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英雄たちの苦悩 その2

((終わった……))


 デビッドとルカは同時に心の中で呟いた。失礼のど真ん中を突き抜けるような、しっちゃかめっちゃかな恰好で出迎えてしまったのだ。間違いなくイザドラに殺される。そもそも殺される前に羞恥心が死にかけている。


 しかし、二人の予想に反して、イザドラの父は狼狽えなかった。一切動揺することなく、二人にニッコリと笑いかけ、「はじめまして」と挨拶した。


「イザドラお嬢様の、新しい従者でございます」とベルモッドが補足する。「それはそれは」とイザドラの父がベルモッドの言葉を引き取り、二人に自己紹介をする。


「イザドラの父のロッベン・リベリーです。二人とも娘に仕えてくれてありがとう」


 反射的にデビッドが「ああ、俺はデビッ……」と言いかけたところで、ごつん、とルカが肘うちをする。


「じゃなかった! えー、あー、その、デビッドじゃなくて、えーと、バビッド……バビッドです! よろしく」


 しどろもどろなデビッドの自己紹介に続いて、ルカが自己紹介しようとした。しかし先にロッベンがルカに声をかける。


「かわいい衣装ですね。私は動物やかわいいものが好きなので、とても癒されます」


 かなしきかな、頭の回転が速いルカはそれを聞いて、咄嗟に裏声を出してキャラを作った。


「にゃ……にゃるん! ぼくも動物が大好きにゃ! ぼくはカルンっていいますにゃ★ よろしくにゃ!」


「ぶはっ」


 両手を前にあげてネコポーズをとりながら、裏声でバッチリ決めたルカの姿を見て、横にいたデビッドが噴き出した。


 ロッベンはまたにっこり笑ってルカの自己紹介に応えてから、「それで……」と話題を変えた。


「イザドラの従者ということは、お二人もやはり、魔族でいらっしゃるのかな?」


「いえ、ロッベン様、お二人は魔族ではなく、人間です」


 デビッドとルカの後ろに立っていたレクリスが、芯の通った声でロッベンに返答する。それを聞いたロッベンの顔が、はじめて驚きに包まれた。


「おお……イザドラが人間の従者を持つとは、親として、こんな嬉しいことはない……」 


 感慨深く呟くロッベンの言葉を聞いて、デビッドはぽりぽりと頭を掻いた。彼がスキルを使って視たロッベンのステータスには、確かに『種族:人間』と記されている。


 高慢な吸血鬼の父親は、人間だったのだ。そりゃ人間の親からしたら、魔族の娘が人間と上手くやってくれるのは嬉しいだろうな、とデビッドは思った。


「まあ、あれでもたまには可愛げがあるところもあるからな……」


 デビッドは我知らず呟いていた。

 

 ロッベンはデビッドとルカに握手を求め、「魔族の主に仕えるというのはたいへんだと思いますが、賃金や生活のことは私がしっかりと引き受けるから、どうか頑張ってください」と言った。


「ま、食事が3食出て、ふかふかのベッドで寝れるのは確かにありがたいな」


 そう言ったデビッドの顔を見て、ロッベンはふと思案気な様子になった。


「ふむ……? バビッドさん、以前どこかでお会いしませんでしたか? 確か王城に招かれたときだったような……それにあなたの声もどこか聞き覚えがあるような」


 ロッベンの人柄に緩みかけたデビッドの顔が、一斉に滝のような汗で覆われる。


 (やばい……!)


 咄嗟にデビッドは、勇者らしい思い切りの良さで、表情筋と顎の骨を目いっぱい引き延ばした。


 下あごを全力で突き出し、眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くしてドスのきいたしゃがれ声を絞り出す。


「あん? 悪いが生まれてこのかた、ワシは人里に近づいたことなんかありゃせんよ。ワシはずっと猟銃片手に獣を追い回してた、荒々しい猟師じゃけえ。人違いじゃのう」


「は、はあ。人里……ですか?」


「にゃるん! にゃ、にゃ、ロッベンさん! こんなところでずっと立ち話はよくないにゃ! イザドラお嬢様が待ってるにゃ!」


 狐につままれたような様子のロッベンを、ルカが強引に立ち去らせようとする。ベルモッドも助け船を出した。

 

「はい、ロッベン様。ご歓談中痛み入りますが、そろそろイザドラお嬢様が首を長くしておいでです」


「ああ、そうだった。可愛い娘を待たすわけにもいかないな。それでは私はここで失礼させていただきます」


 コツコツ、と靴音を鳴らしながら廊下を去っていくロッベンとベルモッドを見送り、デビッドとルカは胸を撫でおろすのだった。


 「入るよ、イザドラ」


 ドアをノックする音がイザドラの居室に響き、続いて吸血鬼の父親の優しい声が聞こえてくる。

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