彼女の願い
珍しく暖かい話を書きました。読んでもらえると嬉しいです。
空を飛びたいと、ずっと思っていた。
見上げる空、そこでは一羽の鳥が旋回を続けていた。
無知な私には、あの鳥が何という名前の鳥なのか解らない。
でも空を飛んでいるだけで、ひどく素晴らしい存在に思えた。
あそこより上に行けたら、皆に会えるかもしれない。
幾度と無く、そう考えた。
その考えに確証などどこ何も無くて。
でも私はそれに縋るしかなかった。
私を置いて、何処かへと旅立ってしまった私の家族。
対向車線から外れ、私達の乗る車へと突っ込んできたトラック。
一緒に乗っていた父と、母と、弟と、そしてトラックの運転手。
私以外の皆が、いなくなってしまった。
私は頼るべきものと恨みをぶつけるべき存在を同時に失ってしまった。
事故の所為で松葉杖を突かなくては歩けなくなり。
明るく笑う術をどこかに置き忘れた。
そんな私には、空を望むしかなかった。
空には、家族がいるかもしれなかったから。
空を飛べば、足など不用になるから。
でも私に翼なんか無い。
飛行も浮遊も出来はしない。
方法があるとすれば、屋上から飛び降りるくらいのものか。
だがそれは落下であり転落だ。
落ちているだけ。飛んでいるとは言えない。
なら、どうすれば良かったのだろう。
何が、最善の方法なのだろう。
事故の事を忘れれば、家族を裏切ったような気持ちになる。
空を諦めれば、自らを支えるものを失ってしまう。
なら。
私は一体、どうすれば。
ねぇ、誰か。
教えて下さいませんか――――――
苦しいんです。
心が締め付けられて。
悲しいんです。
独りぼっちになって。
憎いんです。
全てを奪われて。
解らないんです。
頬を伝うこの雫の意味が。
痛いんです。
動かなくなった足が疼いて。
声が嗄れるほどに叫んで。
泣いて、しまいそうなんです。
立ってられません。
力を無くした私の足では、膝を折る事しか出来ないんです。
お願い誰か。
一人では、答えを見付けられないんです。
一人で生きるには、世界は広く、一生は長過ぎるんです。
どうか私に、支えを下さい。
何にも隔たれない場所を行く鳥達が羨ましいんです。
太陽が瞳に眩しいよ。
空をどこまでも、飛んで行きたいよ――――