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『死人』と呼ばれる彼女は小説家志望  作者: 葵 束
第一章 死人の彼女
7/7

下駄箱に手紙……

 彼女が本屋で本を買うところを、見ていた日から数実後。

 授業も終わり、俺は帰ろうとしていた。

「なぁ、一夜……。 今日どっか行かねえか?」

「ん……」

 斎藤がそう提案し、俺は少し考える。

 特に用事があるわけでもなく、家に帰ってゆっくりと本を読もうとしていたぐらいだ。

「……わかった」

 俺は了承した。

「じゃ、何処いくか?」

 教室を出て俺達は下駄箱に向かう。

「……カラオケとかどうだ?」

「カラオケね……」

「嫌か?」

 斎藤が聞いてくる。

 妙に楽しそうに見えるのは、気のせいだろう。

「嫌というわけじゃないんだけど……」

「……?」

「あまり歌う気にはなれないな……」

「そっか」

 俺の言葉を聞き、斎藤はまた考え始めた。

「じゃ、ゲーセン?」

「……う~ん」

 悪くはないんだけど、俺が得意とするゲームがあるかどうか。

 この間行ったときには、そのゲームが見当たらなくて落ち込んだ。

「だったら、ゲーム屋に行くか?」

 確かにゲーム屋に行けば、やりたいゲームはあるだろう。

 しかし、お金を無駄に使いたくはない。

「……やっぱ、ゲーセン」

「了解だ」

 結局、俺はゲーセンを選んだ。

 やりたい筐体がなくても、斎藤の後ろで見ていれば十分だろう。

 ほぼ何も入っていない鞄を肩に回し、持ちやすくする。

「そういや、一夜」

「なんだ……?」

「ヤンデレって、なんだ……?」

 斎藤の質問に、俺は唖然とした。

「……行き成り何だ?」

 流石に何の脈絡もなかった為、流石に質問の企図が分からない。

 普通に聞き返した。

「いやな、比乃いるだろ?」

「ああ」

「髪が長くて表情がわからない女って、ネット検索したら、何故かヤンデレっていう単語にありついてな……。 意味を読んでも理解できなくて……」

「俺に聞いた、と……」

 俺が理解すると、斎藤は頷いた。

 ――なんでヤンデレがヒットするんだ?

 訳が分からなくなりつつも、仕方なくヤンデレという単語の意味を思い出す。

「病んでいる原因と抱いている好意が、関係している……。 ぶっちゃけ……、独占欲が強い人間と思っておけばいいんじゃないか?」

「……日本語でお願いします」

「……その人が好き。 だけどその人が自分以外の女と話しているだけで、その女を殺そうとしたりする可能性もある猟奇的な存在……、かな? ……でも、ヤンデレは必ずしも猟奇的とは言えないしな……。 好きな相手のためなら、殺人も簡単に行える存在? 何でもする……? それともストーカーと言った方が良いのか?」

「……」

「……お前が調べた事が、ヤンデレの全てだと思うんだけど」

「だったら、ヤンデレっぽいセリフの方が分かりやすそうな気が……」

 斎藤がそう言ったため、仕方なくヤンデレのセリフを思い出す。

 しかしながら、俺はそれ程ヤンデレが好きなわけでもない。

 あまり知らないのだ……。

 最終手段として、携帯でヤンデレセリフと検索する。

「あった」

 見事に検索にヒットし、俺は携帯を斎藤に渡す。

 気がつくと下駄箱の近くまで来ていた。

 携帯を預けたまま、俺は靴を履き変えようと下駄箱の扉を開ける。

「……ん?」

 しかし俺は靴を取り出す前に、下駄箱の中に見慣れないものが入っていることに気がついた。

 それを俺は取り出す。

 ――手紙?

 それは、何処にでも売っていそうな長細い封筒。

 高校生が使うにしては、違う気がする白く長細い封筒だった。

 誰もが下駄箱に入っている手紙は、ラブレターだと思うはずだ。

 現に俺も、ラブレターだと思う

 カミソリレター何てモノは聞いた事があるが、流石に貰うとは思えない。

 ――まさかな……。

 ラブレターなんてものを貰う事はないと思うが、流石に現状ではラブレターと考えるしかほかない。

 ――差出人は誰だ?

 そう思って、封筒を裏返す。

「……」

「一夜~?」

「悪い、用事ができた!」

「はぁっ!?」

 斎藤の手から俺の携帯を奪い、外ではなく校内に走り出す。

 何も考えず俺は走った。

 とにかく一人になれる場所に、俺は走る……。

 階段を上り、屋上に向かう。

「走るな~」

 途中で教員が注意してくるが、俺は気にしない。

 一気に階段を駆け上がり、屋上のドアを開けて外に出る。

「ハァ……、ハァ……」

 息切れしながらもドアを閉め、俺は周りに誰もいないことを確認した。

 走ったせいで、血液の流れが速いのを理解できる。

 握り締めていたせいか、封筒は少しだけ変な折れ方をしていた。

 しかし俺は気にせず、ドアに背を付けもたれかかりながら腰を下ろす。

 ――マジ、かよ……。

 少し落ち着いたところで、手にもった封筒を再度確認する。

 両面ほぼ真っ白だが、封筒の裡面に綺麗な字で名前が書かれていた。

「比乃、紅里……」

 俺はその文字を呟いた。

 片思いしていた、彼女の名前だった。

 洗い息を吐きながらも、ゆっくりと封筒の中の手紙を取り出す。

 中にはただ一言、こう書かれていた。




 今日の放課後、教室で待っています……。




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