまあ、お前の勝手に借りたんだけどな」

「あー、いいよいいよ全然おっけー。ほんじゃ髪乾かしてくる~」

「おう」

 知佳は上機嫌で自室へと戻っていった。

「何だ!この香りは!」

 当たりに漂うフローラルな香りに、過剰なまでの反応を示した悪魔さん。フローラルとは真逆の血生臭い香りの方がお好みなのだろうか?

「ああ、シャンプーだろ」

「何だ、それは!」

「何だ、って…そうだよな、風呂なんて必要ないんだよな。知るはずもないか」

 ま、リリトナにとっては無縁の場所ではあるな。

「…尚李」

「何?」

 そのような物この世から消し去ってくれるわー!とか言いそうだ。

「私も…その、いい香りをさせてみたいのだが」

「…はい?」

 おっと、これまた予想外だ。

「駄目か?無理にとは言わないが」

「いや、いいけど。風呂必要ないのかと思って」

 昨日のアレがどうしても忘れられない。その証拠に、風呂の扉はまだ壊れたままだ。

「そうか!よし、では早速」

 ずかずかと、風呂に入ろうとする。

「ちょっと待った!」

「何だ?」

 全く、何も知らないのは仕方ないがせめて聞いてからにしてほしいものだ。

「ここは、身体を洗う場所なの。だから、服は脱がないといけないんだよ」

「そうなのか?では」

 そそくさと来ていたままの制服を脱ぎ捨てる。

「だから、ちょっと待てって…」

「何だ、まだ何かあるのか?」

「とりあえず、中入ろう」

 リリトナを案内し、風呂の説明をする。何て状況だ…。

「ここをひねると、お湯が出る。で、これがシャンプー。ポンプ押せば出るから、そうだな…髪長いし、2、3回押して手に出して。それをお湯と一緒に髪に浸透させて洗うんだ」

「ふむ」

「で、全体洗い終わったら流して。お次はコンディショナーだな」

「何だそれは」

「これの方が多分いい香りすると思う。で、流した髪から少し水気を切ってから、同じように2、3回ポンプを押す、あとは髪になじませて、数分おいてから流す」

「ふむふむ」

「身体洗うのはこのタオルでいいかな。こっちがボディソープだから、これをつけて泡立てて身体洗うといい」

「ほうほう」

 目を輝かせながら、全ての説明に耳を傾ける。

 その姿勢はいいのだが、なぜ風呂の作業を説明しなけりゃならんのだ。知佳に任せればよかったな…。女の子同士だし、一緒に入れても問題なかったろうし。ってか知佳なら喜んでお供してくれるぞ、リリトナよ。

「こんな感じかな。出る時は扉に気を付けてくれ。お前が壊したままだから危ないんだ」

「何?そうか…どこをどうすれば直る?直してやるぞ」

 ああ、そうだ。こいつなら出来そうだな。

「じゃ、こことここ。こうして付いてたから、こうすれば元に戻る」

 扉を少し持ち上げ、壊れた部分を指差し説明する。

「ふむ…こうか?」

 呪文を唱えると、一瞬で扉は元に戻った。

「すげえ」

「ふ、どうだ」

 便利だな。素直に感服する。

「いや助かったよ、ありがとう」

「ほほほ、大したことではない」

 といいつつ自慢げにしている。

「でも、壊したのはお前だ」

 ぴた、とリリトナの笑いが止まる。

「…さて、風呂とやらを試してみるか」

「おう、頑張れ」

 妙な騒動が起きたら嫌なので、俺はその場を後にした。


 リビングに戻り、ケニーの元へ向かう。

 俺が来たのに気付き、寝たふりをしているようだ。

 カンカン、と先程の餌の缶を叩く。

 がば、と起きて反応しやがる。単純だな…犬そのものの反応だ。

『だ、騙したな!』

「どっちがだよ。無視して寝たフリしてたくせに」

『きゃうん!』

「可愛いフリして誤魔化しても駄目だ」

 ソファに座り、ケニーを呼ぶ。

「別にどうするってわけじゃないんだ。聞きたいことがあってな」

『ほう…構わぬ、言ってみろ』

 素朴な疑問をぶつけてみる。

「お前、何しに人間界に来たんだ?リリトナは、俺の不運力に魔力が乗ったことで異界の者を引き寄せたとか言っていたけど…」

『何故って、それは…はっ!?』

 何かを言いかけて止まった。何だこいつ、何か隠してやがるな…?

「それは?」

『…』

「…」

『きゃうん☆』

「うぜーよ!」

 少々、強攻策に出るか…。

「喋らないと…こうだっ!」

 ケニーをひっくり返し、腹の毛をもさもさしてやる。

 腹どころか全身の毛をもさもさしてやる。

『やっ、やめろ…ぐはああああああああ』

 …なんて可愛くないリアクションだ。

『わ、わかった。話すからやめろ!』

 ようやく観念したか。

『はぁ、はぁ…』

 しかし顔は満足そうだぞ。実はちょっと嬉しかったのか?涎まで垂らして…。

「で、どういう事だ?」

『…我は、遣わされたのだ』

「誰に?」

『…』

 わきわき、と手を動かしてみせる。

『や、やめろその動きは…。…止むなしか』

 ちょっかいを出さず、そのまま待つ。

『リリトナの母君…ヘルだ』

「母君…?」

『リリトナがエリュズニルから逃げ出したと。連れ戻してこいとの命令が下ったのだ』

「…逃げ出した?」

 想像しなかった答え。

「っていうか、エリュズニルって何だ?」

『ヘル様とそのご子息達が暮らす宮殿だ。そしてそこにある、人間界と唯一直接行き来できる冥鏡…それを通って逃げ出したのだ。自分が通った後に鏡が壊れて使えなくなるように、時限系の呪文を施していたようで…居場所の特定には時間が掛かった。ただ、桐堂尚李…お前の存在を求めている、ということは分かっていた。故に、我はお前を捜していたのだよ』

 ふぅ、と一つため息をついて言葉を続ける。

『ここまで話してしまった以上、我もヘル様に罰を受けるだろうな…もっとも、このような姿のままでは戻るに戻れぬが』

 自嘲気味に笑う。

「なあ」

『何だ?』

「そんな大ごとなのか?」

『いや、別段そうと言うことはない。神、天使、魔族…人間界に現れることはそう禁忌とされることではないからな』

「って、じゃあ何で…」

『…妹君で在らせられる、ヴェリーチェが激高してな。あれほど仲の良かった姉妹だったのだが…とにかく、手が着けられなかったのだ。ヘル様はリリトナの選択を許容したのだが、それがヴェリーチェは気に入らなかったのだな。だから、ひとまずはヴェリーチェを抑えるためにと遣わされたわけだ。正確にはヘル様の命令ではなく、ヴェリーチェによる命令だな』

「ちょっと待った」

『質問の多い奴だな…まあいい、言うてみよ』

「唯一行き来できる鏡が壊れたってのなら、どうして来られたんだ?」

 不思議でならない。

『無知だな』

 ええ、そうでしょうとも。知らないことだらけだ。

『行き来、の意味くらいは分かるだろう。その冥鏡一つさえあればそれが可能だ。だが、別に鏡は一つじゃない』

「へ?」

 何ですと?

「つまり、来るだけの…一方通行の鏡はあるって事か…?」

『そうだ』

「うわぁ…」

 何だ、そんなの本気出したら悪魔達が一斉に襲ってくることも考えられるじゃないか。

『だが、通行は限られた者でないと不可能だ』

「あ、そうなんだ…」

 無尽蔵に現れるということはなさそうだな…驚かせやがって。

『それに、どこに落ちるか分からぬ。冥鏡とは違い、厄介な代物なのだ』

「…よくそんなのでこっちに来ようと思ったな…」

 さすが、肝が据わってるというか。

『…いや、我自身の意志ではない。ヴェリーチェと共に来たのだが…どうやら、着地点が少々ズレたようで、行動を共にすることは出来ず終いだ』

「え、まじで?」

 姉が出ていったのを怒って、妹自らも探しに来てるのか?だとしたら、壮絶な姉妹喧嘩が始まりそうな気がする…。

『ああ。だが…やはり魔力はかなり消耗しているはずだ。全くもって共鳴を感じることがない…』

 …それって、その子はその子でかなりやばい状況なんじゃ…?

 がちゃ、と扉の開く音がした。

「尚李、出たぞ…ん?どうした?」

 あまりにも突然現れたもんだから、動揺してケニーをもっさもさしてる最中だという演技を始めてしまったではないか。ケニーもまたそれに合わせてくれたから驚いたが。

「いやー、こいつこうすると喜ぶんだよなー!」

「きゃうんきゃうん!」

 際どい。これは際どい状況だぞ…!

「ふむ…?まあ仲がいいのは良いことだ。ところで尚李、私はいい香りがするか?」

「え?」

 っていうか、あなた誰ですか。

「どうだー!知佳ちゃんはすごいだろう!」

 後ろからひょい、と知佳が顔を出してきた。

「いやー、タオル戻しに脱衣所に戻ったらまさか裸のリリトナちゃんに会えるとは思わなくって、これはもうやるしかないと思いまして」

「で、この有様か」

 手取り足取り世話を焼いた、と。

「で、どうなのだ尚李」

「あ、ああ…」

 確かに、いい香りがする。

 髪にもツヤが出て、サラサラだ。

「いいんじゃないか?でも、何故ツインテールにしたんだ…」

「私の趣味!きっぱりと!これでもうリリトナちゃんは私の妹だ!」

 だ!って…凄いよお前。自分の趣味をそこまで人に反映させるなんて。

「リリトナはそれで満足か?」

「う、うむ…まあ、知佳は馬鹿だが悪い奴じゃないからな、今回は任せてやったのだ」

 苦しいぞ、リリトナ。本当は嬉しいくせに。

 顔を紅潮させ、恥ずかしそうに俯いている。

 うんうん、と一人納得の表情を浮かべる知佳はさも当然のようにこう言った。

「兄さんもこういうのがいいかと思ったんだ!」

「はぁ?」

 まあ、否定はしないけど。だからといって肯定するわけでもなく。

 無愛想で凛々しい顔つきだったリリトナが、髪型をツインテールに変えてパジャマ姿で登場だぞ。ミスマッチ感とアンバランスさが逆にいい味出して、心が奪われそうになるではないか。ああ危ない危ない。

「ふ、私の魅力に見とれたか。よかろう、とくと眺めるがいい」

 そして自意識過剰なお嬢様。

「ふぁ…」

 知佳があくびをする。

「ふ、ふわぁ…」

 それに釣られてリリトナも大あくびをかく。

「ふぁ、ふしゃぁ」

 更に釣られてケニーまでもが。

「ふわぁ…ん」

 そして俺までもが。それほど疲れてる訳じゃないのだが、なぜあくびは伝染するんだろうな…。

「ちょっと早いけど、私寝るね…おやすみー」

「私もだ。ではな」

 二人は自室へと戻っていった。

「さて、俺も風呂入っておくかな…」

『桐堂尚李よ』

「ん?」

 ケニーに呼び止められ振り向くと、お座り状態でこちらを見つめている。

『…お前はもしや、リリトナに…殺されたのか?』

 一呼吸置いて、答える。

「…ああ。下僕として生きていくしかないんだとさ。まあ、命を救われたのは事実だし、本意じゃないけどこうして生きてられるのは、リリトナのお陰だから。状況を拒もうとは思ってない。ただ…」

『ただ?』

 不安がないと言えば嘘になる。

 こうして生きていることに対する感謝も、もちろんある。

 自分の将来が奪われた絶望感だってある。

 でも、そんなことより…。

「知佳にだけは、何も知られたくない。あいつは本当に無関係だから、俺みたいな目には遭わせたくないんだ。知ってしまえば、あいつはきっと…昔のように…」

 昔のように、引っ込み思案で、人を信じることの出来なかった…父親が居ないことを馬鹿にされ、傷つき泣いていたあの暗い知佳に戻ってしまうかもしれないから。

 俺を殺し生かしているリリトナと、それを隠している俺。もし知佳と俺が逆の立場だったら、と考えると…どうしようもない不安感に襲われそうで、耐えられない。

「でも、何でそんなことを?」

『いや、特に深い意味はない。だが、一言謝らせてもらおう』

「なんで?」

『本来、冥界とは死後の魂の行き着く場所の一つだ。そこ住人が、私欲とはいえ人を殺めてしまった。これは、我々魔族としても本意ではないのだ』

 ふむ、そうか…。

 よく聞く悪魔とか魔族ってのは、理不尽な殺戮と虐殺を快楽として得ているとか、そんなイメージなんだよな。

 む、そう思ってくれているということは、ちょっと利用させてもらおうかな。

「ケニー…本当にそう思うなら、俺に協力してくれないか。知佳に、俺達の正体がバレないようにさ」

『協力だと?我が?人間に?笑わせてくれる』

 きゅうんきゅうん、と鳴く声がする。それはひょっとして「くっくっく…」とかいう風に笑いたいのだろうか。

『…いいだろう。我としても無用な騒動は避けたいのでな。罪滅ぼしとまではいかないだろうが、可能な限り手を貸そう』

「そっか、ありがとう。ソファ使って寝てもいいから。ただし、爪は立てるなよ?」

『了承した』

 ぴょん、とソファに飛び乗り寝場所を探している。

「じゃ、また明日」

『うむ』

 何故か頼もしく見えたポメラニアン型凶暴生物を残し、リビングを後にした。


 風呂を終えて、自室に戻る。

 リリトナと会ってからというもの、慌ただしい時間ばかりだった。

 時刻はまだ午後九時、久々に趣味に時間を使おう。

 平積みにしてあったハードカバーの本を開き、しおりの挟んであるところから読みかけの本を読む。

 静かに、ただ時間が流れていくこの感覚がたまらなく心地いい。ページをめくる音だけが、今ここにいる実感だ。

 …。

 ……。

 何だろう。

 静かすぎる。

 不安感?いや違う。

 もっと別の何かの…。

 誰かに見られているような感覚。

「やっと見つけた…」

 透き通るような声が、耳を、脳を貫く。

「…?」

 リリトナか?

 でも、違うな。似てはいるけど、違う声だった。

 そもそも今頃寝てるはずだ。

「姉様をたぶらかしたのは、あなたね…」

 窓が割れ、部屋に散乱する。俺のための静寂は失われた。

「うわっ!?」

 カーテンの向こうに、人影が浮かぶ。

「あら…?これはどういうことかしら…?」

「それはこっちのセリフだー!何してくれてんだ!ってか誰だ!?」

 散らばったガラスの上に浮く、一人の少女。

「ふぅん…?あなた、生きるリビングデッドね。どうやら手遅れだったわ」

「はぁ?」

 いろいろと言いたいことはあるのだが、どうしたものかな…。

「まあいいわ。ねえ、私にもあなたの魔力を頂戴な。実家に帰れなくて困ってるのよね…お願い」

 す、と俺の耳の横でそう囁く。綺麗な声なのに、言ってることが滅茶苦茶だ。

 俺の背中に手を回し、また別の言葉を囁く。

「・・・・・・・・・・」

 聞き取れるわけがない。だって、日本語じゃない。

 その瞬間、急に背中が重くなり立っていられなくなる。

 膝を着き、背中を見る。

「うげ…」

 また、あの黒い翼が出てきやがった。

「あら、すごい…こんなに大きいなんて…これを私の中に入れられるなんて、考えただけでゾクゾクしちゃうわ…」

 何だそのビッチなセリフは…。

 ってか、翼…前の時より大きく、重くなっている。大丈夫なのかこれ…。

「…お前、ヴェリーチェか?」

 確信を持ち、そう問う。

「あら?なぜ知っているのかしら?」

「俺は天才だからな」

「そうは見えないけど?…この気配、そうかケルの奴が…ちっ」

 舌打ちをして、こちらを睨みつける。

「まあ、それはどうでもいい事よ。姉様を取り戻すために…本当なら、死んだと知らぬまま殺そうと思ったのだけれど…あなたにはもう一度死んでもらうから」

 空気が静まる。

「兄さん、大丈夫?何かガラス割れたような大きな音がしたけど」

 げ、知佳…!?

 まずいな、この状況じゃどうにもフォローのしようが無い。

「だ、大丈夫だ、ガラス散らばってて危ないから開けるなよ!」

 と、当たり障りのない事実だけ告げる。

「あら、助けを求めた方がよろしいのではなくて?」

 ほほほ、と挑発的な笑みを浮かべる。

「ほら、あなたのその背中の素晴らしい物を見てもらいなさいなっ!」

 ばたーん、と扉が開く。

「うえっ!?急に開いた…兄さん、大丈夫?」

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