表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した勇者(バカ)はパワハラ吸血鬼の下僕になる  作者: 久米 貴明
第4章 吸血鬼に迫り来る英雄たち
16/16

傀儡師ルカ その2

 デビッドは腕組みをしながら、自らの右手を見つめたまま硬直しているイザドラの顔をにんまりと見ていた。


(頭で考えた身体の動きと実際の動きが左右逆になる感覚……イザドラ、お前がいくら身体能力に優れているといっても、その状態でルカのからくり人形とまともに戦えるかな……?)


 デビッドは心の中で呟いた。しかし——


 ザンッ カラカラカラ……


 イザドラはこともなげに左手の爪を振るうと、ルカが操る人形の兵士を砕いてみせた。傀儡師ルカが感心して呟く。


「ほう。最初のマスで力尽きる魔族も多いのに、君はずいぶん余裕そうに倒してみせたね。けど、君が僕のところに辿り着くには、最短でもあと4マス分動かないといけない。そして、これは君への忠告だけど真ん中の道は最も難しいよ。多少遠回りをしても楽な道を通った方がいいと思うけどね」


「あら、私回りくどいのは嫌いなのよ。せっかく招いてくれたんだもの、早く貴方のもとに行きたいわ、くすくす」


 イザドラは笑いながら応えてそのまま真っ直ぐ前のマスに足を踏み入れる。そこには紙人形のような人の形の横に上下の矢印が描かれていた。そして模様の中から再度ルカが操るからくり人形が現れる。


「次はどんな遊びかしら?」とイザドラが笑いながら言う。


 からくり人形は手に持った剣をイザドラに向けて下から上に斬り上げた。後ろに下がって避けようとしたイザドラの身体が、真っ直ぐ相手の剣に向かって進んでいく。


「くっ!」


 ザンッ


 咄嗟に身体を横に捻って避けたイザドラの髪が剣にかすってハラハラと舞い落ちる。デビッドとルカが思わず驚嘆のため息を漏らす。


「すげえな……」


「ほう、これも避けるのか……」

 

 イザドラは斬られた髪の先端を少しの間手に取って睨んでいたが、剣を持った人形がまた動き出すのを見て口を開いた。


「前後の動きが逆になる遊びね。じゃあ私がいま勢いよく手を後ろに下げたらどうなるのかしら?」


 人形が剣を振りかぶってイザドラに斬りかかる。イザドラの右手の爪が寸分たがわず人形の頭部に打ち付けられる。


 バキッ カラカラカラ……


 頭部を砕かれた人形が崩れ落ちる。イザドラが不敵に言い放つ。


「こうなるのね。面白いわ」


 デビッドはもはや呆然と立ち尽くして口をつぐんでいる。ルカの目つきが少しずつ険しくなっていく。


 ザンッ カラカラカラ……


 イザドラは次の『上下が逆になるマス』の人形もなんなく片づけてさらにその次のマスに進んだ。ルカの目つきはいっそう険しくなった。イザドラとルカとの間にあるマスはあと二つ。


 そこには紙人形のような人の形の横に、↓(下矢印)が4つ描かれていた。その模様から大きなハンマーを持った大きな人形が現れる。


 ズンッ


 突然イザドラの両足が床に釘付けになって、身体の動きが止まった。


「ぐっ……」


 吸血鬼の苦しげな声を聞いてルカの声が歓喜に沸く。


「ふふふ、そのマスはきついだろうね! 巨岩よりも重たい負荷が全身にかかる感覚はどうかな? 悪いけど、そのマスを超えられた魔族は殆どいないよ。たった一例を除いてね」


 人形はハンマーを振りかぶりイザドラの身体めがけて振り下ろす。(ぺしゃんこだな)とデビッドは思った。


 ミシッ


 イザドラの両足に恐ろしい負荷がかかった嫌な音が鳴る。そして吸血鬼は獣のような叫び声をあげて人形めがけて突進した。


「ガアッ!」


 バキィ! カラカラカラ……


 体当たりを食らった人形の真ん中に穴があいて崩れ落ちる。「ありえねえ……」とデビッドの口から言葉が漏れる。


「ふう、確かに慣れるまでは少し動きづらいわ」


 イザドラが服についた人形の欠片を払いながら言い放つ。ルカの顔から滝のような汗が噴き出す。


「さて、名残惜しいけどあと1マスね。最後はどんな遊びかしら?」


 イザドラが全く躊躇せずさらに目の前のマスに足を踏み入れる。そこに描かれていた模様は……ドクロだった。


 ゴゴゴゴゴ、と空間が揺れて、巨大なからくり人形がドクロ模様の上に出現する。そしてイザドラが倒したのと同じ4体の人形も上から降ってきた。ルカが叫ぶ。


「ふはは! もはや謎解きはいるまい! 前後上下左右全て逆! そして全身に巨岩の負荷! つまりはこれまでの全部だ! 5体の人形相手にそんな状態でどう戦う!?」


 しかし——


 ザンッ カラカラカラカラカラカラ……


 呆気ない音とともに全ての人形が崩れ落ちる。イザドラはたった一撃で全ての人形を倒してしまった。ルカが椅子に座ったまま愕然とした顔をする。


「馬鹿な……ありえない……そんな……まさか……」


 イザドラはものすごく楽しそうに笑いながら、マスの中からルカのいる外へと足を踏み出す。


「くすくすくす、ようやく会えたわね」


「ありえない……まさか……まさか……」


 ルカは顔を手で覆いながら呟いている。その口元が、不意ににやりと笑った。


「……まさかこんなにあっさり僕の罠にかかってくれるなんてね」


「!?」


 イザドラの全身が床に叩きつけられる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ