カービン渓谷からの出撃
多分ロボゲーの皮を被ったなにか
「フレームランナーオンライン」
それは最新のVR技術を用いたハイクオリティMMORPG。
唯一神フィアンナによって支配された剣と魔法の決戦世界。
全国20のサーバーがシームレスで繋がることで実現した広大なフロンティア。
プレイヤーはその五体の全てをこの世界に投入して、その世界を自由に駆け回る事ができるのだ。
VR技術によって再現された究極のリアリティーは、現実世界と寸分の狂いもない。
伝わってくる光の熱、足の裏の大地、頬を撫でる風、そのすべてが本物とかわらない。
今だβテストでありながら毎日のように新しいアイテム、新しいスキル、新しいジョブが発見され、無限ともいえる遊ぶ要素が尽きることなくあふれ出す。
その尽きることない膨大なリソースが話題となり、口コミが人を呼ぶ。
結果、βテストであるにもかかわらず国内一位、二十万人のアクティブプレイヤー人口を誇るMMORPG。
それが「フレームランナーオンライン」
──────────────────では絶対にない。
「こういう、ゲームの世界に拉致されるお話はMMORPGだけの話だと思っていたよ・・・」
と、ボクは口に出して、目の前に広がる茶褐色の大渓谷を眺めていた。
何でボクはこんなところにいるんだろう?
首を捻ってみたものの、応えは自分の頭の中には存在しなかった。
僕は目の前に広がる風景に対して、はっきりとそれがどこであるかの確信を持っていた。
しかし、なぜ自分がそこに突っ立っているのかについては、まったくもって理由がわからない。
「これ、どう見ても初心者用ステージの『カービン渓谷』だよな」
ボクはよく独り言を言う。
先ほどから、ポツリポツリと口から漏らしている。
その様子が気味悪がられて、学校ではクラスからやや孤立している。
その悪癖はボイスチャットを使うゲームでも問題アリアリで発揮された。
モニターの越しにボクの気持ちの悪い独り言を聞かせて気分を害するのも悪い。
そして、ボク自身も他人の「はあはあ」する息遣いや、オッサンの野太い声や、貧乏ゆすり、舌打ち、謎の咀嚼音を聞きたいわけじゃない。
だからボイスチャットのない、アイコンを使ったサインチャットや文字入力のテキストチャットが使えるゲーム以外には手を出した事がなかった。
どーしても会話が必要なゲームでも、「押してる間だけ音声が届く」マイクボタン機能が無いゲームは絶対に遊ばなかった。
だから間違っても、VRMMOのように、会話必須かつ音声機能のオンオフがないゲームは遊んだ事がない。
だから
「なんで、ボクはゲームの中にいるんだ・・・・・・?」
理解不能の出来事に対して、混乱が続く。
空からはさんさんと太陽が照りつけて、それに熱された地面からは熱気が昇る。
熱中症か、日射病か、ボクはめまいを覚えてフラリと倒れそうになった。
だから、ついうっかり、自分の横にそびえる鉄の壁に手をついてしまったんだ。
あつい。
あつい、あついあついあつい?!あつい!
「あっツーーーーー?!!」
手のひらから伝わる、余りの熱さにびっくりして、ボクはその場を飛びのいた。
その勢いで体が倒れて、うっかり尻餅をつく。
姿勢が崩れて、ボクの視界が上を仰ぐ形になった。
そしてボクは、鉄の壁の正体を知ることになる。
2つの脚がもつ無限軌道、背部に積載された重火砲、肩から下がる巨大なシールド、顔の代わりにモノアイカメラとブレードアンテナ。
そうだ、ここが「フレームランナーオンライン」の世界なら、コレが絶対になくてはならない。
「・・・ぼ、ボクのフレームランナー?!」
そう「フレームランナーオンライン」のゲームジャンルは
ロボットアクションシューティングだったのだから。