震度9。命がけ中年
震度8の地震だったらしい。
ゴゴゴゴと激しく揺れた瞬間に課長の佐藤さんが走って来て私の上に覆いかぶさってきた。
すぐに私を守ろうとしてくれていると分かった。
机が倒れ、蛍光灯のガラスが割れ、机の上のパソコンや会議用の大型モニターも落下した。
「んふぅぅぅ!」
「いやぁぁぁ!あんぎゃああ!」
課長は私の代わりにそれらを背中で受け止め痛みに絶叫し、私はただ怖くて叫ぶだけだった。
課長越しでも胸が痛い!オヘソの下が苦しい!
課長はカクカクと痙攣し、血を吐いている。
「ひぃ……ひぃ……」
「課長……ありがとうござ……おんぎゅううう!」
地震は終わっていなかった。
震度9,今回の地震の最高震度。
床がグニャングニャンと揺れ天井が抜け、上のフロアの社員たちが落ちてきた。
とてつもない轟音だった。
「あー!」
「はぁぁん!」
課長は彼らも背中で受け止めてくれた。
「ふっ!はぁっ!ふうぅん!はぁっ!」
課長の痙攣が激しくなる。
もう身体中がボコボコに歪んで全身の骨が折れているハズなのに……。
「……これがセックス!初めてしたのぉ!気持ちーー!」
ああ課長はもう死ぬんだと思った。
幻覚を見ている。
もう痛みすら感じないんだ。
あとやっぱり童貞だったんだ。
「……」
ずっと課長に覆いかぶさられていたので私の全身も圧迫され続けて感覚がもう無い。
意識が遠のく。
数十回の余震の後、私はレスキュー隊によって救出された……らしい。
ビルで生き残っていたのは数名。
課長はもちろん死んだ。
その何ヶ月か後……私は隣の隣の県にある産婦人科で課長の子供を堕ろした。
「……童貞の生存本能ってすごいわ」
救出時、私と課長は下半身裸だった。
課長は地震のどさくさで私で『童貞卒業』をしたのだ。
彼は轟音と激痛の中何度も射精した。
彼はセックスがしたくて私に覆い被さった。
感謝1。気持ち悪さ99。
「エロ課長!死ねよ!……いやもう死んでるんだわ」
私はPTSDでしばらくそれが口癖になった。
田舎に帰ろう。