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幻武幻影流十代目宗家・高杉幻覚

 突然の裏クエスト追加のトラブルに巻き込まれ、旧友の高杉聖子を失いながらも魔王ミューコルを倒した。しかし、その場のゲッコー盗賊団団員はトドメを刺し勝利に導いた秀人に対して冷たい目を向ける。帯びる黒刀にダンジョンから帰還していない聖子の血の反応があるからである。秀人の黒刀は呪いの剣で味方の死者の血を吸う事で大きな力を得る事は多数のプレイヤーが知っている。その意図を察し、最前線で秀人に殺意を向ける聖子とタッグを組んでいた事もあった口の悪い隼人という男に言う。


「……もともとゲームキャラに殺されれば死ぬのはわかっていた事。聖子を殺したのはモンスターで俺じゃない。それにあいつは……高杉家の人間だ」


「うるせぇチート野郎が。ゲームキラーがトゥルースケールから新規クエストを知らされてねーわけがねぇぞ。まさかお前、幻覚に玲奈を取られたからってわざと仕組んだのか? お喋りの聖子を始末する為に」


「何だと?」


「俺は聖子と仲が良かったから知ってるぜ。玲奈と幻覚とお前の三角関係をな」


「……!」


 絶句し黙り込む秀人をナーコは見つめる。ゲッコー盗賊団も秀人に対して暴言を吐き始める。周囲は次第に殺気立ち騒然と仕出す。


(秀人も色々とあるのね。呪いの力が増した? あの最後のミューコルの怨念のようなオーラが秀人に乗り移ってる? このままだと不味いわ……)


 顔をフードで隠しナーコと気がつかせないようにナーコは無言でいる。

 静かな怒りを燃え上がらせる秀人の背中から湧き出る怒りが具現化したように黒く滲んで煙のように出始めている。その瞬間、秀人は心臓に不快な違和感を感じ吐血した。しかし、目の前のゲッコーの連中に隙を見せたくないため、ミューコル戦の傷のようなフリをする。


(血を吐いた……心臓に異様な不快感……まさか最後のミューコルの黒いオーラの正体は呪いか? くっ!)


 ゲッコー盗賊団の最前線で秀人をあざけ笑う隼人は身体から発生する黒い煙に多少の動揺を見せながらも次々に罵声を浴びせる。


「恋愛じゃチートになれねーかクソ野郎っ!」


「……どうやら死にたいようだな。ゲッコー盗賊団もろとも壊滅させてやろうか?」


 その秀人の瞳は無機質で奈落の闇以外の何物でも無い。背中から黒い怨念のようなオーラが更に発し、目が充血したように赤くなる。


『……!』


 完全な狂化としか言い様の無い変貌ぶりにゲッコー盗賊団は狼狽する。これではさっき戦った魔王の方がかわいいウサギのような状態である。


「あれが奥の手のアサルトシュラウド? まずいぜ……死――」


 唖然とする隼人の言葉が途切れ、チン! と刀が収まる音がすると頭上の岩盤が大量に落下して来る。あたふたするゲッコー盗賊団は死傷者こそ出ないものの大なり小なりの怪我を負っていた。

 ――殺される。

 チートのような強さのゲームキラーに調子に乗り喧嘩を売った事に後悔した。すでに隼人は失禁し声も出ない状態にある。刀を抜き一歩、踏み出す秀人にその場の全員がおののく中――。


「ザコにマジになんな。大工朗じいちゃんが待ってるから帰るわよ」


「! ……そうだな」


 ナーコに後頭部を叩かれ正気に戻る秀人は刀を鞘に納めた。

 そして、代々木公園の代々木の森を後にした。





 自宅に帰宅する前、秀人は代々木の裏ダンジョンで死亡した高杉聖子の死亡を高杉家に告げる事は無かった。それは高杉家の武門の家風がそうさせた。心の中で聖子の死を受け入れ、自宅のシャワー室の壁を叩く。


(……何かが動き出している。確実に何かが動いて……)


 パソコンでトゥルースケールのサイトを開き、自分のキラーコードを入れてログインした。ダメージを受けたスラトはミューコルの闇属性の攻撃を受けた為か回復が思わしくなく、自宅で安静にさせる事にした。


 マウスを動かし何か新しい更新や変化が無いかを調べる。明けの明星以降、トゥルースケールは新宿の本社ビルを残したまま社員の全てが忽然と消え去り、取締役社長の冴木も姿を消して依然としてその消息はつかめておらず、この世界に変革した理由もわからないまま社会は日々を過ごしている。


 学校に通っていない秀人は誰よりも時間の都合がつき、一日で様々な事が行える。全てはトゥルースケールのゲームキラーであるという事が秀人の存在を許している。この世界は、ゲームの強弱で語れる一面を持っている以上、どうしようも無い事であった。しかし、社会問題になっていたニートなどの人口は増加していない。


 ユナイトブレイカーのダンジョン内での死亡は現実での死亡に繋がる故にネット情報でそれを知るニートは外に出る事は無い。増えているのは不登校児やリストラされたサラリーマンなどの自殺願望者がダンジョン内をさまよい、現世への恨みの強い霊魂を残したまま死んだ為に変化したモンスターが出現するのが最近の問題になっている。


 変化したモンスターは生前の意識を宿し、プレイヤーを痛めつけるのが快感になるような者が多い。秀人はそういう連中を見下し、ダンジョン内で出くわせばゲームキラーという名乗りを高々と上げ一瞬の内に倒す。


 その不登校児の一人である秀人は叔父の大工朗との二人暮らしで両親は事故で死亡している。故に学校に行かなくても済んでいた。この世界に変貌してから鍛冶屋を営むようになった大工朗は秀人に自分の作った武器や防具を客だけではなく、秀人にも渡し性能を確かめている。その実証がある為に鍛冶屋の武器、防具は引っ切り無しに注文が訪れていた。体力の無い老人が輝き出した世界は高齢化社会に希望を見出した。


 しかし、最近になっては老兵が去らない弊害も出ている。若者が成長する場が無いのである。自宅の裏にある工房で額に汗を流しながらミューコル戦の戦利品である魔王の小槌で新たな剣を打つ大工朗は、


(秀人はゲーム内での自分と現実での自分の境目がわからなくなっている。このままではいつか暴走するだろう。呪いの武具があのナーコという女が来てからやけに強く黒いオーラを発するようになった。完全に自分の意思が冴木に飼い慣らされている……)


 思う大工朗はひたすらに魔王の小槌で新しい剣を打つ。その最中、コンソメポテチをバリバリ食うナーコが秀人の部屋に現れる。ギクリ! とした秀人は隠さなければいけない本の処理を終わった瞬間だった為に一瞬焦った。


(危ない。夏コミで買ったナーコとミューコルのエロ同人を部屋に放置してたのを忘れてた。こんな物見つかったら至福のナーコとの生活が終わってしまう。全世界で人気爆発のナーコは俺一人のものさ……)


 秀人は振り向かずモニターに映るトゥルースケールのサイトをくまなく調べている。


「アタシお風呂入るけど、何かわかったの?」


「わかったのはキラー1の雨宮が冴木の作り出した今後の予定表を発見したらしい。暗号で書かれている文を全て解読した後、全文を発表するみたいだ。予定では一週間後」


「へー。そりゃ楽しみだわね」


 言うと、スルスルッとシャツと短パンを脱ぐ。

 ゲームキラーの最強戦士であるキラー1である雨宮学がオタク的なゲームという世間の認識を変えた。ユナイトブレイカーに変化した世界でいち早くトゥルースケールのキラー1として数々のダンジョンを攻略し、世界にダンジョン攻略後のアイテムや今後の世界はゲームに強い者が勝つという現実を身をもって教えた。


 そして、芸能界で活躍する有名な女優と交際するなど華やかな私生活を知られる事によりそのルックスも相まって一躍スターに成り上がった。それによりゲーマーは変わりつつあった。秀人はキラー1以外は同列の扱いというのが気に入らないと思いながら今日に至っている。ナーコはスッと自分のエレキアイのメニューを開き秀人が見つめるサイトをダウンロードした。


「で、雨宮ってのがゲームマスター冴木に近い人物だったわね。子供時代から数々の記録を塗り替える格ゲーが得意な男ね。ゲーセンで交流があった人間を自分の部隊に取り込んで各ダンジョンを攻略しているのか……」


 スッとナーコは何の躊躇いもなくブラジャーを外し、パンティに手をかける。

「過去のゲームは裏技やあり得ないゲーム難易度などのやりこみ要素が多かった。今のゲームは一本の映画を見ているような物か、仲間で攻略や対戦が増え交遊度が増したようにも見えるが人と人の結び付きはどうにも弱くなっている。雨宮のチームに対抗するには残るゲームキラーが結集して結束するしかないだろう。だが……」


「だが、ゲームキラーは個人プレイを好み群れたがらないってわけね」


「雨宮の意見は世論を得ている。俺は奴を越えるのさ……!」


 振り返る秀人は現実世界において初めて見るものを見た。白く透き通る絹のような肌の盛り上がる丘の上にピンク色の突起。視線を下に下げるとそこには禁断の――。


「こ、ここで脱ぐな! 早く風呂場に行けっ!」


 真っ赤な顔になり全身の毛穴から汗が洪水のように吹き出る秀人はナーコを自分の部屋から追い出した。ズズズッ……とドアに背を預けながら床に座り込む。


「ゲームキャラクターだから恥じらいが無いのか? ネットでは果てしなく見たが、現実ではあんなにも艶やかなものなのか……まだまだ教える事が多そうだ」


 一瞬視界にとらえた肌色の肌を鮮明に思い出す。秀人が自室で悶々としていると、階段を誰かが転がる音がした。階段の下では全裸のナーコを丁度階段の下を通りかかった大工朗が受け止めている。お互いにたいした怪我もなくナーコは礼を言いながら立ち上がる。


(秀人の奴のせいでコケたじゃない……ん? これは――)


 助けてくれた大工朗の手に触れ、ナーコは立ち止まる。ブルーリーアイが発動し大工朗の隠しパラメーターが見えた。それを見たナーコは引きつる顔の自分とは対照的に笑う大工朗と目が合った。


(何この男……真っ黒に呪われて――)


「眼福、眼福じゃ」


 バッ! と秀人はナーコと大工朗の間に割って入る。ナーコは多少の怯えを見せるがすぐに立ち直る。


「じいちゃん、犯罪だぞ! ナーコも早く風呂に入れ! 後がつっかえてる!」


「なら一緒に入ればいいでしょ。下のちっこい剣を見られるのが嫌なんでしょ?」


「代々天草家はちっこいんじゃ。だが誰よりも硬いぞ? 秀人のは歴代一位のちっこさじゃが」


「うるせーーーっ!」


 そして様々な騒乱の中、天草家の夜は更けて行く――。





 古風な日本屋敷の前に秀人とナーコは立つ。東京都代官山の北部の森の奥に位置するそこは江戸時代から続く由緒正しき高杉家の屋敷だった。森林に囲まれる周囲から安らぎの風が流れ二人を包む。その風に促されるように秀人は入口の門をくぐった。


「ねー、いつも外出する時は帽子に眼鏡しなきゃいけないの?」


「当たり前だろ。お前はこの世界じゃ有名人だ。ゲームキャラが現実世界に現れたなんて聞いたら大変な事になるぞ。それに対処する術が無いから今は我慢しろ」


「いつまで我慢するのよー。アタシはこの世界の人と触れ合いたいのよ」


「わかった、わかった」


 整備された美しき日本庭園を歩いていると、和服姿の中年の女が現れた。それは幻覚の母親の敦美だった。双方は互いに会釈をし、


「お久しぶりです。幻覚はいますか?」


「久しぶりね秀人君。幻覚は幻武館にいなければ外出してるわね。幻武館の方に行ってみるといいわ」


「ありがとうございます」


 頭の中では代々木の森のダンジョンで死亡した聖子の事をこの母親に目撃していたと伝えたいが、黙ったまま行く。すると、敦美は歩き出す秀人を引き止める。


「待って秀人君。秀人君はもう剣道はしないの? この新世界ならだんじょんという所で戦うには剣道も役に立つはずよ」


「……剣道の動きとモンスターと戦う時の実戦は違います。幻覚はどう考えてるかは知りませんが、僕が剣道をやる事は二度とありません。では」


 会釈をし、スタスタと幻武館の方向に向けて歩き出す。ナーコは悲しそうな顔をする敦美を一瞬見つめ、秀人の後に続く。高杉家の敷地の一番奥にある武術屋敷幻武館は江戸時代から現代まで三度の修復工事をして昔のままの姿を保つ国が指定する文化財でもある。その内部を見ようと入口に立つが門は閉ざされていた。


「……稽古の時間ではないようだな。稽古をしてれば全ての門は開け放たれている。出直しだ」


「出直し? 情報ももらえないでまたクソ長い道を戻るの? ちょっと休んでいこーよー」


「他人の家で勝手に休めるか。お好み焼き食わせてやるから行くぞー」


「幻覚の居場所は教えられないけど、何をしているかは教えてもいいわよ」


 瞬間、秀人の目の前に紫のワンピースを着た少しおでこの広い黒髪ショートボブの病的に色白の少女がいた。微妙にナーコに似ている少女に秀人は身体と意識が硬直する。その少女は秀人の元彼女の冬月玲奈だった。ジュルリ……とナーコの空腹から来るヨダレが石畳に落ちる。




 爽やかな緑の香りを乗せる風が両者を包む。

 玲奈と正面を向いて話す緊張を越える怒りが頭の中を支配し、


「どういう事だ? 何故冴木一彦を殺す? この世界は決して人間にとって悪い世界じゃない。モンスター達だって人間と世界に順応してるじゃないか。何故そんな事をする?」


「学園にも通わずダラダラとゲームをして本当に堕落したのね。別れて良かったわ」


「何だと? 俺はトゥルースケールが選抜するゲームキラーだぞ? この世界においてまともに俺と戦える奴なんてそうそういない。幻覚だって俺に負けてゲームキラーになれなかったんだしな!」


「それは貴方がスカイプで嘘を教えたからでしょ。全て知ってるのよ」


 黒く大きな瞳で玲奈は秀人を見据える。秀人はその瞳に気圧された。


「トゥルースケールという会社がこの世界が開始されたと同時に姿を消したまま行方が掴めないのは、冴木そのものがトゥルースケールだから。幻覚の手に入れたこれからのイベントチャート通りに行くと、三ヶ月足らずで日本は終わるわ。それを防ぐには冴木を始末する必要がある」


「……話の意図が掴めないな。幻覚は世界の救世主にでもなるのか?」


「それはどうかしら。貴方もゲームキラーなら自力で幻覚を探しだして御覧なさい。今の幻覚はゲームキラーとて太刀打ち出来ないわよ。システムアシストを必要としないオリジナル技の幻武幻影流があるからね」


「……そうか。敦美さんには言わなかったが、聖子の死は知ってるんだろうな?」


「えぇ、知ってるわ。でも、貴方も知っての通り高杉家の人間は戦場で死ぬのを美とする家系。それは開祖から変わらぬしきたりだからそれが女であっても表立って悼みはしないし、心で悲しむだけの話」


 言うなり、玲奈は幻武館の中に入る。微動だに出来ない秀人は喉の奥から枯れた声を絞り出すように呟く。


「この世界は変えさせないぞ……?」


 ナーコのヨダレが足下を濡らし洪水を作っていた。驚く秀人は空腹で倒れるナーコを抱え高杉家を後にする。幻武館の中に入った玲奈は、道場の中央で座禅を組む黒髪長髪を元結いで結い上げる黒の稽古着を着た少年に言う。


「これで、問題無いわね?」


「感謝する玲奈。これで秀人は俺を意識し、戦う事をせざるを得なくなった。偽りの世界と強さにすがりつく者に幻武幻影流が負ける事は無い」


 その時、幻武館の掛け軸のある場所から虹色の光と共に不死身の魔王ミューコルが猛然と出現した。この掛け軸はJNDに繋がっていて強力なボスを呼び寄せる細工を施してある。魔王の出現に目を見張る玲奈だが、幻覚は強敵の登場にも動じず刀の鯉口を切る。目標を定めたミューコルはその美しい指先を幻覚に向ける――刹那。


 シュン! と居合いを仕掛けた目の前のミューコルの首が抜刀とは逆の右側から切れ目が入りチン! という納刀の音と共に床に落ちる。薄暗くなる道場の壁に寄りかかる玲奈は溜め息をもらし幻覚を見る。幻覚の瞳に秀人を斬るという炎が消える事は無く、更に燃え上がっていた。

 

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