小さなイザドラ その1
デビッドは相変わらずイザドラを斃す方法を考え続けていた。
(うーん、うーん……)
彼は基本的に考え続けることが苦手だった。たまに直感的に正しい答えに辿り着くこともあるが、たいていは迷走した結果へんな方向に結論が飛躍してしまう。今回もその例に漏れない結論が出た。
(シンプルに、リビングルームの入り口の上へギロチン仕掛ければ殺せるんじゃねえか?)
というのが今回デビッドが出した結論だった。
やると決めたら行動が早いのが勇者である。彼はさっそく空き部屋へ行き、慣れ親しんだ聖剣デュランダルを椅子の背に固定して即席のギロチンを作った。次にそれをリビングの入り口の上へ固定し、紐を引っ張れば固定が外れて落下するように細工した。これで準備オーケーである。あとはイザドラがリビングへ入ってくるのを待てばいい。
デビッドがギロチンの紐を掴んだままリビング内で待っていると、すぐに足音が聞こえてきて入り口のドアが開かれた。デビッドは慌てて紐を勢いよく引っ張った。
しかし入ってきたのはメイドのレクリスだった。
「あら、デビッドさん、こんにちは」
「うわああああああああああああああ!!!!」
デビッドが叫ぶ。即席ギロチンの鋭い刃が罪のないメイドを襲う。罪悪感と良心の呵責が滝のようにデビッドの心に降り注ぐ。
「いま紅茶を用意しますね」
レクリスはそう言うとUターンして紅茶を淹れにキッチンへと歩いて行った。
ガシャーン!
レクリスの背後で即席ギロチンとなった聖剣デュランダルが地面に落下する。
「はあ……はあ……よ……よかった……」
デビッドは肩で息をしながら自らが殺人者にならなかったことを神に感謝した。
とりあえず仕掛けは上手く動作しているようだ。デビッドは気を取り直してギロチンをもう一度もとの場所にセットし、紐をつかんだままイザドラを待った。
すぐに足音が聞こえてきて入り口のドアが開かれる。デビッドは『今度こそ』と思いながら紐を勢いよく引っ張った。
入ってきたのは執事のベルモッドだった。
「おや、デビッドさん、レクリスを見かけませんでしたかな?」
「うわああああああああああああああ!!!!」
デビッドが叫ぶ。即席ギロチンの鋭い刃が罪のない執事を襲う。
「うーむ、レクリスはどこへ行ったのですかな」
しかしベルモッドはそう言うとUターンしてキッチンの方へ歩いて行った。デビッドが胸をなでおろす。
「さっきからずいぶん賑やかね。いったいなんの騒ぎかしら」
ベルモッドと入れ替わりでイザドラがぴょこっと入り口からリビングに顔を出した。デビッドが呟く。
「あ」
ザンッ
ガシャーン!
鈍い音を立てて、即席ギロチンとなった聖剣デュランダルが地面に落下する。デビッドは思わず勝利の雄たけびを上げた。
「よっしゃあああ!!」
ドサッ ごろん
斬り離されたイザドラの首から上の部分が床に落ちて転がる。それと目が合ったデビッドはあまりのグロさに悲鳴を上げた。
「うわああああああああああああああ!!!!」
なんということでしょう。いつも通りの平和な昼下がりに突如として耐性のない人にはお見せできない惨劇が起きてしまったのだった。
デビッドは目を覆って逃げ出したくなったが、これをこのまま放っておいてレクリスやベルモッドに見せてしまってはさらなる悲劇になってしまう。勇者は心を鬼にしてイザドラの生首を処理してゴミに出してしまうために恐る恐る手を伸ばした。
すると、イザドラの生首が微かに動き出し、切断面がうぞうぞとうごめき出した。デビッドは今度こそマジな悲鳴を上げた。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!」
デビッドはそのままリビングの片隅にふらふらと行ってうずくまる。
「うっ……オロロロロロロロ」
勇者が虹色の吐しゃ物をリバースしている間に、うごめいていた部分が徐々に輪郭を形作り、イザドラの生首はぴょこりと立ち上がった。
「あらあら、デビッド、勇者ともあろうものが簡単に嘔吐してしまうなんて少し情けないわね」
背後から聞こえた声に勇者は驚いて振り返る。すると彼の目に映ったのは、等身大のイザドラの顔にミニサイズの身体がくっついた形容しがたい生物の姿だった。
「え……なにこの……なに? てかそっちが再生すんのかよ!」
デビッドの言う通りイザドラの首から下の部分は見事な惨殺死体となったまま入り口に転がっている。首から上の部分だけが再生して幼児が描いたデッサンの狂った絵みたいな生き物になったのである。
するとリビングの前の廊下からレクリスとベルモッドが談笑する声が聞こえてきた。デビッドの目の前にあるのは惨殺死体と謎の生物。これをそのまま二人に見せるわけにはいかない。
「ま……まずい……!」