07昔の冬
私の誕生日はいつも幸せで溢れていた。
大好きな物で埋め尽くされた自分の部屋にまたたくさんのお気に入りの物が増える日。
全てお父さんがくれた宝物だ。
お母さんは私が物心つく前に天国に行ってしまったけど、お母さんの分もお父さんがたくさんの愛情を注いでくれた。
私の居場所はいつも高い壁に囲まれた大きなお家だけ、お父さんは忙しくて帰ってこれない日もあるけど寂しいと思ったことは一度もなかった。
壁の外には大人にならないと行けない。
テレビで見る同年代の子どもたちは壁の外で楽しそうに遊んでいるのを見て羨ましいとも思ったし、
時には退屈だと感じる時間もあったけど、忙しい中でお父さんが一緒に居てくれたからそれ以上は何も望まなかった。
それにお父さんはときどき不思議な力を持つ動物を連れて帰ってくれて、そんな動物たちと仲良くなって過ごす日々は幸せだった。
唯一悲しかったのは、その動物たちはいつも新しい家に行ってしまうこと。
18回目の誕生日、お父さんがたくさんの誕生日プレゼントを持って帰ってくるのを待ってたけど、プレゼントはおろかお父さんの姿も二度と見ることはなかった。
私のお父さんと過ごす誕生日は17回で終わってしまったのだ。
待っても待ってもお父さんは帰って来ない。
絶対に出てはいけないと言われた家を出て良いのかもわからない。
こんなにも長い間お父さんから連絡が来ないことはなかった。
焦りと心配が日に日に高まり、そびえたつ壁も高くなっていくかのように感じて行った。
心がすり減り、頭が上手く機能しない。
お父さんが消息不明になって、数か月が過ぎた頃…私の食べる物はなくなっていた。
水分は水道水でどうにかなったけど、食べ物はもう家に何もなかった。
綺麗に整えていた庭も雑草だらけで、趣味で育てていた作物ももうない。
私はあまりにも楽観的で後先考えずに、いつか父親が帰ってきてくれると思い家にある食材を食べ続けてしまったのだ。
気付いたときにはもう体力はなく、異能で自分自身を空腹になる前の状態に戻すことも出来なくなっていた。
ある日、這いつくばって庭の雑草を食べていると地面に何かが落ちる振動を感じた。
この場所は自分と父以外の人が来たことはない。
そんな場所に何故か高い壁の外から食糧が投げ込まれてきたのだ。
それから不定期ではあるが食糧が家の敷地内に投げ込まれてきた。
そして、食糧とともにメッセージカードが着いて来る。
最初のメッセージは”耐えて、そこに居て”だった。それからは励ますメッセージが届くようになった。
その食糧とメッセージのおかげで私は生き延びることが出来たのだ。
気付くと父が帰ってこなくなり数年が経っていた。
後から知ったが普通は電気や水は料金を払わないと使い続けることが出来ないらしく、それを誰かが払ってくれていたようだ。
しかし、何故か食糧が届かなくなった。
そして、電気や水、ガスが使えなくなった。
もう生活が出来ない…そう判断した私はこの高くそびえる壁の外に出ることにしたのだ。
ビービービーッ
事務所でまだ慣れない書類を作成していると、こちらもまた聞き慣れない警報音が鳴る。
すると、すぐに津路が事務所にやってきた。
「お、まだ冬葉以外集まっていないのか。」
津路が事務所を見回して言う。
「皆さん、この建物内にいるはずです。念のため電話してみますね。」
野乃花はスマートフォンを取り出すと、まずは奏斗へと電話をかけた。