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金曜異世界:湖の町の物語1

初投稿です! 素直な心を思い出しながら書きました。書いているときは少年の心に戻っています。毎回2000〜3000文字で書いていく予定です! あまり考えずに読める素直な世界観を楽しんでいただければと思います。

金曜異世界:湖の町の物語1


何年も引きこもっている少年ライは毎日本ばかり読んでいました。学校で学ぶことなどないと信じているライは、分厚い本を読んでいる自分を誇らしく思っていました。自分は将来文豪になるのだと、起きている時間のほとんどは本を読んでいました。


……嘘です、ゲームもやっていました。ライはファンタジーゲームが大好きでした。読書とゲームを交互にしていました。それがもっとも平穏でした。学校なんかにいくよりずっと平穏な日々を過ごせました。


だけど平穏な日々に事件が発生します。雨がポツポツと軽やかに音をたてる金曜の昼下がり、最近読み始めた『ファンタジア』の本を置いて、部屋掃除を始めました。引きこもりを許されている代わりに、掃除はライの役目でした。いつもは真面目に役目をこなしています。


だけど今日、絶対に入ってはいけないと言われている書斎に入ってしまいました。ドアの隙間から見ると、あまりにホコリがひどいので、床掃除だけでもしようと考えたのです。


しかしすぐに机が気になりました。古い机。異質な雰囲気をまとっています。だめだとわかっていても、つい開けてしまう雰囲気の引き出しをこっそりとあけて、古いゲーム機を見つけました。ゲームカセットを入れるタイプの古いゲームです。


タイトルは『自由に選べるファンタジー世界』。楽しそうですが、充電式ではなく乾電池をいれる方式でした。驚きましたが、幸い、リビングに予備の電池がたくさんありました。


充電しなくていいのは待ち時間がなくていい、と感心しながら電池を入れ替え、起動画面になりました。


だけど起動と同時に意識がぼんやりとして、眠くてたまらなくなりました。なんとか自分の足で自分の部屋のベッドまで歩いていき、次の瞬間には意識を失ってしまいました。ゲーム機を片手に握ったまま。


**

ライは、気がつくと小さな町の見える丘の上にいました。あまり草木が生えていない、岩肌の目立つ、なだらかな丘です。石畳の下り坂の道がずっとふもとまで続いていて、ずっと先に町が見えます。


不思議なことにライは背が高くなって、青年の見た目になっていました。

どこか懐かしい感じのする丘です。まるで以前ここにきたことがあるような心持ちでした。

「ここ、さっきまで読んでいた『ファンタジア』の世界だ!」


直感で気が付きました。本の中に描いてあった挿絵の風景にそっくりです。ここはきっと始まりの丘です。だけど始まりしか読んでいないので、ここからどうなるかわかりません。


ライがひとまず町へ行こうと歩き出したら、どこからか声が聞こえました。

「ようこそ、空想の世界へ」

どこからか声がします。驚いてあたりを見渡すだけのライに、声が呼びかけます。


「次に行く湖の町に悩みがあるでしょう」

再びどこからか声がします。

「だれですか?」

あたりを必死に見渡しますがやはり何も見えません。


「私はこの世界を見守っている精霊です。姿は見えませんが、見守っています。あなたは心優しき人なので、この町の悩みを解決してくれると信じて、お呼びしました」

ライは優しい人と言われて、少し鼻が高くなりました。


「僕にできるなら、やりましょう」

気取って返事をしてしまいます。


「ありがとう。では、お願いします。途中で何か邪魔をしてきても、決して投げ出してはいけませんよ」

「はい」

下り坂を歩いていくと、大きな湖を半分囲むようにつくられた町が目の前にせまってきました。さらに坂道を下ると城壁だけしかみえなくなって、道の先の入口をくぐるのが不安になりました。城壁の外には野菜畑が広がっています。


城壁の扉は開け放たれていて、ホウキで掃除をしている若い女の人が見えました。

「あの、すみません。ここはどういう町ですか?」

ライは掃除中の女の人にたずねます。彼女はにこやかに答えます。


「ここはシチリアタウンというところで、一年中、初夏のような天気で過ごしやすいんですよ。たくさん花も咲いています。素敵でしょう?」

花が咲くような屈託のない笑顔を向けてきます。

「いいですね」


笑顔を作ったライは、久々なのに自然に笑いかけられたことに内心驚きました。笑顔の上手な人は他人の笑顔を引き出すのも上手なのです。


「私もつい最近引っ越してきたんですけど、いつも天気が良くて、気に入っています。あの、私、すぐそこの食堂で働いているんです。よかったら食べに来てください。とても美味しいんですよ」

「はい、よかったらいきます」

満面の笑顔で見送ってくれました。


次に会ったのは、時計の飾ってある窓を拭いているおじさんです。

「やあ、いい天気だね」

ニッコリと笑ったおじさんは、ライに話しかけました。


「はい。とても気分がいいです」

これは嘘ではありませんでした。爽やかな太陽が木漏れ日を作り出しています。ライの住んでいた世界には人の住んでいるところに木々はほとんどなく、冷たい印象でした。だけどこの世界では、街路樹が道の真ん中に植えられ、木漏れ日に静かな風があたっています。


「見たところ観光のようだね。この先にいくと、湖がある。きれいなところだからぜひ見ていきなさい」

「わかりました」

「それで、いい時計が欲しくなったら、ぜひこの時計屋クロックスに立ち寄ってね」

おじさんはニッコリと口の端を上げて窓拭きに戻りました。ライも笑顔を向けて時計屋さんを離れて歩き出しました。


(こんな平穏な町に悩みなんてあるのかな)

町の通りを歩いていっても、穏やかな笑顔ばかりです。

そのまま湖にいくと、小高い丘に芝生が広がり、木々が植えられ、ベンチが並んで細長い広場のようになっていました。


奥の方のベンチに一人の女の子が座っていました。赤い髪に水色のリボンをしています。俯いて湖を見つめる横顔には、そこだけ霧がかかっているように重い憂いがあるようでした。

少し離れたベンチに座ったライには全く気がついていませんでした。眼前には湖が広がり、そよ風が気持ちの良い場所です。


(あの子が悩みを持っている人なのかな)

勇気を出してそばに歩み寄り声をかけてみました。

「あの、何か悩みがあるのですか?」

「べつに。ていうかあなた誰? どっか行ってくれない?」


女の子は、逆の方を向いてしまいました。それでもくじけずに話しかけます。

「本当は悩みがあるんじゃないの?」

回り込んで女の子の目を見ながら話しかけます。女の子は泣きそうな顔をしていました。


ライはあまり見てはいけないと、湖の奥の方に視線を向けると、その先に、鯉のぼりのようなものが浮いているのが見えました。鯉のぼりが湖の上を泳いでいるように見えます。

「ねえ、あれ、何か知ってる?」

鯉のぼりの方を指さしてたずねます。


「え、何も見えないけど」

「ほら、あれだよ」

ライが湖のふちギリギリまで踏み出して、大げさに指さします。


――次の瞬間、ライは背中を思い切り押されて、湖に放り出されるように落ちてしまいました。


バッシャーン。

湖は深く、背の高くなったライでも足がつきません。ライはバシャバシャと暴れましたが、そのまま気を失ってしまいました。

最後まで読んでいただきありがとうございます! 毎週金曜日の昼前に更新する予定です!

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