表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

線香花火

作者: はるねあま

命のはじまりが微かに音を立てる、儚い合図。

この火花が尽きてしまうのが怖い。

私とあんたを繋ぎ止めるものがこれしかないから。年に一回って決めちゃったもんね。今年はできてよかったよ。ほら、ちゃんと見てる?迷子にならないでよね。

この燈を頼りにしてよ、ちゃんと私を見つけてよ。


一昨年のこと思い出すなぁ。いっぱい花火やろうって、コンビニ行って、ラムネ2本と線香花火3つ買って。線香花火絶対やろうと話してはいたけど、まさかそれ以外全部売り切れてるとはね。線香花火って一つが長い上に馬鹿みたいに買っちゃったもんだから、めちゃくちゃ時間かかったね。それでも一つ一つ丁寧に、真剣に眺めてる横顔がちょっと面白かった。落ちたら、たった一瞬見える悔しそうな顔が可愛かった。ただ、その眼に私がいないことだけは残念だった。


「何願い事してんだ?」


いつも最後の一本になったら言ってたね。あの出会った時も言ってた。

アパートの前で、おばあちゃんと2人手持ち花火やってた時だから10年ぐらい前かな?おばあちゃんがバケツ忘れたって言ってどっか行った時、私は最後の締めの、線香花火が待ち遠しくて、1人でこっそり1つだけやってた。パチパチって音が愛おしくて、1人で唇綻ばせて、ただゆっくりとやってたら、「何願い事してんだ?」ってあんたは聞いてきた。その瞬間落ちちゃって私は本当に悲しくて泣いちゃった。そしたらあんたは「もう一回やればいいだろ!」って付き合ってくれたね。

「俺の、今年亡くなったおばあちゃんが線香花火を落とさないようにして、火が消えるまで待つと願いが叶うって言ってた。」そう、そっと教えてくれて、2人でやってみた。けど中々できなくて、結局使い果たすまで挑戦してた。私のおばあちゃんは影でこっそり見てたみたい。

終わったら「また来年な。」って約束してくれた。私が帰省してるのを知ってるかのように言ってくれた。それが牡丹。

それからちゃんと毎年約束守ったよ。それから私はおばあちゃんの家に住みたくて、高校はそっちの方にした。もちろんあんたも理由に入ってたんだよ。ここが松葉かな。

じゃあ柳はあんたが死んじゃったこと。線香花火一緒に買いに行こうって言ったのに1人で突っ走って行っちゃうなんて、その帰りに車に轢かれちゃうなんて、ほんと大馬鹿だよ。やっと一緒の学校になったのに。いなくなっちゃうなんて。あんたのズボンのポケットにはビー玉って、どういうことだったの。願い事、なんだったのかな。いつもぶっきらぼうだったから適当に言ってただけかな。不器用なくせに線香花火だけは必死にやっちゃって。結局途中で落としちゃって。

でも、安心してよね。最後の散り菊は、私得意だったんだから。私だけがそこまで耐えてたよね。ほんとはあんたと2人で線香花火見届けたかったけどな。

あんたに線香なんて似合わないから、線香花火でたむけてあげる。ううん、そうさせて。最後の一本に間に合うように来てよね。気まぐれに忘れないでよね。来たらあんたが忘れていった言葉返してあげる。

「何願い事してんだ?」って。


そろそろラスト一本に入るよ。1人じゃ少し多かったよ。

じゃあ、ばいばい。幻じゃなかったって確かめさせて。


音はだんだんと去っていき、私は煙を呑む。

また、10回目の恋に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ