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七幕 アイ 告白の独白

告白

 恋人のことを初めから好きだったか、と問われると、それは違うとしか答えようがなかった。アイにしてみれば、むしろ、眼中になかったくらいだ。それほど親しくしていた訳でも、親しくなりたいと思っていた訳でもなく、単に周囲にいる同僚のひとりでしかなかった。その程度の認識でしかなかった男性が自分に声を掛けてきたのだ。

「彼に言い寄られてきたときはね、正直に言えば迷惑だったよ。職場の人間と恋愛沙汰になれば、面倒なことが増えそうだったから」

 アイはそう言って、微かに笑ってみせた。

「でも、いくら断ってもしつこくてね。しまいには、断り続けるのも馬鹿らしくなってつき合うことにしたの。それに――」

「それに?」

「根負けした、って面もあったけど、少しだけ試してみようかな、とも思ったの。うん、いえ……試す、と言うと少し違うかな。努力、ね。変える努力をしてみようと思ったのよ」

「変える努力? 何をどう、変えたかったの?」

「好きになる努力。誰かを、心から好きだと思う努力を」

「なかった? あなたは誰かを好きだった思ったことが、なかったの?」

「わたしは、経験がなかったから。誰かに好きだと言われても、好意を寄せられても、その逆はなかったと言い切ってしまえるくらいだから」 

 そもそもからしてアイは恋愛というものに対してあまり興味を持たずに生きてきた。学生時代に何人かの異性とつき合ったことはあるものの、その関係が長く続いたためしはない。交際を申しこんできた男が、しばらく経つと唐突に別れたいと切り出したり、いつの間にか音沙汰がなくなってしまうのだ。最初のうちはしつこいくらいに纏わりついてきたり、執拗に身体を求めてきてみたりと、やけに熱心だった男たち自らがおとなしく身を引いていくことが、当時のアイはよく理解できなかった。欲しがってみたり、そっぽを向いたり、男なんてわがままな連中ばかりだ。そんな風に思ったこともある。

 とは言え、同様のことが何度か繰り返される中でも、薄々は感じていた。異性との関係が長続きしない原因が自身の恋愛に対する淡泊な態度にあるのだと。

「好意だけじゃない。わたしには強い感情を抱いた経験なんてほとんどない。小さいころからずっとそうだったんだ。それが、当たり前だと思っていた」

 だからまあ、とアイは溜息をつく。

「ミイに言われたのと同じような言葉をぶつけられたよ。両親からも、友人からも。本当に無感情な人間って訳でもないのにさ」

 自分にも感情がある。その点だけは確かなことだった。喜ぶこともある。怒るときもあれば、悲しんだり、楽しいと思うことも。

 ただし、そうした自身の感情の揺れ幅が、他人からすれば何も感じていないように見えないくらいに微小なものである、という認識も成長していくにつれ抱くようになっていた。周囲の人間たちから度々そう評されたから、とも言えるが、実際に他人が見せる表情や、その振る舞いを目にすると、自分は感情表現に乏しく、またその感情の濃度自体も希薄なのだと思う他はなかったのだ。そして、そうした自身の性質を当たり前のこと、仕方のないこと、と半ば諦め似た感覚と共に受け入れた。

 恐らくは、とアイはいまにして思う。そうやって深く悩むこともなく、すんなりと受け入れることが可能だった事実そのものが、自分の感情が薄っぺらい証拠だったのだろう。

「いちいち説明するのも骨が折れる話だったし、かと言って、いつもいつも他人に合わせて大袈裟に反応するのも面倒だったから、自分はこのままでいいんだと言い聞かせてきた。だけど、そんな考えに甘んじている自分にいい加減うんざりしてたところもあったのよ。矛盾しているようだけどさ」

「だから、あなたは」

「だから、って理由でもあるんだよ。彼の好意を受け入れてみたのは。受け入れて、そしてわたしも好意で応えられるようになりたかったんだ。そのための努力をしようって決めた。まずは形だけでもいいから、それらしく見えるだけでもいいから、そんな風にさ。そうしていく内に本当の意味で強い感情を持てるかもしれない、持てるようにしよう、持ちたいんだ――そう思ったの」

 もっとも、とアイは肩を竦める。

「一朝一夕にはいかないだろうと自分でも判っていたからね。気長につき合ってくれそうな相手として、諦めの悪い彼が好都合だった、なんて打算的な面があったことも事実ではあるけど」

 そうやって始まった二人の関係だが、つき合い始めのころはかなり危うかったのだろう、とアイは思う。特に自分自身の言動が、淡泊を通り越して冷徹なものになっていたことも一度や二度ではなかった。当時の自身はそれを当たり前のこととして考えていたが、いまなら間違っていたと言える。

「ひとりで演劇やっているような気分だったよ。自分の中にある感情を自分が感じている以上に大袈裟に、しかもごく自然に見えるように表に出す、ってのはなかなか難しくてね。いかにもそれらしく見えるように、鏡の前で練習したこともあったよ。こうやって思い返すと、つくづく馬鹿みたいな話だけど」

 自嘲の笑みを浮かべようとしたアイだったが、億劫になって表情そのものを掻き消した。唇ひとつ曲げてみせることすら煩わしい。そんな気分だった。

 重みを覚える。両の手に、腕に、肩に。その身体に。圧し掛かられているかのような重みを。

「そうやって、その馬鹿みたいな茶番を何度も何度も繰り返している内にね、彼に対して好意らしきものを持てるようになっていったんだ」

 でも、とアイは心の中で呟く。たぶん、それはらしいだけのもので、好意ではなかったのだろう。好意ではなく、もっと執着めいた別のもの。いや、執着そのものだったのかもしれない。所有しておきたい、ただそれだけの。

「少しずつだったけれど、わたしは彼のことが好きなんだと、それなりには思えるようになった。それなのに」

「ええ、それなのに彼は」

「あの人は、彼はさ、他の女にも手を出していたんだよね。あれほどしつこく言い寄ってきた癖に、何度も会いたいと繰り返して、愛していると繰り返して、わたししかいないと繰り返して、何度も何度も求めてきた癖に」

 恋人だと思っていた男が他の女を作っていると知ったとき、アイは自身の中に芽生えた感情を理解することができなかった。こみ上げてくる吐き気と頭の中を真っ白にする眩暈ばかりが鮮明だった。それは、アイがそれまでに体験してきたような怒りの感情ではなかった。悲しみでもなかった。そのどちらでもあり、それら以上の何かだったのだ。

 その時の記憶を思い起こす度に、アイは胸が焦げついているような感覚に陥る。その臭いを嗅ぎ取れたようにさえ思えてくる。

 胸中で熱く、粘りつくような物質が渦を巻き始めた。また身体が重くなる。重くなる。

 マイは笑う。

「そりゃあ、人を見る目がなかったんだよ。ご愁傷さまだね」

 ミイは呟く。

「それは、仕方がないことだったんです。避けることなんてできなかったんです」

「諦めるしかないね」

「諦めるしかありません」

「理解できることもあるけど」

「共感できるところもありますけど」

「たぶんわたしと同じだろうから」

「間違いなくわたしも同じでしょうから」

「たった一つだけだけれどね」

「ただ一つだけですけれども」

 頭を締めつけてくるような痛みに、アイの身体は強張り、その皮膚に痺れが走った。神経が引き攣りを起こし、骨が震えているような心地さえ覚えた。それでもアイは表情を変えずにいられた。変えるつもりにもなれなかった。膝の上に置いていた左手を、ただ静かに握る。

「だけどわたしは、彼のそんな行為を許すことにした。いえ、違うわね、気にしないことにしたの。彼はわたしに謝罪して、他の女とは手を切ると約束したからね。だから、それを信じようと思った」

 フェアではない、と思ったからだ。恋人が他の女に手を出している間、自身の感情が曖昧だったことをアイは認めていた。本当に好意を抱いていたのかどうか自分でも迷っていた相手が浮気をしたといって、彼だけを責めることはできなかった。そうした考えを持ったのが自分の価値感と何事にも公平であろうとする信念に由来するものだったのか、それとも後ろめたさによるものだったのか、いまでもよく判らない。

 もちろん恋人の過ちを咎め、裏切られた、騙されたと一方的に糾弾し、二人の関係を断ち切ることもできただろう。だが、それはアイにとってはただの自己保身であり、あまりに身勝手な行為だと思えてならなかった。自分に非はない、悪いのは相手の方だ、と被害者意識を剥き出しにしておけば、少なくとも楽ではある。

 ――楽だけど、ただそれだけだ。わたしが楽なだけだ。

 自己憐憫に耽溺した結果、非難を加えるなど恋人に対して取るべき態度ではない。アイはそう判断した。人間だから過ちもある。その過ちを認め、許し、信頼し続けることができないのであれば、またそうしようとさえしないのは、自身に課した努力を――心から他人を好きになろう、愛するようになろうとした努力を――無為にすることでしかなかった。自分を貶めるだけの行為でしかなかった。

 仮にも恋人同士ならば、ただ信じるだけだ。互いを認め合い、互いの経験を、感情を共有し合い、互いにそれを喜びとする。恋人同士ならば、そうした関係であるべきだ。そうした関係を育もうと勤めるべきだ。アイはそう自分に言い聞かせた。何かが軋むような気配を頭の隅で感じながらも。

 けどさ、とアイは握った左手に少しだけ力を込めた。

「それは、わたしが信じようとした言葉は、彼にとってはその場凌ぎの言い訳だったんだよね。約束を守るつもりなんて、最初からなかったんだ」

「そう……だろうね。あの人らしいよ」

 アイは思い出す。他の女とも付き合っているのかと問い質したとき、すまなそうに詫びの言葉を述べてみせた彼の顔。もう二度とそんな真似をしないと床に頭を擦りつけながら謝り続けた、彼の絞り出すかのような声。哀れとしか映らないほどに情けなく、不格好だった彼の姿。

 それが――

 嘘だったのだ。たとえそのとき、その場面では嘘ではなかったにしても、心底からあのような行動を取っていたのだとしても、それをすぐに帳消しにしてしまったのは事実だった。

「わたしもね、信頼するとは決めたけどさ、ただ黙って忘れようとは思わなかった。ただ言葉だけを鵜呑みしてすませるほど楽観的でもなかったし、信頼ってのは行動を伴ってこそのものだからね。悪いとは思ったけれど、彼のことを見張ることにしたんだ。もっとも、わたしと会うことを断ってきたとき、それもわたしの時間に余裕があるときに限って、だけどね。こうすることでわたしは、わたしに疑いの心を抱かせる要素を排除したいと思った。彼に対する信頼をより強固なものに変えたかったんだ」

 くっ、と喉が鳴る。表情筋はぴくりとも動かなかったのでそれが自分の笑い声だと気づくまでに、数秒を要した。意思とは無関係に漏れ出た笑いの意味は自身でも把握できなかったが、アイは気にしないことにした。何も思い当たらないどころか、思い当たる節が多すぎて、いちいち思考に昇らせるのも煩わしい。

 マイが言う。

「アンタが笑うのは」

 ミイも言う。

「あなたが笑いたいのは」

「自分かな?」

「あの人かな?」

「信頼という言葉を信頼したことかな?」

「本当の嘘と嘘の本当を区別できなかったことかな?」

「何であれ、救われないね」

「ええ、他人事ではないだけに、余計そう思います」

 ひとつ咳払いをして、アイは続ける。

「で、結局さ、わたしがわざわざ陰湿な真似までして判ったのは、彼の意志が弱い、弱すぎるという、面白くも何ともない事実でしかなかったのね。事実を知りたい、物事を正確に捉えたいなんて願望は人間の幸福にとっては邪魔な存在でしかない、なんて考えを持ったのはこのときが生まれて初めてだったよ。何せ、彼がまだ他の女とつき合い続けていた上に、さらに他の女に手を出していたんだからさ」

「不愉快も度が過ぎると愉快でしかないね」

「でも、いえ、だからこそ、わたしは思ったよ。これは、彼の意思のせいではない、彼だけの責任ではない、彼を唆している女がしつこくつき纏っているせいだ、ってね」

「もう笑うしかないよね」

「それで直接会いに行ったんだ。彼と関係のあった女たち皆に。そして言ってやった。もう二度と彼には近づくな、ってさ。そうしたら――」

「笑いたくもないのに」

 そうしたら、とアイは繰り返したが、声が詰まる。もう一度、喉が鳴る。左手を強く握りしめた。表情は崩れなかった。

「非難したのよ。わたしを。あの人が。余計なことはするな、って。そんなに俺を信じられないのか、って。勝手な言い草とは思うけれど、わたし自身、姑息な真似をした訳だからそう言われても仕方がない面はあるでしょうね。でも、勝手なのはお互いさま。だから、言ってやったよ。信じたいからこそ信じるだけの根拠を見つけたかった、それだけだ、ってさ。平行線だよね、完全に」

「すれ違いばかり」

「彼は言ったよ、他の女とは別れるつもりだ、別れようと努力しているんだ、ってわたしを怒鳴りつけたわ。いえ、わたしにではないかもしれない。彼自身、どうにもできないことに対して苛立って、だからこその悲鳴だったのかもしれない。もちろん、それはいま振り返ってみればの話で、そのときのわたしにはただヒステリックな叫びにしか見えなかったけどね。だから、わたしは彼の言葉に対して首を振ることしかできなかった。それだけでは信じられないと返すことしかできなかった」

「噛み合わないことばかり」

「そんなわたしに対して、彼は……あの表情を何て形容すれば良いのかな、判らない。怒っているのでも、泣いているのでもない、無表情って訳でもない、あの顔で――」

 彼の顔。引き攣ったように震える皮膚。めまぐるしく入れ替わりする感情の断片。読み取れない、感じ取れない、内面の渦。判らなかった。いまとなっても、アイには理解できない。

「言ったんだ。お前こそ信じられない、って。その冷静な態度が、落ち着き払ったままの振る舞いが信じられない。人間とは思えない、人形だ。そう、言ったんだ」

 ――ときどき、怖くなるんだ、お前のことが。不気味に思えて仕方がないんだ。

 ――泣かない、怒らない、笑顔だってほとんど見せない。

 ――見えないんだ、判らないんだ、アイの心が。

 ――形が似ているだけ、形を真似ているだけで、人間じゃあないみたいだよ。

 ――まるで人形だ。

 ――人形みたいなんだよ。

 また喉が鳴る。頭の中が重くなる。アイはゆっくりと息を吐く。握り込んだ拳を、右手でそっと包み込んだ。

「彼から面と向かってそんなことを言われたときの気分も……何と言ったらいいのか説明し難いね。抱えきれない、大きなものが胸の中でどんどん膨らんでいく、それでいて、それの吐きだし方が判らない――そんな感じだった。わたしには経験したことのない感覚だったよ。だから、ただ堪えるしかなかった。抱えておくことしかできなかった」

「理解できないことばかり」

「わたしはね、言ったよ、彼に。どうすれば互いに信用できるようになるのか、一緒に考えて欲しい、そうしたい、ってさ。でも、その言葉に彼は応じようとしなかった。ただ、言い過ぎだったと謝って、あとは自分に任せて欲しいと繰り返すだけ」

「重ならない、重ならない」

「近づこうとしても遠ざかっていくばかり。信じたくても信じられなかった。だから、わたしはせめて形が欲しいと彼に言ったよ。本当の信頼を築くための下地が欲しい、って。わたしと――結婚して欲しい、って」

 ――結婚しましょう。

 そうアイが告げたときの彼の顔は青褪めていた。それが怯えの表情であることは、すぐに見て取れた。どうして、恐れるのか、何を不安に思うことがあるのか。そうした心の動きがアイには不思議でならなかった。

 たとえ形だけでも二人が結びつけば、嫌でもそれに合わせるようになる。アイにしてみればそう考えたまでだ。形さえ整えておけば、後からでも心がついてゆく。嘘が本当になる。そう考えたからこその願いだった。

 それなのに、どうして。

「彼は呆けていたよ。絶句していた、の方がぴったりくるかな。わたしは、彼にわたしの要求を受け入れるように迫ったよ。反論も言わせなかったし、疑問の言葉を口にさせるつもりもなかった。ただ首を縦に振らせるつもりだった」

 ――あなたはわたしを愛している、そうでしょう?

 ――わたしもあなたを愛している。

 ――言葉だけでも、形だけでも、それは事実。

 ――なら、心は二の次だよ。二の次で、構わないよ。

 ――どうせ、本当のことになるんだから。

 ――そうでしょう? そう、なりたいでしょう?

 あとずさろうとする彼。首を振ろうとしても、振り切れず小刻みにその顔を震わす彼。苦しむかのような、恐れるかのような表情を浮かべる彼。それでいて逃げ出せずにいる彼。

 愛おしい、と思った。そのとき初めてアイは恋人を心から愛しく思っていると認識した。渡せない、渡さない。これは、自分のものだ。自分だけものだ。そんな風にも思えた。強く、思えた。

 アイは言う。

「そして彼は頷いたんだ。わたしと結婚するって誓ったんだ。躊躇はしたかもしれないし、渋々だったのかもしれないけれど、事実、彼はわたしの願いを受け入れた。婚約指輪も渡してくれた。だからこそ――」

「だからこそ?」

「改めて信じることができた。信じようと思うことができた。そして、信じていこうと決めたからこそ、彼が他の女たちと別れられない、別れてもらえない、なんて泣きごとをぬかしても、助けようって思えたんだ。いま、ここにいるあなたたち全員に、改めて彼と別れるよう告げてやることに決めたんだ。どんなことでも、二人で乗り越えよう、乗り越えていけるって、そう信じたんだ」

「そして? あなたは彼を信じて、それから、どうしたの? 彼は、何をしたの?」

「それなのに、ここまでわたしが協力したのに、彼は、まだ躊躇っていたんだ。まだ、わたしのことを信じようとしなかったんだ」

 拳を包む右手に力を込めた。掌に指輪が食い込んでゆく。深く、深く食い込んでゆく。

 痛みはない。

「忘れられない。今日、この部屋で集まろうって決めたときに、彼が見せたあの不安げな表情を。やっぱり止めよう、なんて言い出した彼の言葉を。わたしは、彼が、あの人が――」

 あの男が――

「憎かった。初めて、いえ、たぶん、もうずっと前から、あの男が憎くて、憎くて堪らなかった。殺してやりたいくらいに」

 絞り出す。身体の内側から、声を絞り出す。

「そう。そうだね。その通りだ。だから――」

「殺したかったんだ、わたしは。彼を、この手で。わたしの手で。だから、わたしは――」

 力を緩め右手を開く。

 指輪が喰い込んだ跡がくっきりと残る、その掌をじっと見つめた。

「彼をナイフで刺したんだ」

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