炎の魔女ボーメラ その1
エルミュルの森の奥深く。
真っ赤なバニースーツに短い髪の女は、ハイヒールの靴音を響かせながら木々の間を歩いている。
翠色に咲いた花から白い魔粉が降り注ぐ深い森を、彼女は忌々しげに見上げて毒づいた。
「相変わらず辛気臭い森ねえ、まるで墓場のよう」
すると正面から何人かの足音が近づいてきて、吸血鬼イザドラと、勇者デビッド、傀儡子ルカ。それから執事のベルモッドとメイドのレクリスが姿を現した。
「あら~、墓場から墓守のお出迎え? 大人数で歓迎してくれてうれしいわぁ~」
バニースーツを着たボーメラの毒々しい挨拶に、イザドラが冷ややかな口調で応える。
「新しい客人が来る気配がしたから、従者を連れて出迎えることにしたの」
「んふっ、客人ねえ……まあいいわ。それより、見慣れたマヌケ面が並んでると思ったら、従者になってたのねぇ~。勇者デビッドに、傀儡子ルカ。12英雄から魔族の従者に変わり身なんて、どんな心境の変化かしらぁ~? あまりにも見事な転身でわたし泣いちゃいそう」
毒を向けられたデビッドとルカは険しい顔でボーメラを睨んでいる。いくら吸血鬼の館から脱出するためとはいえ、これほどまでに口が悪い魔女に助けを求めたことを、二人はすでに後悔していた。
ボーメラは二人の視線を楽しむように笑うと、余裕たっぷりにまた口を開いた。
「んふふっ、冗談よぉ~。あなたが私を呼んでくれたんだものね~、ルカ。せっかくこんな場所まで呼んでくれたんだもの、楽しく遊びましょうね? お嬢ちゃん」
そう言ったボーメラの片手から炎が燃え上がる。
遊びましょう、と言われた吸血鬼の少女は、従者たちの前へ歩み出て、やはり余裕のある調子で言葉を返した。
「あら、また火遊びをなさるの? 楽しむのはいいけれど、火傷しちゃだめよ」
(『また』……?)とデビッドが心の中で首をかしげる。ボーメラが毒々しく笑う。
「んふっ、炎の魔女が火傷すると思うのぉ~?」
「あら知らないの。氷でも火傷するのよ?」
イザドラが冷ややかに答える。ボーメラは口を吊り上げて笑い、掌から燃え上がった炎の魔力を打ち放つ。炎は3つに分かれて地面を焦がし、それぞれの方向からイザドラへ迫った。
ジャンプしてそれを避けたイザドラも、魔女に向かって魔力を打った。氷の塊が、空気を切り裂くようにボーメラ目がけて一直線に伸びていく。
しかし魔女が片手の人差し指を動かすと、炎が牙のような形になり、イザドラの氷を嚙み砕いて溶かしてしまう。さらに魔女が人差し指をイザドラに向けると、牙のような炎が、氷を嚙み砕きながらイザドラに襲い掛かった。
イザドラは自分の目の前に巨大な氷の塊を作り、炎の進撃を止めると、氷塊の左右から無数の小さな氷の刃を飛ばした。ボーメラは無数の炎でそれを迎撃し、氷の刃は全て炎にぶつかって溶け落ちる。
魔女は不敵に笑みを浮かべている。イザドラがやれやれとため息をついて呟く。
「氷にぶつかっても消えない炎なんて不思議ね」
ボーメラは実に楽しそうに自らの能力を説明する。
「ただの炎じゃないからねえ。私の炎は、海の中でだって燃えるわよぉ~?」
「そこまでして燃やしたいなんて、本当に火遊びが好きなのね。まるで躾のなっていない子供のよう」
イザドラに毒吐かれたボーメラが、はじめて目つきを険しくして相手を睨んだ。
「相変わらず可愛げのないガキね」
機嫌を損ねた魔女の口調に、イザドラは穏やかな声色で返す。
「ボーメラさんも、お変わりなくて安心したわ」
「どういうことだ?ボーメラ」
二人のやり取りを聞いたデビッドが口を挟んだ。
「イザドラと知り合いだったのか?」
デビッドの問いを受けたボーメラは、口元に笑みを浮かべながら少し黙っていたが、やがて指をパチン、と鳴らした。すると周囲を焦がしていた炎が一斉に消えた。
「そうね、少し昔話をしようかしら」




