彼の想い
僕は彼女を助けたいと思った。
家族を失い、足と心に深い傷を負った彼女を。
傍で見ていた僕には解った。
彼女が無理をしている事は。
いつも笑っていたけれど、その心が限界に近いのは理解できた。
彼女は気付いたら空を仰ぎ、鳥をじっと見つめていた。
空に憧れていたのか。
家族に会いたかったのか。
足を使わなくてもいい場所へ行きたかったのか。
それはよく解らない。
全て間違っているかもしれないし、全て正解かもしれない。
定かではない考えだ。
でも彼女が、苦しみ、悲しみ、憎み、迷い、痛みを感じていたのは、僕にも察せられた。
彼女はずっと、笑顔で泣いていたんだ。
倒れる寸前だったのに、必死で自分の足を立たせていたんだ。
無理なんて、しなくても良かったのに。
泣いたって、誰も責めたりしないのに。
涙の存在は、格好悪くも無様でもないのに。
彼女は、とてもとても頑張り屋だったんだ。
自らの心に嘘を吐いてしまうほどに。
それも、自分すら気付かないうちに。
だからあまりにも痛ましい姿の彼女を、助けたいと思った。
手遅れになる前に。
はっきり言って、僕には何も出来ない。
彼女を家族に会わせる事も。
彼女の足を治す事も。
彼女に空を飛ばせてあげる事も。
非力にも程があるだろう。
それでも僕には、この両手がある。
倒れても迷っても、必ず手を差し出してみせる。
彼女の肩を支え、彼女の杖になれるんだ。
“代わり”なんていう都合のいい言葉を使うつもりは毛頭ない。
僕は僕の力と遣り方で。
彼女を、支えてあげるんだ。
僕のこの想いに、偽りなどないのだから。
彼女の願いも僕の想いも、きっと果たされる。
さぁ。
笑顔で。
彼女に、会いに行こうか――――