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『死人』と呼ばれる彼女は小説家志望  作者: 葵 束
第一章 死人の彼女
6/7

俺と彼女と本……

 とある日の放課後、俺は帰り道で見知った後ろ姿を見かけた。

 周囲とは違う雰囲気を纏い、伸び放題の土色の長髪を揺らし歩く姿。

 そう、彼女だ……。

「……」

 一人で帰宅だろうか、俺が見た限り周りに友人らしき姿は何処にもいない。

 ――って、そりゃそうか……。

 評判を考えてみれば彼女の交友関係が、ほぼ無い事に簡単に気がつくだろう。

 彼女に気がついた通行人は、少し驚き距離を取る。

 おかげで彼女の周りは人がいない。

 しかし、彼女は気にしてないのか歩き続けた。

 彼女の髪が整えられていれば、周りも違うのだろうと俺は思いながら、俺は彼女と同じ方向に歩く。

 同じ帰り道に、少し心を弾ませながら彼女を見た。

 家を知りたいとは思わないが、何処らへんで分かれるかは知っておきたい。

 ――コレが恋いというやつ……、というより行き過ぎた恋の結果、ストーカーに変わった人間じゃないか、俺……?

 頭の中で考えながらも、視線は彼女を追う。

 ――ま、とりあえずは帰り道が分かれるまでは……。

 だが、彼女は俺の思いとは裏腹に、近くの店に入って行った。

「……本屋?」

 唖然としながら、俺は彼女が入っていった店を見ながら口に出した。

 そこは水野書店みずのしょてんと言い、俺もよく利用する結構大きな本屋だ。

 一階から二階まで本を置いており店内は広く、普通の本から怪しげな本まで何でも揃えている。

 頼み込めば国家機密をまとめたレポートを本にしてくれ、国家御用達と言う噂が流れているが、真相は定かではない。

 というか、明らかに嘘だろう。

 誰だよ、くだらない噂を流したのは……。

 だが、近隣でこれ以上の質を持った本屋はない。

 ――本、読むのか……。

 彼女が本を読む事に驚きを隠せず、俺は彼女を追って本屋に入る。

 自動ドアが開き、店内に俺が入店したことを知らせた。

「いらっしゃいませ~」

 店員がそう言ってくる。

 もちろん、いらっしゃいませという言葉に返事する人間がいる訳がない。

 軽く店内を見渡す……。

 ――いた。

 すぐに俺は彼女を見つける事ができた。

 再度周囲を見て、彼女の方に探しているコーナーを見つけるフリをする。

 これでは完全にストーカーだろう。

「……ふぅ」

 しかし俺は気にせず、彼女がいるコーナー付近に近づく。

 ――何見てるんだ……?

 彼女の後ろらへんで、彼女視線の先を見た。

 女性だから女性誌かなとも思ったが、女性誌のコーナーは場所が違う。

 俺が良く見ていた場所だから気にならなかったが、彼女がいる場所はライトノベルのコーナーだ。

「……」

 ――ライトノベル読むんだ……。

 俺は初めて知った事に、驚きつつも近くの本を見た。


 彼女が書店を出たのは、それから30分後だった。

 ライトノベル数冊と参考書を買っていた。

 店員が彼女を見た時の驚きが新鮮だったが、流石に驚かないであげて欲しい。

「……」

 買った本をバックにいれ、彼女は寄り道を終えた。

 流石に何を買ったかまではわからない。

 彼女は途中で別の道に入り、俺のストーカー紛いの行動は終わった。




 翌日、彼女は普通に学校生活を送っていた。

 ライトノベルとはいえ小説であるから、学校に持ち込んでも読んでも良いのだが、彼女は学校で読む気がないのか、持ってきてないのか、何時もの様にノートに何か書き続けている。

 ――家で読んだのか……?

 そう思いながら、俺は自宅から持ってきた小説を手にした。

「お、今日は本の方か」

 間が良いのか悪いのか、本を開けた瞬間に斎藤がやって来た。

 俺は仕方なく、開けた本を閉じる。

「……読まないのか?」

「お前が来たからだろ……」

「そりゃそうか……」

 斎藤は苦笑しながら俺の手から本を取り、そして斜め読みをし始める。

 人が読もうとしていた本を、勝手に読まれるのは妙に腹立たしく感じるだろう。

 事実、俺は今感じている……。

「ふんふん……」

 斜め読みのせいか、ページを捲る速さが尋常ではない。

 そもそも斜め読みをして本当に読めているのだろうか。

 俺はそんなことを思いながら、彼女に目を向ける。

「……」

 未だノートに、何か書き続けている。

 ――気になるな……。

 彼女のノートに書かれていることが気になりながらも、斎藤に視線を戻す。

 すると丁度読み終わったのか、斎藤は本を閉じ返してきた。

「まぁ、面白いんじゃないか?」

「当たり前だ……」

 微妙な感想だが、斜め読みではその感想が精一杯だろう。

 俺は斎藤から本を受け取り、机の上に置く。

「……面白いと思った本しか、買わないからな」

「さいっすか……」

 斎藤は呆れたように言うと、また俺の机の上に座った。

「……そういや、お前の面白い基準ってなんだ?」

 いきなり俺の方をむいて、聞いてくる。

 少しばかり驚いてしまったが、誰にも気がつかれてないだろう。

「面白い基準、ね……」

 俺は斎藤の言葉を反復し、軽く考えた。

「お前のだぞ?」

「わかってる……」

 少し考え俺は思いついた事を口にすることにした。

「物語だな……」

 その言葉に、斎藤は瞬きし眉を潜める。

 理解出来てないらしい。

「まず最初に俺は、物語になっているものしか読まない。 誰かの私小説とかも読んだことがあるが、妙に肌が合わなかったからノンフィクションの物語じゃなく、完全に作られた物語……。 創作物だな……。 そういうものしか読まない。」

「ほ~」

「その事から思いつくのは、シナリオが良く出来ている。 また文章から感情や、人物の動きが分かるものだろうな……」

「……」

「まぁ、知ってるだろ?」

「ああ……」

 シナリオが良いものしか読まないということは、俺が常日頃から言っていることだ。

 仲の良い斎藤が知らない分けがない。

 というか、昨日あたり言った覚えがある……。

 だが、俺は気にせず喋り続ける。

「で、俺の面白い基準がシナリオっていうのはアレだから、もう少し言葉にすると……。 アレだ……。 アレ」

「あれって……」

 俺の言葉に斎藤は呆れた。

 流石に、アレと言って通じる訳がなかったようだ。

 当たり前の反応か……。

「……探偵モノで、謎が分かった感とかな? 複雑に絡み合ったシナリオが、解けて1つになるような……。 そういうの?」

「なるほどな……」

「……伏線があるヤツとかだろうね……。 そう考えると、ライトノベルとかが一番肌に合う感じだな……」

 その言葉と同時に、授業開始のチャイムが鳴る。

「もう時間か……。 後でな」

 斎藤はチャイムの音を聞くと、俺の席から下りて自分の席に向かう。

「貸したノート、そろそろ返せよ?」

 俺はそう言って、机の中から教科書を取り出した。

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