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バカステンコ  作者: 阿寒まるも
3/3

第二章 1

第二章で、やっと学校に到着です。

また終わりが話の途中で切れていますが、次をなるたけ早く書きますのでご堪忍を!


勢いと執筆ペースを上げていかねば。

早くクライマックスを書きたくてしょうがないです。


のちのち、中盤くらいで登場人物をまとめて紹介するつもりです。

 女子高生狐のさくらと上馬淳はしばらく公園をぶらつき、二時限目の授業から出席することにした。散策の間は、妙にかわいい下着を着けた女性がハイヒールを鳴らして颯爽(さっそう)と歩いていたり、ベンチで寝ているおじさんから幽体が離脱しかけていたり、毛繕(けづくろ)いしている猫が淳の存在に気付いたかと思うと「見せ物じゃにゃいにゃにゃん!」とドスをきかせて(すご)んできたり、油揚げが空を飛んでいたり、とさくらが「ご披露」と称して、耳も尻尾も出ない程度に『化かし』を淳に見せた。淳がいちいち反応する度にケラケラ笑うさくらを淳は別段(とが)めようとは思わず、或いは手を握ってきても振りほどこうともせず、学校に着くまでさくらの好きにさせていた。

 角を曲がったところで手を離し、校門へと続く小坂を上る。するとちょうど一時限目の終了を告げるチャイムがなった。

「いいタイミングだな。それにしても五分十分の遅刻はあるけど、まるまる授業をばっくれたのは初めてだ」

「へえ、淳は優等生なの?」

「そんな訳あるか。ま、結構見た目でそういう風に見られることがあるけどな。気にしないけど。他人がどう思おうと関係ないし」

「ふーん。手ぇ繋ぐのは気にするのに?」

「それとこれとは別だ」

「ほほぉーん」

「それよりさくらは俺が授業を受けている間、どうするんだ? うちの高校の生徒じゃないだろ。どこの高校通っているんだ? ……というか高校に通っているのかすら怪しいんだけど。うちの生徒に成り済ますのか? 『化かし』で」

 学校から生徒達の声が賑わってくる。さくらは辺りを見回すと淳を引っぱり、学校の向かいにある建物の隅へと身を隠し、「考えているわ」と言うなり、胸ポケットから小さく丸まった綿の塊を取り出し頭にのせた。

 ほんの数秒。

 さくらの身体が周辺の空間とともに(ほの)かに光りだすと、淳が取り付く間もなく、さくらの姿が目の前から消えた。

 声が聞こえる。

「下よ下。足下よ」

 どこから聞こえてくるか分からない声が指示する先にはさくらに似た人形が寝ていた。

 淳はそれを拾いあげる。手の平を広げた位の大きさ。セーラー服を着て、狐の耳と三本の尻尾が生えた綿人形。

「私は人間以外にも『化け』られるのよ」と、偉ぶった調子で先ほどの声が頭に直接響く。

 淳は人形をまじまじと見つめ、それから尻尾の部分を触ると妙に毛皮しく、ふさふさとしていた。

「さっき警察官に『化けた』んじゃなくて、そう見えるように『化かし』たのって、『化ける』のが苦手だからなんだろ?」

「す、鋭い! こ、このことは内密にぃ」

「誰に話すんだよ!」

 漫才をしている場合ではない。次の授業が始まってしまう。

「じゃあ行くぞ」

 淳がそう言ってさくら綿人形を鞄にしまおうとすると、鞄の口に獰猛な牙が生え、淳を噛み付こうとしてきた。

 さくらの『化かし』による抗議だ。

「だめだよ、だめだめ。鞄の中入っちゃうと周りの環境が見えないでしょ。そうしたら『化かし』が出来ないの」

「じゃ、じゃあどこに隠すんだよ」

「お人形デビューをひけらかしていこうよ。本当の、真実の淳として」

「そんな趣味はない! 鞄に無理矢理しまってやる!」

「ほぉ」

 さくら綿人形が発光すると、あっという間に人間に戻った。

「それならば私を連れて行かなくてもいいわよ。私一人で頑張って学校に侵入するから。それで、普通によろしくやっている淳を、盛大に盛大に、それはもう盛大に『化かし』て楽しませてあげるから」

 ジト目でさくらが、ふっふっふ、と笑う。

 淳は躊躇(ためら)ったが、二時限目のチャイムが鳴り、結局ブレザーの内ポケットから顔だけ出してもらう事で決着をつけた。

「ほら、もう授業が始まってるから早く俺の胸の中に隠れろい」

 半ばやけくその様相。そして、まるで妹と接するかのような地が出ている淳を、さくらは笑顔のまま一瞥して、再び綿の塊を頭上にちょんと置く。

「ほいほい、ただ今すぐに! ……ところで淳——」

 綿が落ちないように上目でさくらは空を見上げ、優しげな光がさくらを包んだ。

「私のやってることはすべて淳を守る為なんだからね」

「…………」

 瞬時に綿人形へと『化ける』さくらを正面に、呆然と立っている自分に淳はふと気付き、そそくさとさくら綿人形を胸ポケットにしまって、校門を抜けた。

 狭小な、テニスコート三面程のグラウンドを横目に淳は校舎へと入る。

「…………」

 今日が四月十八日月曜日。五月三日まであと十五日間、か。

 公園を徘徊中、さくらが言葉を濁しつつも懸命に説明をしてくれた。はなから殺しにかかって来ることはない、と……。

 徐々に、徐々に。化かしつつ、化かしつつ。

 その間に、本腰に入る前に、さくらがその狐をなんとかする、と。

 今まで通りに振る舞えば良い。普段と何か違うこと、変わったことが起きればそこから探って突き止めれば良い、と——。

 簡単だ。簡単そうじゃないか。

 そんなに事を荒げることも無いし、取り乱す必要も無い——。

 平穏無事にやり過ごして、誕生日は盛大にパーティーだな。…………ま、さくらを含めたとしても三人だけど……。

 重く冷たい空気を満たした階段を上る淳の耳には、どこかの教室から漏れる先生の声が微かに響き聞こえていた。



 二時限目は遅刻扱いになってしまったが、それ意外は特別に問題にすることもなく、淳がどう懐疑の目を辺りに向けても、やはりいつもと変わらぬ日常の学校風景だった。

 昼休みになり、一度元の姿に戻りたい、と言うさくら綿人形を懐に、淳は人気のない屋上の片隅へと移動していた。真下がちょうど階段の、天窓の影に淳はあぐらをかく。さくらはハンカチを敷き、淳の横に座った。

 ここなら例え誰か来てもすぐには見付からないはずだ。

 淳は屋上で手製の弁当を広げる。

「いやあ、今日は風も無いしいい天気だな。……なのになんで雨が降っている……これが俗に言う狐の嫁入りか……」

 とは言っても本当の天気雨ではない。さくらに対する比喩表現だ。締まりのないさくらの口から唾液が(したた)り落ちている。

「おいしそうだね。お母さんが作ったの?」

「いや、俺だよ。うちの母さんは海外出張で家にはほとんど戻らないしな」

「そうなんだ……淳、ところで私の好きな食べ物分かる?」

「油揚げだろ」

「当てるの早いっ!」

「さすがに分かるぜ、あんだけ大量の油揚が飛んでいたら。というか、口を拭け。やるから」

 公園ではさくらが、鳩を油揚げに見立てて『化かし』ていた。淳は『化かし』の大まかな要領を自分なりに掴みつつあった。どうやら狐にとって興味のあるもの好きなもの程『化かし』に磨きが掛かるようなのだ。きっと、さくらが教えてくれた「熟知度とリアリティ」にも関係してくるのであろう。

 淳が渡したハンカチでよだれを拭い取ると、ニコッとさくらは笑い、ハンカチを絞る。

 するとそれはまさしく滝のようだった。そのハンカチから考えられない量の液体が激しく流れ落ちて、止まる気配がない。

 もちろん『化かし』だ。

「なあ、さくら。当てられるのが早かったからなのか、『化か』されない練習なのか知らんけれども、今ここでやる意味が分からないぞ」

「嬉しさの表現。そしてありがとう」

 滝に虹が現れる。そして、なんて優雅にミにチュアな蝶が飛び交っていることか。淳は少々気が引けたが、念のためにと滝の中に手を伸ばすと、水圧を感じた。それと共にさくらからは狐の耳が生える。いや、正確には「感触」という情報を加味しなくてはならなくなったので、『化ける』能力が弱まり、人間の姿を完全に保つ事が出来なくなったのである。

 本来ならば生えた耳を存在しないようする事は雑作も無い。むしろ『化かし』の対象者の視界から消し去ることはごく自然にやることだ。けれどもそれを今やっていないのは、やはり淳に『化かし』のなんたるか、を教えてくれているのである。

「感触まである、ていうのが本当にすごいよな。つくづく感心するわ」

 淳は照れくさくなり、さくらを褒め返した。

「でもね、今朝も説明したけど、『化かし』は一人にしか出来ない」

 水の勢いは弱まり、さくらがハンカチを広げる。すると、それは少しだけよだれで汚れた、ただのハンカチに戻っていた。

 淳はさくらの目を見て頷く。

「分かってる。それをヒントに俺とさくらとの間で、現実の認識の相違から、俺を殺すという狐の正体を突き止めていく、ていう寸法だったよな」

「そういうこと。ん! 誰か来たわよ」

 さくらの動物的本能が人の気配を察知した。

 淳は慌てて物陰から非常階段出入り口を確かめると女がまさしく、淳達のいる天窓方面を振り見ている所だった。

「うえうまー。上馬くーん、いるんでしょー?」

 同じクラスで写真部部長の大原(おおはら)みゆきだ。淳と最寄り駅が一緒で、商店街の一角にある焼き鳥居酒屋の娘である。淳とは違って電車を使わず自転車で登校するので、学校外では顔を合わす機会はそれほど無いのだが、料理の話で淳と意気投合して以来仲が良い。料理も写真も繊細に、と持論を張る、ショートヘアの活発少女で、淳の数少ない女友達の一人——

「そこにいるんでしょ?」

 まずい。小走りで大原が向かってくる。

 淳は急いで立ち上がり、

「ああ。なんか用?」と、大原の前に姿を現した。

 デジタル一眼レフカメラを首にぶら下げて、大原は腕を組む。よくやる癖だ。

「うーん。今日上馬遅刻したでしょ。……物陰に隠れてお弁当?」

「や、覗くなって!」

 取り乱す淳を尻目に、ヘアピンで留まっていない方の前髪を垂らして、大原は淳の後を覗き込む。

 やばい。

「化けろ!」

 淳は思わず叫ぶ。

 が、しかしさくらは女子高生のままでそこに居た。暢気(のんき)に淳のハンカチを折り畳んでいる。

「な、なあ大原よ。これには訳があるんだ」

 陽気に鼻歌を奏でるさくらを背後に、淳は弁明をする。頭の中では穏便に事態が収集するよな案が二つ思い浮かんだ。一つは近日に転校してくる予定がある従妹で、下見に来ているという案。もう一つは屋上でたまたま出くわした、素性の分からない、脳内にきっとお花が咲いているであろう女の子という案。とにかく、本当の事を白状してはいけない。

 怪奇現象が大好きな大原に知られると、取り分けてあとあと面倒だ。カメラ片手に目を爛々と輝かせて首を突っ込んでくる大原の映像が容易に浮かんでくる。

 なんとか現状打破を——

 ——だが、大原の対応が淳の予想と違った。

「何を言ってんの、上馬は?」

「え?」

「『これには』って……お弁当のこと?」

 確かにさくらはそこに居る。両の掌に顎を乗せ、澄まし顔で大原を見つめているのだ。瞳が鈍く濁っている。それはまるで闇夜に吸い込まれるような感覚に陥るようである。

 そうか!

 遅かれながら、淳はさくらが大原を『化かし』ていることに気付いた。大原にはさくらの姿は勿論、さくらの影も手にしているハンカチも、匂いも調子外れな鼻歌も、大原には認識することは出来ないのだろう。

「上馬、なんでそんなに慌ててんの?」

「そうか? そんな風に見えるのなら、そうなのかもしれないけど、実際はそうでもないよ」

「あたしには、かなり、そう見えるけど」

 大原は淳を回り込んでしゃがみ、弁当の「油揚げとピーマンのオイスター炒め」をつまみ食いする。すぐ側でその様子を見ていたさくらも、負けじと油揚げに手を出し、何とも滑稽だ。

 大原が指を舐めながら言う。

「なんか『ばけろ』とか叫んでいたし」

 痛い所を的確に突っ込んでくるな、と大原に感服しながらも淳はしばらく考えて、

「ストレス発散」とだけ答える。

 尚も訝しがって淳を仰ぎ見る大原の視線が正直きつい。

「やはりこれは何か隠しているわね。あたしの指がそう言っている」

「いいから、大原がここに来た用件はなんなんだ?」

 事を大きくしないよう、話しを逸らそうとする淳——しかし、

「今朝遅刻したでしょ。実はね、電車の中で上馬が女と抱き合ってた、ていうタレ込みがあってね。その真相を確かめようと、彩夏(あやか)と一緒に」

 しまった。見られている。

「もしかして、『これには』って…………上馬、浅はかね。もう隠せないわよ。その女とはどういう関係なの?」

 大原はずいっと立ち上がり、腰に手を当て淳に詰め寄った。大原の勘の良さと物事にしぶとく深く突っ込む姿勢を、約一年の付き合いから、淳は重々理解している。

 言い逃れる事は出来ない。なるべく穏便に、もっともらしく説明しよう……思い出すんだ、その時の状況を……痴女……痴女に出くわした……いたいけな子羊は身体を震わせて、痴女のされるがままに、そして、子羊を抱擁する加減は強まり……

(いやいやいや、俺が子羊って!)

 ここで、まて、淳は気付く。「彩夏と一緒に」って……。

 …………。

「みゆきちゃん、その、何か分かった、かな?」

 ドアの影から、ポニーテールに結った女が顔を恐る恐る出している。

 大原みゆきとたいてい行動を共にし、かつ、淳にとって数少ない女友達のもう一人である同級生、宮堀彩夏(みやぼりあやか)だ。引っ込み思案で大原に付和雷同のようだが、よくぞここまで学内新聞を斬新でスキャンダラスに仕上げるな、と感嘆の声が漏れる程のネタを素っ破抜く、やり手の新聞部部長である。

「彩夏、こっちに来てよ。やっぱり遅刻とその女は関係があるみたいよ」

「う、うん」

 前髪とポニーテールを可愛く揺らし、宮堀が淳達の方へゆっくりと近づいてくる。

 最悪だ。

『化かし』の対象者は一人まで。

 さくらはすでに大原を『化かし』ている状態で、宮堀まで『化かす』ことは出来ない。

 宮堀があと五メートルも近づけば、さくらは見付かってしまう。

「————!」

 淳はさくらを見た。

 さくらが上を指している——

「あっ」

 淳に閃きの雷光が走り、即座に大原の肩を叩く。

「大原、UFOだ!」

「何言ってんの? だまさ、ああ!」

 淳が指差したのは上空を悠々と舞う鳥だ。

 けれども、大原は慌てふためいてカメラを構え、シャッターを夢中で押す。

 そんな大原に、宮堀がきょとんとするのは、当たり前であろう。端から見れば、浮かれた大原が雲一つない青空を撮影しているだけなのだから。

 今のうち、とばかりにさくらは綿人形へと『化け』、淳は無駄のない動きでさくら綿人形を回収した。

「大スクープよ、彩夏、淳! 真っ昼間の都心で未確認飛行物体現る! すぐ消えちゃったけど何枚かは写ってるはずよ!」

 興奮冷めやらぬ大原が拳を握るのとは反対に、淳はほぼ落ち着きを取り戻していた。

「いや、やっぱり俺の見間違いだった」

 しらを切る淳。大原は心外とばかりに顔をしかめる。

「見間違いって、あれをどう見間違うのよ! ね、彩夏も見たでしょ」

「えっと、その、わたくしには何を撮っていたのかさっぱり……」

 宮堀はおどおどして淳と大原を交互に見やる。

 大原はカメラをいじった。自分が確かに見た、撮ったはずの衝撃的写真を証拠に突きつけるべく、液晶に目を落した……のだが、画像がない。俵型で狐色の、まるでいなり寿司のようなUFOを激写したはずなのに、それがないのだ。画面に映るのは、白トビしかけた空に、ゴミのようにぽつんと小さく写る鳥ばかりである。

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