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金曜異世界:湖の町の物語3

さて、湖に落ちて助かったライは、悩みの主を探して案内人のミラと歩き回りますが、どうなっていくのでしょう?

「うん、悩みを解決したおかげで、この町に住めたの。私は、町の中心となる教会が使われていなくて困っていたようだから、教会の改修と掃除をしたの。1ヶ月もかかちゃったけど、精霊さんの許しが出たみたい」


「じゃあ、僕も、悩みを解決したら、この町に住むことになるの? 住むとかそんなこと言ってなかったはずだけど」


「希望すれば住めるのかも」

「ともかくそれは解決すればわかるよ。それよりさ、僕が見つけた女の子、知らない? 髪の毛は赤くて肩の下くらいまであって、水色のリボンで、座っていたからよくわからなかったけど、けっこう背が高い感じだったな」


「ああ! 赤毛のアンちゃんね。アンナ・レーハンとっていうのが本名だけど、みんなアンちゃんってよんでいるわ。あの子はいつも元気いっぱいで笑顔が素敵な女の子よ。……ということは知っているけど、それ以上はよく知らないし、最近は見かけてなかったな」


ミラは両手を伸ばしながら教会の周囲に広がる花畑のほうを見ます。少し日が傾いてきているので、教会の影が斜めに伸び始めています。


「なるほど。あとさ、僕が湖の奥で見た鯉のぼりについて、何かわかる? 湖の奥の方で見えてたんだけど、……もういないね」


教会の右側にある、腰より高い程度の低い石塀まで近づくと、湖が一望できます。湖はとても広く、曲がりくねっていて、山が間にそびえたち、全体を見ることはできません。教会のある丘から二人が並んで目を凝らしますが、鯉のぼりの姿は見えません。


「それは、うーん、わからない。聞いたこともないわ」

「一体何だったんだろう?」

「見間違いじゃないの?」


そのとき、教会に男の人がやってきました。

「やあ、ミラ、こんにちは。お祈りをしにきたのかい? いつもはお昼寝の時間じゃないのかね?」

下から登ってきた時計屋のおじいさんです。朗らかな様子で声をかけてきました。


「いいえ、町を案内してたの! お昼寝は今日は気分じゃないの。時計屋さん、この人はライ。昔の私と同じで、“悩みの旅人”よ」

「こんにちは」


「おや……、キミは確か、朝の。そうか、では悩みを探しているんだね」

「はい、悩んでいるような人を見つけたので探しているんですが、時計屋さんは赤毛の女の子がどこにいるか知りませんか?」

「赤毛の? ああ、あの可愛らしい子か。時計をよく見に来てくれる子か。いやあ、わからないな。まあこの時間なら”上の畑”に行ってるんじゃないのかな」


「そういえばそうね。ここから奥にある丘に、”上の畑”って呼ばれている町の共同の畑があるの。この時間はみんな収穫していることが多いの。アンちゃんは家の手伝いをよくしてるみたいだし、きっとそうよ」

「じゃあ、行ってみようか」


「そうしましょ! そのもっと上に行けば、湖のずっと向こうの景色も見れるのよ! 夕焼け空がきれいにみえるのよ!」

ミラが小動物のように勢いよく飛び跳ねると、おじさんは少しのけぞりました。


「おや、教会の中でお祈りしていかないのかな?」

「もうお祈りは終わったわ! いきましょ、ライ!」

ミラに手を引かれて、変な姿勢で歩きながら、ライは後ろに向かってお礼をいいます。

「時計屋さん、ありがとーございまーす!」

笑顔で手を振る時計屋さんは、なんだかとてもうれしそうでした。


**

”上の畑”に向かうミラとライの二人。遠くから見ているギャングの集団がいました。ギャングといってもできたばかりで、町の非行少年たちが集まっているだけです。だけど若いゆえに何をするかわかりません。

「街に来たとたん女連れかよ。気に食わねえな、あいつきっと“悩みの旅人”ですぜ」


「ああ、気に食わねえ。こらしめてやろう」

「そうしよう」

「そうだ、そうしよう」

語彙力のない集団は同じことを繰り返しながら不気味に笑いました。


**

二人が畑についたとき、太陽はずいぶんと傾いていました。夕焼け空になろうとしています。畑は教会のある丘のさらに奥にある丘に広がっていました。ライの学校の運動場の何倍もある広さです。

「うあー、広いねえ!」


思わず感嘆の声を上げます。作物の緑の葉がたくさん出ていますが、よくわかりません。ホウレンソウみたいな植物が多いみたいです。まだ小さいのが多いです。

「そりゃみんなの畑だもん。でもアンはいないわね。というか誰もいないわね。珍しいわ」

まるで動物のようにあたりを見渡して、ミラが首をかしげます。畑には誰もいません。風が強いからかもしれません。


「あっちの小屋にいるんじゃない?」

ライが指さした先には、小高くなっているところに小屋があります。

「あそこは共同の道具入れよ。クワとか草刈りのカマとか入れるの。収穫のときは使わないから誰も近寄らないわ」


「一応、見てみようよ」

どうせ無駄だと思うけど、とぼやきながらミラはずんずんと小屋へ歩いていきます。

「アンー? いるー?」


声を張って呼びかけますが誰もいません。窓はなく、クワやカマなどが静かに置いてあるだけです。

「あれ、何か落ちているよ」

小屋の中に、小さな紐状の物が落ちていました。ライがさっと拾い上げます。


「何かしら、これ」

「これは、あの子がしていたリボンだ! あの子、赤い髪に水色のリボンをしてた! うん、たしかにこれだよ!」


「へえ、じゃあここにアンちゃんが来たのは確かね!」

そのとき、後ろから大きな音がしました。

ドドーン!


小屋のドアが勢いよく閉まったのです。閉まってすぐ、外から鍵をかける音がしました。

ガチャン!


「え、何?」

飛び跳ねて驚いたミラがドアに駆け寄りますが、頑丈な南京錠が取り付けられてしまい、開けられないでいるようです。

閉じ込められてしまった二人ですが、この後、どうなっていくのでしょう?


月末ですので、今日の夜9時くらいにもう一度更新し最終回まで書く予定です。お楽しみに。

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