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魔工博士サンドラ その4

 サンドラはネコのように片手で吊り下げられたまま、レイラを睨んでいる。何も喋らず、しばらくのあいだ、むすーっと不貞腐れていたが、ぽつりと口を開いた。


「私を、どうする気?」


 レイラは返答に窮した。このまま掴まえておくのもかわいそうだし、かといって手を離して隙を見せ、またゴーレムを召喚されても困るのだ。サンドラの作るゴーレムが手強いことは、レイラにはすでに身に染みて分かっていた。


「どうするって言われてもなあ……」


 レイラが要領を得ない返答をすると、サンドラはすかさず悪態を付きはじめる。


「何? このまま一生私をぶら下げておくつもり? そうやって私を恥ずかしめているんでしょ。あなたを痛めつけた私を、笑いものにするつもりなのよ、きっと」


「いや、そういうつもりじゃ……」


 レイラが思わず否定すると、サンドラはさらに声を荒らげた。

 

「じゃあなんでぶら下げるわけ? 言っとくけど、私は兵器を作るくらいしか能がない、そのゴーレムも破壊して、挙句捉えるんて、弱い私を見下している以外に何があるっていうのよ!」


「いや、お前は弱くねえよ」


 レイラの即答に、サンドラは思わず口をつぐんで目を見開いた。


「え?」


「だってあのゴーレムすげえ強かったからな。あんなのを作れるなんて、お前はすごい発明家だと俺は思うぜ。いま吊り下げてるのは、強いお前から手を離したら、また手強いゴーレムと戦う羽目になるってのが、分かってるからだ」


「え、え」


「本当にいい勝負だった。お前の強さは、俺が保障するよ。実際この俺がダウンしたんだもんな。だから胸張っていいと思うぜ」


 きっぱりと言い切ったレイラの言葉に、赤らめたサンドラの顔から煙があがる。サンドラが魔族から褒められるのはこれが初めてで、実際サンドラは強い相手から褒められることに弱かった。


「……て……」


 消え入りそうな小さい声でサンドラが呟く。レイラが「ん?」と訊き返すと、サンドラは


「もう戦わないから下ろして……」


 とやはり小さな声で言った。


「そうか?」


 レイラがサンドラを地面に下ろして手を離す。ちょこん、と地面に立ったサンドラは、うつむいて顔を赤らめたまま


「ありがと……サンドラって……呼んでいいわよ」


 とまた呟いた。


 そこへ、ポケットにアダムを連れたポッカがやって来た。


「ポッカ! ごめんな、戦いに巻き込んじまって」


 レイラがポッカに声をかける。しかし仔牛の獣人は、困惑したような目をレイラに向けて、立ち尽くした。


「レイラ……レイラが魔族って……ほんと?」


 魔族は人間にあだなすもの。その認識は、人間に近い獣人にとっても同じだった。思いつめた表情のポッカの問いに、レイラも真剣な顔で答える。


「……ああ。黙ってて悪かった。ただ、俺は獣人や人間に危害を加えたことはない。強い相手を探して旅してたってのは本当だ。それでも、もし、ポッカが魔族と連れ立って歩くのが嫌なら、ここで別れてもいい。俺は追いかけたりしない」


「レイラ……」

 

 ポッカは顔を下げて思い悩む。レイラへの感情と、魔族への忌避が、ポッカの心の中でせめぎあっている。


 暫しの沈黙。


 そこへ褐色竜アダムが、ポッカに声をかけた。


「仔牛の獣人よ、相手が魔族であることに思い悩むか。お前はレイラが人間だと思ったからついて行こうと決めたのか?お前にとってレイラとは、ただ種族で見るだけの存在だったのか?」


 アダムの言葉に、ポッカは、はっと顔を上げた。


(確かにそうだ。ぼくはレイラの種族を見てついて行こうとしたんじゃない。種族がなんであれ、かっこいいからついて行きたいって思ったんだ)


「かつての人間もそうだった。魔族の中には人間に与する者もいたが、善良な魔族も、ただ魔族であるというだけで人間に虐げられた。そうしてさらに、人と魔族の因縁は深くなっていった……それゆえ」


「レイラ!」


 回りくどいアダムの昔話を遮ってポッカが叫んだ。


「魔族だって関係ない!レイラはレイラだ!ぼく、まだついて行くよ!レイラとまだ一緒に旅していたい!」


「ポッカ……」


 仔牛の獣人の言葉に、レイラは心から嬉しそうに頬を緩め、それから歯を見せてにかっと笑った。


「ありがとな。けど、強いやつ探しの旅はいったん終わりだ。目的地ができちまったからな」


「目的地……?」とポッカが訊く。レイラは「ああ」と相槌を打ってから言い放った。


「エルミュルの森へ行く。サンドラが話していた吸血鬼へ会いに」

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