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ANDERSON  作者: 八田部壱乃介
Chapter3
45/70

第45話 親子の因縁 十二月六日午前九時五分

 意識はぷっつりと途切れた。


 否、場面が移り変わったのだろう。自分は今、椅子に座っていた。呼吸が浅い。目を開けたまま、ぼうっとしていたようだ。

「どれくらいぼうっとしてました?」

 ウィリアムは目を瞑り、対面の男に訊く。

「二分くらいだ」と、グレン・アバネシーは答えた。「残り時間は五分だろう」

「そうですか……」

 瞬時に具合が悪くなって、吐きそうになる。たったの二分で、これだけ長く深く過去へと旅していたのだ。肉体への負荷も大きいだろう。しかしその分、収穫はあった。


「貴方は、教会の仕事をなされていたようですね」

 これは、切り裂き事件についてを示しているつもりだった。

「ああ……」グレンにも文脈が伝わったらしい。顔を顰めて頷く。「本当に、嫌な仕事だった。時には幼い子を相手にする必要があった。君の母と出会って、やっと手放せたんだ。これは……感謝しても仕切れない」

「手放せた……というのは、陛下にも知られたからでしょうか」

「そうだろう。それ以外に心当たりがない」

 または、水晶髑髏の存在が明るみになって、後継者を殺めたところで、誰もが成りすませる、その力を手に入れられると知ったからだろう。この方法では直接的に影響を与えられない、と判断したのだ。デメリットの方が大きいのかもしれない。

 ふとウィリアムの思考は飛んだ。

 女王陛下が、アイリスの時代──恐らく三十年前──からずっと、同じ若さだったことが引っ掛かった。これは恐らく、見た目が水晶髑髏によって若返ったからではないか、と予想する。


「それで……貴方の頼み事というのは?」ウィリアムは質問した。

 ここへ来るまで、遠い廻り道だったなと思いながら。

「そうだ。私からの頼みは一つ。ギルバートの持っている、爪の指輪を壊して欲しい」

「それは貴方の過去が記憶されているからですか?」

「それもある。が、あの指輪が強すぎるからだ」グレンは顔を振り、「あまりに便利なんだよ。シンプルな強さというのは。使う身が弱いと、溺れてしまう。私は実際、それに溺れていた……愚かだった」

「ジェイクも貴方のようになると?」

「ならない保証はない」

「いいえ。なりませんよ」ウィリアムは微笑んだ。「彼ならあり得ません」

「どうしてそう断言できる」グレンは怪訝そうな顔になる。

「それは、貴方ほど真面目じゃないからです」

「は……?」


 ウィリアムは自分が言った理由が可笑しくて、くすりと笑った。

「ふざけているのか?」グレンは眉を吊り上げる。

「いえ、至極真面目なつもりです。……そう、何と言ったら良いのか、彼は追い詰められたら、きちんと逃げ出せるんです。貴方は、きっと期待を背負おうとしたのではありませんか。仕事をすることは、教会のためにもなるから、とね。だからこそ、自分のために指輪を捨てることが出来なかった。違いますか?」

 グレンは背もたれに寄りかかり、天を仰いだ。

「否定は出来ない」

「ジェイクは、大丈夫ですよ。陽気ですからね。貴方は少し深刻に考え過ぎるところがあると思います。だから、この場合はむしろ、不真面目な彼の方が、上手く扱えるのではないでしょうか」

「そうだろうか」

「ええ。僕はそう思います。それに──」ウィリアムはイメージに適切な言葉を探して、言葉に詰まる。「そう、運命がどうなのかなんて、僕らには知り得ませんもんね。何事も試してみるしかないんですよ」

「限度というものがあるだろう。あれは、試すには危険過ぎる」

「あはは、そうかもしれませんね」

 グレンはため息を吐いた。「君がこの調子なら、きっと彼に頼んだところで断られるだろう。……なら、私からの要望は以上だ」彼は椅子から立ち上がる。「せめて、君らの無事を祈っておこう」

「最初に僕らを襲っておいて?」

 グレンは鼻息を漏らした。笑ったのかもしれない。

「そうだな」と彼は首肯する。「悪かった。視野が狭くなっていたようだ。私も、もっと心に余裕を持つべきだったかもしれない」

「では、僕はこれで」ウィリアムも椅子から立ち上がった。

「ああ」

「さようなら」


 グレンが扉から出ていく。ウィリアムはそれを見届けると、自分も部屋を退出した。面会室の外では、バルパ刑事が壁に寄りかかって待っている。

「終わりましたよ」ウィリアムは声を掛けた。

「そのようですね」バルパがにこやかに頷く。「彼とは、どんな話を?」

「そうですね……グレンは、私の母と同じ大学の出身だったみたいで、当時の話を聞かせてもらいました」

「そうなんですか……その、何か頼み事というのは?」

「指輪を壊してくれ、とのこでした。でも、断りましたよ」

「成る程。ああ、そうそう、貴方に見せたいものがあったんです」バルパは懐から一枚の写真を取り出した。「ほら、これですよ」

 写真を手に取ると、そこに写る男の顔を見つめる。

「ギンティ・ギルバートです」バルパ刑事は言った。「バートン夫人にも見せたところ、確かにこの男だったと証言しました。彼ですよ、アンダーソンさん」

「これ、貰っても?」ウィリアムは訊いた。

「ええ、勿論」

「ありがとうございます」軽く頭を下げて、ウィリアムは礼を告げる。「そうか、これも因縁ですね」

「え? どう言う意味ですか?」

「いえ、特に深い意味はありません」

主な登場人物

ミレア・アンダーソン ウィリアムの母 考古学者

レオナルド・ウィンストン 女王陛下の護衛官

ヘンリー・モートン 神父、ギルバート兄弟の父

ダーラ・ギルバート 神父の妻


アイリス・アンダーソン ミレアと同一人物

ジェイムス・ハンター グレンと同一人物

ジェーン・ハンター ニーナと同一人物

ローレンス・モートン ヘンリーと同一人物

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