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冴木文書

 キラー1・雨宮学がキラーサイトで発表した冴木文書の解読が終わり発表日が来た。


 前日に雨宮のツイッターにてゲームキラーの全ての人物は明日の午後七時にトゥルースケールのキラーサイトにログインせよとの伝令が下された。別に雨宮の指示に従う必要は無いが、このゲームの確信に迫っている人間の言葉である以上、全てのゲームキラーは従わざるを得ない。


 夕闇が落ちて行き、やがて夜になった。すでに夕食も済ませている秀人は、机の上のパソコンの前で残りの五分をまだかと待つ。ナーコは秀人のベッドの上で鼻に豆を入れながらフンッと秀人の背中に向けて飛ばしている。

 しかし、秀人はイラついていない。初めこそはイラついていたが、時刻が七時に迫ってくるにつれてそれがないと不安でしょうがなかった。せっかく自分が最強クラスになったこの世界の進行と変化を恐れているからである。


(今日は一日中緊張してたからな。ナーコの奴は豆で俺の緊張をほぐそうとしてくれたんだろ。良い奴だ。さて……)


 瞬間、夜空が白く発光し白い粒子が世界に満ちる。これは冴木の演出だなと思いながらキーボードを叩く。そしてパスワードを入れキラーサイトにログインした。

 雨宮の呟きを見たプレイヤーの多くがトゥルースケールのサイトを閲覧している為、多少画面が開くまでのラグがあるがログインしてしまえばそんな重さも気にならなくなった。そして、二人は真新しくなるキラーサイトのトップにある冴木文書を閲覧する。

 

 4月――。

  明けの明星(融合の日)


 ×××××××××××××××××××××××


 1月――。

  聖王降臨。

  トゥルーアップデート。

  永遠の白。

 2月――。

  十文字の夜(百人の日)

  テンプレ学園崩壊。

  三魔王攻略戦(十人の日)

  聖王騎士団結成。

 3月――。

  煉獄の天空城。

  盟友離別の戦い。(二人の日)

  シエルレクイエム(エンディング)

 

「画像エフェクトか……この予定表はゲームキラーしか見れないらしい」


 そこにはユナイトブレイカーの年間のイベントの予定が記されていた。四月の明けの明星以降のイベントは消失し、一月の聖王降臨までの半年間の予定が無い。実際にもこの半年間イベントというイベントは存在せず、ここまでに至る。


 来月からのイベントの下には百人の日とある。それはつまりその時点での全バトラーの絶対数だろう。バトラーには各種の分野で才能ある者がいるが、その数を一気に百人にするのが百人の日であるらしい。それはつまり――。


「この予定が本当ならこれからユナイトブレイカーは完全なデスゲームになるぞ……ダンジョンは完全に死の世界に変わる」


 それを閲覧した二人の思考は行き場を失う。すでに終わったイベントと残り二ヶ月のイベントの変貌ぶりに驚愕する。半年間特別な事が無かったはずなのに、堤防が破壊され濁流が全てを呑み込むようにこのゲームが変化して行くのがわかる。


「聖王降臨にトゥルーアップデート……いつの間にかイベントは進んでいたようだな。聖王とはラスボスか? そいつを倒せばこの世界は終わるのか?」


 そんな事を考えたくない秀人はカーソルを移動させゲームキラーという項目をクリックした。そこにはゲームキラー総勢十名の写真とプロフィールが掲載されている。ナーコもその画面を眺める。


「ネットでロリ美少女とか言われてたキラー3がこんなオヤジだったのか! ……キラー8は女子大生か。本当に色んな奴がいるな……って、何で俺のプロフィールがニートなんだ!?」


「ねぇ、プロフィール覧のキラー名簿の顔写真に×がしてあるのは何で?」


 画面をスクロールさせて見ると、言われた通りゲームキラーの2人に×印がついていた。


「ゲームキラー全てが顔を公表しているわけじゃない……この×印は死亡したと言う事だな。プロフィール覧の横にデッドと書いてあるよ」


 溜飲が下がる思いがし、秀人はここで考えを改めた。


「場合によっては開発者冴木を始末するしかない。この世界をデスゲームに変えた以上はな……」


 ユナイトブレイカーは日本先行で開始された。世界は日本にユナイトブレイカー発生原因があると主張しつつ、裏では自国のゲームキラーを中心としたバトラーを送り込み利権を得ようとする。各国はユナイトブレイカーにおける利益をゲームキラーやバトラーに全てを頼っているわけではないが、ゲームクリアにおいての報酬はどんな願いすら叶えるというのは本当なのかを知り、それを自国に還元したいが為に多額の金を使い数多のバトラーを買収し傭兵として雇っている。ここでそのプレイヤー達が一斉に動き出しJNDのダンジョン内は混沌を極めた。


「次のクエストはテンプレ学園。俺の学校だ……おそらく、ここでプレイヤーが百人に絞られる」


「行くしかないわね。行かなければ制裁はあるでしょうね。アンタは不登校になってからずっとトゥルースケールから支払われる給与で生活してきたんだから」


「わかってる。わかってるさ!」


 動揺を隠せない秀人は溶け込めない学園生活の一週間を思った。このユナイトブレイカーで戦ってから気がついた事だが、自分は他者より優れている物がないと対等に他者と接する事が出来ない。それは横一列に並ぶ思春期においては努力によりどうにでもなるがものだが、新しい環境に馴染めない秀人にとっては何よりも大事な物だった。


「この世界はこのままだと冴木によって操られるか破壊される恐れがある。この状況を打破するのはゲームキラーしかいない」


「アナタはこのユナイトブレイカーを攻略した時、この世界をどうしたいの? そして開発者の冴木宗助に会ったとしてどうするの?」


「オレは……」


 刺すような瞳のナーコに秀人は戸惑う。このゲームをクリアして自分はどうしたいのか? そして、開発者である冴木宗助を殺すのか――? 

 ただこのままでいたい以外にはっきりとした目的は無い。

 今までの人生にとりとめて大きな目的も無く、ただ流されるままに環境に身を委ねた結果たまたまゲームキラーになった。しかしそれも、激しい意思ではなく流れの中でのものでしかない。


 現在、ユナイトブレイカーの攻略組は自分の命をかけて死地に挑み、新しい世界の開拓に励み世界の崩壊を止めようとしている。別にそんな事は利益にもならないしやる必要も無いのだが、その人々は次なる未来に人の歴史を繋いで行きたいという大義で動いているに過ぎない。人はそれを美とするが、実際行動出来る人間は限りなく少ない。


 この新世界において秀人はこれからどういう判断を下すのか?


 その答えが出ぬまま秀人は次のステージへと足を入れた。


 暗い夜空はいつまでも白く輝き、永遠の白を人々に連想させたまま一月の最終日は終わりを告げた。


 ベランダに出たナーコは両手を広げ、夢遊病者のような瞳で呟く。


「――だから人間は信用できない」


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