06昔の秋
5歳の夏
“あなたは女の子なの”
「でも、ほいくえんのみんなはわたしのことおとこのこだっていうよ?」
9歳の春
“やっぱりあなたにはリボンとフリルのスカートが似合うわ”
(でも、僕はズボンが履きたい。かっこいい龍の筆箱も欲しいよ…。)
12歳の冬
“中学校のセーラー服、可愛かったわね。”
「うん!春からこの制服着るの楽しみだよ…!」
そして、13歳の春…ずっと一緒に居た母親は入院してしまった。
ゴミ溜めのような家でいつものように過ごしていると、知らない大人がやってきた。
家から悪臭がすると近隣の住民から通報があったらしい。
そして、私は”保護”されたのだ。
母親は医師の面談の後入院が決まった。心に問題があって私とは一緒に暮らせないらしい。
私を引き取ってくれたのは叔父だった。
叔父は私に言った。
“君は男だ、女の子じゃない”
その瞬間、全てが真っ白になった。
本当は知っていた。
最初からわかっていたんだ、自分の性別が男であるということを。
私は男の子…
僕は女の子…
私は…僕は……一体何者なんだろう。
最初から全部わかっていたけど、何もわからなくなってしまった。
僕はツインテールも似合うし可愛いスカートも履きこなす。誰も僕を女の子と疑わない。
でも、気付いたら手元にある物はシンプルな物ばかりだ。
真っ黒なペンケースにグレーのカーテン、服装に比べて周囲の小物や家具は暗い色でシンプルなデザインのものばかりだ。
この歯がゆい矛盾、もう何もわからない。
自分って何?自分はどこに行っちゃったんだろう…。
ビービービーッ
パァンッ
警報音とほぼ同時に自分が放った弾丸の音が射撃場に響き渡る。
弾丸は狙った場所に寸分違わず命中した。
ストレスがかかる程命中率が上がる、昔からだ。
頬を伝う汗を拭いながらスマートフォンの画面を着けると、先程まで見ていた母からのメールが目に入った。
“伊吹ちゃん、元気?この前お散歩をしてたら伊吹ちゃんに似合うワンピースを見つけたのよ…”
昔から母の言葉は変わらない。
ピリリリッ
どこかの世界から現実に引き戻されたかのようにスマートフォンの画面が着信画面に切り替わった。
最近アリウム支部にやってきた”本当”の女の子である冬葉野乃花からの連絡だ。
…よし、隣のジムにいる琉唯に声を掛けて事務所に行かなきゃ。