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【Quiz 1】閉ざされた場所




クイズの神様はいる。


マルかバツか?







世の中に、人生をかけられる「何か」を持っている者は、何人いるだろうか。世界中の殆どの人が持っているかもしれないし、もしかしたら自分だけかもしれない。

「───これで、9対8、隼押はやおし高校がリーチです。では、次の問題」

司会が読み上げる。それと同時に、僕ら10人は一斉にボタンに手をかける。

僕は今、「クイズしている」。

耳を澄ませ、ボタンを押し込み、力強く答える。クイズとは、たったこれだけ。でも、小学生が親にねだるような「クイズ」ではないし、友達同士で気軽に出し合うような「クイズ」でもない。クイズとは、実力勝負。真剣勝負。どんなゲームよりも、どんなスポーツよりも、熱いバトルだ。

僕が所属する隼押高校クイズ研究部には、38人が所属している。他の部に所属している人たちからは、「大所帯」「羨ましい」などと言われるが、実際は幽霊部員がその大半を占めている。趣味にするつもりで入部した人が、その実態に幻滅して、やがて来なくなる、というパターンがお決まりだ。

実態……というのは、この部の熱である。

部活が開始すると、すぐさまボタンを準備し、早く練習に取りかかれるようにする。

準備が完了すると、問読みという「問題を読む人」は、問題集を手に、問題を読む。早押しクイズの場合、大体の問題は問題文を読み終える前に誰かがボタンを押すので、ボタンが押されたら即座に読むのをやめ、答えを待つ。正解すると、すぐに次の問題に取り組む。その一連の流れに、私語はない。

お遊び程度でやっているんじゃない。これくらい真剣にやらないと、「ハイスクールクイズ」を11回制している隼押高校クイズ研究部として成立しない。

コウ、問読み、始まるよ」

「あ、う、うん……」

そんなことを考えていると、スイに呼び戻された。危ない。こんな大事な場面───「第50回 ハイスクールクイズ」の全国大会決勝戦、灯星とうせい学院高校との試合で気を抜くなんて。僕は再び、ボタンに手をかける。プラスチックの感触が、わずかに伝わってきた。

緑矢みどりや 翠は、中学校で知り合ったクイズ仲間だ。彼女は努力型の僕とは違い、生活で培った知識を武器に、クイズに立ち向かう。学校ごとに5人でチームを組む「ハイスクールクイズ」に去年も出場したのは、2人。1人は僕、もう1人が翠だ。残りの3人は先輩だった。

「『おい、おきろ』…」

司会がそこまで読み上げたとき、どこからか軽快な音が聞こえてきた。誰かがボタンを押したのだ。周りを見渡す。どうやら隼押高校の生徒ではないようだ。

灯星学院の方を見ると、一番右端に座る少年───ひらめき 蒼弥ソーヤのボタンが光っていた。

「……『夢をかなえるゾウ』」

彼が答えた瞬間、会場中に正解音が鳴り響いた。少し遅れて、大げさともいえる拍手の音が広がった。

「お見事。正解は、『夢をかなえるゾウ』です。これで灯星学院高校もリーチです」

会場の熱気とは裏腹に、司会が冷静に告げる。

「……!」

僕は若干の焦りを感じた。

(負けるのか……? また、ここで……?)


◆◆◆◆◆


ちょうど去年、同じ会場で、「ハイスクールクイズ」の全国大会の決勝戦があった。民衆が注目するそのカードは、大会3連覇中の隼押高校と、全国大会初出場、実力未知数の多庭おおば高校だった。

「いいか。相手校の知名度は関係ない。今まで積み重ねてきたことの全てをぶつけるんだ」

先輩がそう言っていたものの、僕の中には油断が残っていた。意識していたわけじゃない。油断も取り除いたつもりだった。けれども、心の底に欠片が残ってしまっていたらしい。

試合は終始、隼押高校が優勢のまま、9-5でリーチをかけた。

いける。

僕は直感でそう感じた。周りを見渡しても、誰もが隼押高校の勝ちを確信していた。僕の脳内には、すでに優勝を手にし、喜び合っている隼押高校メンバーの様子が再生されていた。

「では、次の問題。」

みんなが一斉にボタンに手を置く。

「代表作に、『武器よさらば』…」


(勝った……!)


間違いない。この問題の答えは「ヘミングウェイ」だ。僕が得意な、小説のクイズ。外すわけがなかった。

僕はボタンを力いっぱい押した。


(……あれ?)


しかし、カチッ、と乾いた音がしただけだった。

本来なら、一番最初に押した人のボタンのランプが光るはずなのだ。

しかし、自分のボタンは死んだように無反応だった。

自分のボタンにも、さっきまで何回も赤い光が灯っていたから、故障ではない。


(……まさか、他の人が……)


周囲の観衆───その全てがこの全国大会の予選で敗れ去った者たちだが───もざわめいていた。その注目先を必死に探す。

すると、僕たち隼押高校の席の左側、多庭高校の席のさらに左端のボタンが、赤い光を燦々と放っていた。

「多庭高校の閃さん、答えをどうぞ」

「ヘミングウェイ」

潔いほどの即答だった。僕の身体を、稲妻のようなショックが襲った。僕の耳に空白が流れ、ワンテンポ遅れて拍手と歓声が入ってきた。頭が痛かったのは、その音があまりにも大きかったせい……ではない。そんなことくらい、わかっていた。その爆音も、だんだんと遠ざかっていった。

そこから先は、あまり覚えていない。多分、1回もボタンを押していないと思う。押したところで、おそらくボタンは光らない。そう考えるようになっていたんだと思う。

気がつくと、僕の隣には、涙を流す先輩方と、3人を必死に慰める翠の姿。反対側には、はるか遠くに、やけに騒ぎまくっている多庭高校の生徒たち。そして正面の観衆からは、こんな声が聞こえてきた。

「すげーな、多庭」

「3連覇中の隼押を抑えた……」

「しかし、隼押のやつら、みんな泣いてんな……」

「しゃーないよ、あの状況から閃ってやつに全く太刀打ちできずに終了だぜ? 俺だって泣きたくなるよ」

僕は、そこで初めて、自覚した。


ああ、僕らは負けたんだ。


僕は、泣き崩れる先輩方の背中に、隼押高校の教室で練習していた彼らの姿を照らし合わせていた。先輩方に必死に練習した過去があっても、無駄になってしまった。


いや、無駄にしてしまった。


僕が。押せなかったせいで。


僕の視界が滲んでいく。なぜだろう。といっても、なぜなのかはわかりきっていた。

悔しい。申し訳ない。自分が憎らしい。

僕は地団駄を踏みそうになった。今思えば、かなりみっともない行動だった。しかし、当時の僕は、そう判断できるほどの冷静さを持ち合わせていなかった。

「狭野。緑矢。こっちに来てくれ」

すると、先輩の1人、こおり先輩が僕たちを呼んだ。

郡先輩の目は、普段の温厚な性格からは考えられないほど、赤かった。優しくて、かつ部長としての尊厳もある。僕は郡先輩をこれ以上なく尊敬していた。

「あの左端に座っていた奴…閃…あいつはまだ2年生らしい」

(……!)

僕は軽く驚愕の表情を浮かべた。おそらく隣の緑矢も同じような表情をしていただろう。

「つまり、お前たちとは、来年も戦う」

郡先輩が何を言いたいのか、もうわかった。

涙はとっくに止まっていた。

「来年は……あいつに勝て。勝って、お前たちの執念を見せてやれ」

……。

返事は一択だ。

「はい」

僕も、翠も、大きく返事した。不気味なほど、声がシンクロした。


◆◆◆◆◆


(いや……僕は……勝つんだ!)

あれから1年経った。閃はやはり勝ち上がってきた。

しかし、妙な点が1つあった。

去年は多庭高校の選手として出場したはずだ。それで、全国大会初出場の多庭を初優勝に導いた。

しかし、閃は今回、多庭高校ではなくなぜか灯星学院高校のチームにいる。多庭だって、今年もこの全国大会に出て、準々決勝まで進出している強いチームだ。チームを移動する理由がわからない。

しかし、また閃とこうして戦えるのには変わらない。チームが何であろうと、僕らは全力を出すだけだ。

ボタンを押す構えに入りながら、僕は右を向いた。翠と残りの3人の横顔が見える。表情は違えど、皆、自信に満ちていることがわかる。

閃と戦うために、僕たち隼押高校は、僕、翠、3人の同級生でチームを組んだ。3人とも高校で初めて会ったが、全員が頼りがいのある人たちだ。

飛騨ひだ 秋夜シュウヤ。部内戦3位。「~は~ですが、~は何でしょう?」といった形の問題、通称「パラレル問題」が得意。クールな性格でいつも怖い顔をしているし、そもそも喋ることがあまりないのでチーム戦に向いていないが、個人ではかなり強い。

松里まつざと メグ。部内戦4位。知識は少ないが、流行に敏感でエンタメ系の問題はほぼ正解。人懐っこいがいい加減で、トラブルメーカー。でもクイズに強いのが謎だ。

愛野あいの 瑛翔エイト。部内戦5位。経済や理科など、「硬い」ジャンルを得意とする。知識は5人の中でずば抜けているが、おとなしく控え目な性格のため、ボタンを押す回数が極端に少ない。巡とは良い関係のようだ。

「来るっ……!」

翠が小さな声で漏らした。これで全てが決まる。

「では次の問題です。コンビニエンスストア……」

僕はボタンに力を─────


◆◆◆◆◆


それが君の答えか。


正解は───


◆◆◆◆◆


目がゆっくりと光を取り戻す。そして徐々に、その光が同心円状に広がっていくのがわかる。

「……んぁ……?」

僕の口からは、思ったよりも間抜けな声が出てきた。目には、一面真っ白な平面が相変わらず映っている。それが天井だと理解するのに数秒を要した。

そして、それを理解した次には、寒気が僕を襲ってきた。

身体的な寒さだけじゃない。寒気というか…血の気が引くような感じに近かった。

「……って……ええ!?」

そうだ。僕たちは「ハイスクールクイズ」の決勝戦の真っ最中だったはず。それも、閃との大事な勝負の最中、最終問題の直前……!

自分がなぜこんな所にいるのかがわからなかった。拉致された? いや、あんなに他の学校の生徒もいたんだ。あの生徒たちの目をかいくぐり、僕たちだけを拉致するなんて芸当ができる人間がいるとは思えない。

僕はとりあえず身体を起こし、周りを見渡した。僕の正面には、水の入った水槽、どうやら動いていない時計、そして部屋にあればちょうどいい物入れがあった。そして、その少し上には、モニターが。

それはかなり大きかった。金持ちが使うテレビくらいの大きさ、と言えば伝わるだろうか。そんなものが壁にしっかりと張り付き、存在していた。

「……うぅ……」

すると、足下で呻き声がした。見ると……。

「……翠……それに秋夜、巡、瑛翔まで……」

間違いなかった。隼押高校のメンバーが全員いたのだ。どうやら僕と同じように、気を失っていたらしい。

「鋼……ここ、どこ?」

翠が訊く。しかし、僕は首を横に振るしかなかった。

「わからない」

「……俺達、決勝戦やってたよな」

「どうなってるの……?」

「ぼくたち、誰かに連れてこられたの……?」

後の3人も、動揺を隠せないようだ。

「みんな静かに。まずは、状況を整理しよう」 

……言ってみたものの、僕だって不安だった。説明もなく急にこんな場所に連れてこられて、冷静でいられる人がいたら見てみたい。

「あっ……ドアがある!」

すると、巡が唐突に、僕の方を指さした。いや、正確には、僕の後ろを指さしていた。振り返ると、部屋の色に同化するように真っ白な片開きドアが佇んでいた。

巡はドアに向かって走ると、付いていたノブを思い切り引っ張った。おそらく開かないことを予想していたのだろう。僕も同じことを考えていた。

だがドアは、以外とすんなり開いた。

「うわぁっ!?」

巡は自らの力に引っ張られるようにふらふらと後退し、尻もちをついた。

「……? なんなんだ、これ……」

痛がっている巡をよそ目に、僕たちは開いたドアの向こう側に注目した。

まず、目の前にに建物が見えた。何階建てかはわからない。何軒も密集していて、そういった建物の一つ一つが、何やらイルミネーションのようなもので照らされていた。

「……本当にどこなの、ここ……」

翠が思わず口にした言葉は、他の4人の脳内にも存在していた。見たことのない景色が、開いたドアの向こうに見えている。

「……これ、出て良いんだよね……?」

遅れてやってきた巡が言った。

「……確かに。もう無駄かもしれないけど、決勝戦に戻らないと……」

瑛翔も同意する。僕も、うん、出よう、と言ったその時だった。


『みなさ~ん、注目~』


「!?」

「何!?」

その音声は後ろから聞こえた。見ると、先程僕が発見したあのモニターに、映像が映っていた。

映像といっても、映っているのは人物1人。しかし、1人でも多すぎるくらいの存在感を放っていた。

ワイン色のスーツ(のような服)に、緑色の蝶ネクタイ。手には目が痛くなるほど黄色味の強いマイク。下半身は見切れてわからないが、首から上にはこれまたワイン色のシルクハット。

そして、何よりその存在感を際立たせていたのは、その人物が付けているお面だった。しかも、なぜか猫……? 『猫を被る』という意味なのだろうか。

『たった今全員が起きたから、説明をはじめるよ~』

全員? 説明? 理解が追いつかない。この事態に巻き込まれているのは、僕らだけではないのか? もしそうであれば、一体どれくらいの人が?

『率直に言うと、キミたちに〈カミサマのクイズ〉をやってもらう』

〈カミサマのクイズ〉?

『あー、〈カミサマのクイズ〉っていうのは、その名の通りだよ。カミサマが作ったクイズだから、〈カミサマのクイズ〉』

……。

はっきり言って、胡散臭い。

神が作ったとかなんとか言ってるけど、どうせ自作の問題だろう。そんなものを解くために、僕たちは拉致されたのか。

大事な勝負だったのに……!

そう思うと、再び悔しさが滲み出てきた。僕は壁に手をつき、とくに意味も無く力を込めた。当然、壁に変化は見られなかった。

『まー、その前にキミたちにはやるべきことがあるけどね』

「やるべきこと……?」

瑛翔が呟いた。

それに答えるように、モニターから音が流れた。

『クイズ1。部屋から脱出せよ』

………。

…………。

……………。

「え? それだけ?」

巡が言った。予想外だ、と言いたげな声色だった。

『たったそれだけです。まぁもちろん、優秀なクイズプレイヤーのみなさんなら、簡単だと思いますけどね』

「なんだ、クイズ関係ないじゃん……早く出よう!」

そう言うが早いか、巡はドアに走り、外に出ようとした。

すると。

『おっ!』

モニターの人物が何やら楽しげな声を上げた。と同時に、巡の動きが止まった。声に反応したのだ。

『いや~、大変申し訳ないです! これを言うのを忘れてましたよ~』

すると、急にモニターが暗転した。かと思えば、すぐにモニターの画面が切り替わった。


僕たちは、息をのんだ。

唾が喉を通るとき、やけに嫌悪感を感じた。


モニターには、僕たちとは別の部屋であろう場所の、おそらく天井からの様子が映っていた。見た感じ、部屋の様子は僕たちの部屋と同じようだ。

いや、そんな問題はどうでもよかった。


そのドア付近に、人が密集していた。

そのうち3人は、なにやらひどく慌てているようだった。ドアの近くに固まり、何かを覗き込んでいる。

かと思えば、3人のうち1人の少女が泣き出していた。そして、もう1人の少女に抱きつく。

そして何より────。

虚ろな目をした男子生徒が、ドア付近の血溜まりの中で倒れていた。

「……!」

「嘘……!」

翠たちが僕の後ろで衝撃を受けているのがわかる。かくいう僕も、足がとんでもなく震えていた。

『ドアから一度に出られるのは、1人だけ。2人以上が一度に出ると、どちらか1人は……』

モニターの人物が、両手を勢いよく開いた。

「えっ……」

巡がモニターとドアを交互に見ながら、へたり込んでいた。

『さらにさらに、部屋から15分以内に出られなかったら、部屋の中にいる全員が〈ボカーン〉です』

モニターの人物がまたしても両手を開く。

「ふっ……」

すると、秋夜が口を開いた。

「ふざけるな……!」

秋夜にしてはかなり声が大きかったように思えた。しかし、違和感を感じる者は誰一人いなかった。

『おやおや、みなさん私に文句を言ってるようですねぇ~』

モニターの人物は相変わらず楽しそうだ。少しずつズレるシルクハットを手で戻しながら、お面の目でこちらを見つめている。

『おやおや……そんなに騒いで大丈夫ですか……? 』


『クイズはまだ、始まったばかりですよ……?』







隼押:5

灯星学院:5

円岡商業まるおかしょうぎょう:5

西薗寺大附属さいおんじだいふぞく:5

多庭:5

瓶山東かめやまひがし:5

軒野のきの:4

山吹学園やまぶきがくえん:5

今森学園いまもりがくえん:5

田若学院たじゃくがくいん:5

日置ひき学芸館がくげいかん:5

襟丘えりおか:5

セントアルカナ:5

福禄高専ふくろくこうせん:5

浅松川あさまつがわ:5


REMAINING:74


───────────────────────

完全自己満

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