お嬢様は料理上手で口下手!
コンコンコンと玄関が3回ノックされる。土曜日の昼にだれが来たのだろうかと思ったが、来る人は一人しかいない。
ドアを開けて出迎える。
「こんにちは、雛子さん。今日は来るのが早いですね」
「えぇ、君がおなかをすかせていると思って早く来てあげましたのよ」
おほほと笑う雛子さん。
「そうですか、ありがたいですね」
あまり感謝が伝わらなさそうな抑揚で言う。
「そうでしょう、もっと感謝してくれてもいいんですのよ?」
「僕が雛子さんの課題を手伝ってること忘れないでくださいね」
「さて、今日はきのこクリームパスタでしてよ!」
僕の言葉は届いていないようで雛子さんは今日の献立を発表してくれる。
雛子さんは料理に取りかかるようだ。
僕が料理において手伝えることは一つもないが、面白いので見ている。
材料は、舞茸、なめこ、マッシュルーム、ベーコン、ニンニク、生クリーム、パスタで全部のようだ。
舞茸を適当な大きさにちぎり、マッシュルームは2ミリの厚さで切っていく。
それをフライパンに移し弱火で乾煎りしている。
きのこの体積がどんどん小さくなっていく。
もう一つのフライパンでは、オリーブオイルをひいてベーコンとニンニクを炒めている。ベーコンは細長い直方体に切り、ニンニクは薄くスライスされている。
ベーコンに焦げ目がつき、ニンニクの香りが出たところで、なめこをフライパンに投入。フライパンにこびりついているがこれでいいのだという。
ある程度なめこのぬめりがなくなったところで乾煎りしていた舞茸とマッシュルームを投入。
きのことベーコンとニンニクの香りが充満していてなんとも食欲を刺激する。
そこに生クリームを入れて、フライパンについた旨味をこそげ取っていく。
生クリームの水分が飛び、粘度が高まったところに茹で上がったパスタを混ぜ合わせる。雛子さんはマンテカトゥーラ、マンテカトゥーラとごきげんに唱えながらフライパンを振っている。
なんだかおもしろい。
出来上がったようでお皿に盛りつけている。
サラダパックも買ってきたらしく副菜もある。
栄養バランスにも気を遣っているのだろう。
あっという間に二人分の料理を作ってはテーブルに並べる雛子さん。
「どうぞ、召し上がってください」
「いただきます」
パスタを一口食べる。
クリームの濃厚さと3種のきのこの味と香りにベーコンの旨味が合わさってとても美味しい。
脳がもっと食べろ、早く次の一口を食べろと急き立てる。
我を忘れて半分ほど食べたところで雛子さんの方を見る。
にやにやと何かを期待している表情をしている。
「美味しいです、とても」
そう言うと雛子さんはもっとにやにやし始めた。
「私ってなんて料理上手なのかしら」
「雛子さんはすごい料理上手ですね、僕の知ってる人の中で一番です。」
褒めてほしそうな顔をしているので褒めることにする。
実際に思っていることと相違はない。
「え、一番ですか?それは...ごにょごにょ」
驚いたような顔をする雛子さん、最後の方はよく聞き取れなかったが同意しておく。
「そうですね...」
何やら顔を赤らめる雛子さん。
「どうしたんですか?」
「なんでもないです!えと、その、優さんはどんな女の子がタイプなんですの?」
「僕の好きなタイプですか?うーん...優しい子とかですかね...」
「そうですか...」
「そんなこと聞いてどうするんですか?」
「いえ、別に!なんでもありませんわ!」
「多く作っておいたので夕飯に食べてください!私急用を思い出しまして、お邪魔いたしました~」
そそくさと優雅に帰り支度をして帰っていってしまった。
雛子さんが帰った後は読書をして過ごした。
冷蔵庫を開けてお昼の残りのパスタを取り出すとラップの上にメモが貼ってあった。
味変にレモンを絞っても美味しくてよ、と書かれたメモとくし切りのレモンが用意されていた。
「やっぱり雛子さんは優しいな」
実際に作ってみてくださいまし~本当に美味しくってよ~