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01アリウムの花言葉:深い悲しみ、正しい主張

バチッ

金髪の青年が手に持ったマイク付き小型イヤフォンから小さな電気が放たれたかと思うと、イヤフォンからは煙が出る。周囲には焦げた匂いが漂う。

「くそっ…」

ガコンッ

青年は完全に壊れてしまったイヤフォンをゴミ箱に投げ捨てると、不機嫌そうな表情を浮かべ椅子にもたれかかった。

「まーた、イヤフォン壊しちゃったのー?」

それを見た黒髪の内側に赤色のメッシュが入ったツインテールの子が金髪の青年の横にひょっこりと現れる。

2人は同じデザインのスーツを着ている。

「チッ…」

さらに機嫌の悪そうな顔をする金髪の青年。

「前の対戦で異能を使いすぎちゃったんでしょう?興奮しすぎると電力が強くなって周りの電子機器を故障させちゃうの気を付けなよ~。」

そう言われた金髪の青年の周りに電気がパチパチと放たれる。さらに機嫌が悪くなったらしく、電気が散ってしまったようだ。

シュンッ

そのとき、突然2人しかいないオフィスにシルバーアッシュの髪色の男性が現れた。

「あ、おかえり。」

ツインテールの子がシルバーアッシュ髪の青年を見て平然と答える。

何もなかった空間に突然その青年が現れたのにも関わらず、その場にいる誰もが驚いていない。彼らにとってこのような現象は当たり前のことのようだ。

ここは科学が発達した世界、長年の人間の実験により不思議な力を持つ人や動物が存在するようになった。その存在はごく少数ではあるが、彼らは不思議な異能を持って生まれる。

火を噴く狐や筋肉が発達し通常の100倍の大きさを持つネズミ…

念力を使ったり、記憶を操る能力、水を操る人…

以前までは想像上であった超能力を使える人や動物が存在する世界だ。

異能を持つ人は人口の3%しかいない、とても稀有な存在でそんな異能を持つ存在のことをギフテッドと呼び、一般的に彼らは怪物として恐れられる存在である。

異能を持ったギフテッドの人間が働く場所の1つでGST(the Government Special Team)とである。

3人がいるGSTの職場に1人の上司がやってきた。その上司の男性はここGSTアリウム支部で支部長を勤める津路という人物で、程よく日焼けた肌にあごひげを蓄えた42歳のイケオジである。

「津路支部長!」

ツインテールの子が津路の登場に嬉しそうに目を輝かせる。

「あれ?今日は本部出勤って言ってなかったすか?」

シルバーアッシュ髪の青年が言う。

金髪の青年はチラリと津路のことを見るだけだ。

津路はこんな個性的な部下たちをまとめる苦労人である。

「今日は新しいメンバーを連れてきたぞ。」

津路が低く渋い声で言う。

「マジかよ…!?」

「キャーッ‼どんな良い男が来るの!?」

シルバーアッシュ髪の青年とツインテールの子が言う。

GSTの支部は常に人手不足で少数精鋭で構成されている。異能を持った人物かつ難しい案件を遂行する能力のある人材が少ないからである。

「冬葉、入ってきなさい。」

津路の言葉で事務所のドアが開くと、皆の予想を裏切り若い女性が入ってきた。

その少女は無表情ではあるが、白い肌に黒色の艶やかな髪でくっきりとした二重の瞳を持ち、とても美人な女性であった。165㎝程の身長にスレンダーな体型はとてもこのGSTの任務をこなせるように思えない。

「彼女の名前は冬葉野乃花、20歳だ。」

「…よろしくお願いします。」

津路の紹介に野乃花は抑揚のない声でそう言った。

「GSTに女の子って珍しくない!?ってか何の異能なの!?」

ツインテールの子が騒ぐ。

「冬葉の異能は時間逆行だ。」

津路が言う。

「時間逆行?そんな能力聞いたことねぇぞ。」

金髪の青年が目を少ししかめる。

「時間逆行の異能はまだ冬葉以外確認されていない。無機物有機物に関わらず時間を巻き戻すことが出来るんだ。」

「時間を巻き戻すってことは壊れた物を壊れる前に戻すってことか?死んだ人間も生き返らせることができるのか?」

津路の言葉にシルバーアッシュ髪の青年が尋ねる。

「人のことを根掘り葉掘り聞く前にまずは自己紹介からだ。俺のことは本部からこっちへ来るときに紹介したから、後は冬葉と実働することになるメンバーの紹介だな。」

津路が残りの3人を見渡す。

「まずはこの金髪、。春野奏斗で20歳だ。電気を発生させ自在に動かすことのできる能力を持っている。この支部では一番の古株だな。」

奏斗は異能である電気を扱い、能力者としても長けている。しかし、怒りっぽいところもあるので、任務中に興奮してしまったことで電子機器を破壊することも日常茶飯事だ。

奏斗の容姿は177㎝の身長に引き締まった筋肉を持ち、暗めの金髪である。切れ長の目で目つきが悪いこともあり、全体的に威圧感を与えてしまう人物だ。

奏斗は常に仏頂面で不機嫌そうな表情をしている。自身の紹介をされてもその表情は変わらない。

次に紹介されたのは一見強面のシルバーアッシュ髪の青年だ。

「コイツの名前は夏目琉唯、21歳だな。瞬間移動の能力を持っている。」

「よろしくな。」

琉唯は野乃花にニカッと笑いかけた。野乃花は相変わらずの無表情で頭を下げるだけだ。

琉唯はシルバーアッシュ色のツーブロックの髪型をしており両耳に計7つのピアスをつけている。185㎝の長身にガタイの良い筋肉質な身体をしている。そのような容姿から不良に間違われがちだが、面倒見が良く人当たりの良い性格である。

「はーい!次は私!秋山伊吹だよ!19歳で接触感応能力を持ってるんだ~!」

元気いっぱいに自己紹介をしたのはツインテールの子だ。

接触感応能力とは自身が触れた物や人の記憶を読み取ることのできる能力で、主に探査等に活用される。

伊吹は黒髪をベースに内側に赤色のメッシュが入っている。その髪を高い位置でツインテールにしており、まん丸な瞳のため年齢よりも幼さを感じさせる。165㎝の身長と小柄な体型をしており、しっかりとメイクをしておりうさぎのような可愛らしい見た目だ。

「よし、一通りの紹介は終わったな。詳しいことは周りの奴らに聞いてくれ。それと冬葉の教育係は春野だ。」

津路がそう言うと間髪入れずに奏斗が口を開く。

「はぁぁあっ!?何で俺がそんな面倒な役回りなんだよっ!?」

これまで必要最低限の短い言葉しか発していなかった奏斗が激しく反発する。奏斗の周りには電気が散っていた。

「春野がここで一番業務歴が長いじゃないか。さて、俺はまだ書類片付けなきゃいけないからこれで失礼するぞ。」

津路は奏斗の反論を受け付けないように足早にその場を去ってしまった。

「チッ…‼」

野乃花のこともお構いなしに舌打ちをする奏斗。しかし、野乃花はそんな態度を取られても相変わらず無表情だ。

「こんな失礼野郎なことは気にしないで!外での任務は奏斗に随行するだろうけど、この支部内のことだったら私がフォローするからね!」

明るい伊吹は野乃花の手を取るとウィンクをした。

「はい、ありがとうございます。」

落ち着いた声で言う野乃花。

「それにしても女の子が入ってきてくれるなんて本当嬉しぃなぁ!ここって仕事柄男が多いからさ~。あ、私のことは伊吹ちゃんって呼んでね!」

「私も…伊吹さん、ちゃんが一緒で心強いです。本部は男性の比率が多かったのでアリウム支部も男性ばかりじゃないのかと心配してました。」

野乃花が伊吹の手を優しく握り返す。

「「「…」」」

しかし、周囲は気まずそうな空気を出す。

野乃花が変な空気に首を傾げていると、琉唯が伊吹を指差して口を開く。

「コイツ…男だぞ。」

「え…?」

野乃花は無表情ながらも驚きまじまじと伊吹を見る。

伊吹は野乃花と同じくらいの身長で女性としては少し背が高いかもしれないが、小柄な体型をしており可愛らしい化粧もしている。どこからどう見ても女の子にしか見えない。

「てへっ☆」

見つめられた伊吹は琉唯の言葉を肯定するかのように星を飛ばす。

どうやら伊吹が男性であることは本当らしい。

「でも…伊吹ちゃんみたいに優しい子と一緒に仕事が出来て嬉しいです。」

しかし、野乃花はそれ以上の反応は見せずにもう一度優しく伊吹の手を握ったのだった。

「すげぇな。伊吹が男だって知って驚かないやつ初めてだぞ。」

「偏見持たずに接してくれるなんて嬉しい~。」

琉唯と伊吹が言う。

「偏見は全くないんですけど…この無表情はハンデなんです。」

野乃花がニコリともせずに言った。

ハンデとは異能を持つ者に現れる症状で、野乃花は時間逆行という異能を使える代わりに感情に合わせた表情を作ることが出来ないのだ。異能の能力が高いほど重いハンデが現れるとされている。野乃花の時間逆行という異能は対象の物の時間を遡る大きな力なので、反ってくるハンデも大きい。しかし、ハンデによっては成長につれて症状を緩和できる可能性も多いにあるので、野乃花の無表情が少しは改善される可能性も高い。

「やっぱり時間逆行ってハンデ大きいんだな。」

琉唯が眉を下げる。

「自然の摂理に反する大きな力だもんね。そこまで強くない異能だと能力を使った直後に単発的な発作が出るものばかりだもんね。」

伊吹も声を落としてそう言うと、野乃花の手を撫でた。

そして、相変わらず仏頂面の奏斗を放って琉唯と伊吹のアリウム支部の説明を始めた。

「ここはGSTのアリウム支部ってことはわかってると思うんだけど、他にも全国各地に支部があって支部によってそれぞれ業務の役割があるの。」

伊吹が説明を始めると、すかさず野乃花が小さく手を上げた。

「どうかしたか?」

琉唯が尋ねる。

「あの…そもそもGSTって何の仕事をするところ何ですか?」

「「ええええっ!?」」

伊吹と琉唯はあまりにも予想外の質問に驚嘆の声を上げる。我関せずとしていた奏斗すら驚いたようで少し眉をピクリと動かしていた。

「えっ!?何も知らないでここに来たの!?」

「GSTは政府直下の極秘機関ではあるけどマジか!?」

伊吹と琉唯が野乃花に詰め寄る。

「津路さんに誘われてここまで来ただけなので…」

「そんなお菓子をくれるおじさんについてきたみたいに!?」

驚く二人だが、琉唯が簡単に説明を始める。

「詳しい内容はおいおい知っていくとして、GSTは異能に関する案件に対応するための機関だ。一般市民に存在は知られていないものの、警察や自衛隊では解決できない難しい任務を遂行するんだ。」

「異能に関する案件ってどんなものですか?」

「簡単に言うと、ギフテッドアニマルや人間が起こした事件に対応するってことだな。ギフテッドアニマルの保護もあれば、異能所持者が起こした反社会的事件を解決するために俺たちが働いている。」 

「私たちアリウム支部では事件が起こったらすぐに現場に急行して一般人に被害が拡大する前に対処するためにあるの。この支部に来たってことはある程度戦う力はあるのよね?」

「実践はあまりしたことないですけど、幼い頃から護身術や格闘技、銃撃技術は教わってます。」

「銃撃技術まで?それは凄いな…。」

琉唯が感心する。

一般的に銃の携帯は禁止されているため、GSTに関わってこなかったにも関わらず銃撃術を学んでいるとはどのような環境にいたのだろうか。

「…父が熱心だったので。」

無表情な野乃花だが、その声はなんとなく暗い。

「えっと…じゃあ、この施設の紹介をするね!」

何かを感じ取った伊吹は、空気を変えるように野乃花の手を取った。これから奏斗以外の3人で実際に施設内を歩きつつ説明をしていくらしい。

「GSTの施設は一見普通のビルだけど、中には色々あるんだよ~。」

「まずは地下からだな。地下1階には出動するための社有車がある。野乃花は運転免許はあるか?」

「はい。ここに来る前に取得したばかりです。」

「そっか!最初は慣れないだろうが、すぐに運転も慣れるはずだ。」

そして次に3人が向かったのはさらに下の地下2階だった。

「ここはジムとか射撃訓練とかする場所だよ。外での実働や書類仕事がないときは皆ここで訓練してることが多いかな。」

「なるほど…。」

野乃花は真面目な性格なようで持っていた手帳に説明された内容をメモしていく。

「1階は普通の一般企業に見えるようにフロントとかが設置されてるの。ダミーのための場所だから特に何もない空間だよ。」

「2階がさっきまで居た事務所だな。書類仕事や打合せはここで行われる。出社したらまず最初にここに顔を出すようにしてくれ。」

「はい、わかりました。」

その後も琉唯と伊吹による支部内の説明を受けた野乃花。

全ての紹介が終わる頃には退勤の時間になっていた。

3人が事務所フロアに戻ると、すでに奏斗の姿はなくなっていた。

「もう~、相変わらず自分勝手な奴なんだから。先に帰るなんて。」

伊吹が口を尖らせて言う。

「今日は珍しく出動もなかったし、早く帰って休みたかったんだろ。俺らもそろそろ帰るか。野乃花も社宅に住んでるのか?」

帰りの荷物を準備しつつも琉唯が尋ねる。

アリウム支部に勤務する奏斗、琉唯、伊吹は近くにある借上げ社宅で暮らしている。ちなみに津路は少し離れた場所に住んでいるらしい。

「はい、もう荷物は届いてるみたいです。」

「そうなんだ!じゃあ早く帰って荷解きしなきゃね!同じ場所に住んでるんだし、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてね!」

3人は連絡先を交換すると、揃って帰路についたのだった。

そんな3人の背中を津路は静かに窓から見守る。

「冬葉野乃花…彼女が加入したことで色々動き出しそうだな。」

その声は誰もいない部屋に溶けていった。

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