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「生き物で、欲しい物はないのか」


「あぁ、それなら……」


 最近上守が懐妊して、玉様の稀人のオレたちもパートーナーと子供を儲けることが出来るようになった。

 出来れば玉様と比和子ちゃんの子供と同い年の子供だと良いね、って亜由美は言ってたか。

 今から頑張ればあわよくば、って感じだ。


「よし。あるのだな。では注連縄を解け」


「え?」


「注連縄を解き、オスキマ様に願え。何が欲しいのかを」


「迂闊に願ったら危ないだろ!」


「大丈夫だ。この正武家玉彦が保証する」


「本当かよ……。オレが死んだら遺族年金たんまり支払えよ……」


「早くしろ」


 早く祟られろって言ってるようなもんだろ。なんなの、この暴君。

 オレは渋々注連縄を解き、仰向けで大の字に横たわりぎょろりとオレを見つめるオスキマ様に願った。


「元気な赤ちゃんが欲しいです」


 プッと背後で吹き出した高彬さんを一睨みしてオスキマ様に視線を戻せば、じわじわと下半身が縮み出して上半身は大人の男なのに下半身は足を屈めた赤ちゃんのものとなった。

 異様な姿に後ずさったオレと進み出た玉様の肩がぶつかる。


「なるほど。もう力は左程残ってはおらぬから、このような姿になったのだな。さて、払うか」


 玉様はさっさと黒扇で口元を隠して宣呪言を詠う。

 オスキマ様は最期の力を振り絞って抗うように熱風ではなく温風を玉様に向けたが、白い炎に喰われる。

 オスキマ様の身体は焼けた臭いを放ちながら、肉体が焦げて炭になり、燃えているわけでもないのにパチパチと弾ける音をさせて、灰となる。

 灰は見えない空気の流れに乗せられて上へと舞い上がり、瞬きをする間に消え失せていく。

 宣呪言を詠い終えた玉様は黒扇を懐に差し込み、御厨を振り返った。


「オスキマ様はもういない。このようなわざわいを抱えること、二度と許さぬ」


 項垂れ号泣し始めた御厨を四畳半に残して、オレたち三人は居間へと出る。





 居間の窓を開けて、部屋に残っていた靄を追い出していると高彬さんが四畳半を見やりながら首を捻った。


「あの男は、オスキマ様、だったんだよな?」


 玉様は人の家なのに勝手に蛇口を捻ってコップに水を注いで一気飲みする。

 そして高彬さんを面倒臭そうに見てから頷いた。


「左様。オスキマ様である」


「でも市長さんがいう子供じゃなかった、よな?」


「オスキマ様とは欲しいと願ったモノに姿を変える禍だったのだろう。男児が欲しいと願えば男児に、若い男が欲しいと望めば若い男に、そして赤子と言われれば赤子に」


「男児と赤ちゃんは解るが、若い男って……飯野美里が願ったのか?」


「恐らくは。離婚し、男が居なくなった飯野美里は若い男が欲しいとでも呟いたのだろう。産院で火事を見ていた飯野美里の傍らには産まれたばかりの美咲がいた。同じく産院で男児を産んだ御厨の娘を確認したオスキマ様は女児を産んだ飯野美里に憑りついた。そして居心地の良い押し入れに居座ったのは良いが、飯野美里との間には何の契約もなく、女児が供物とされることも無い。元々力が尽きかけていたオスキマ様は何としてでも供物が欲しかった」


「そんなんならそれこそ美里の子供を喰えば良かった話じゃねーの? 良し悪しは置いといて」


「それは出来ぬ。オスキマ様は『供物を捧げられて初めてオスキマ様と認識』されるからだ。存在定義を否定する行動は自身の存在をも否定することとなり矛盾が生じる。矛盾が生じれば、存在は不確かなものと成り果て消滅する」


 玉様の説明になる程と頷く高彬さんだけど、稀人のオレとしては基礎中の基礎の知識だ。

 正武家家人が出張らない事案で稀人が出向く場合、自分で祓わなければならない。

 その時に自滅を誘って終わらせることも良くあった。

 わざわいことわりに反することをさせれば無駄に危険に晒されずに済むからな。

 大昔に民衆は無意識にこれをやっていたこともある。

 例えば川を氾濫させた竜神に村の娘を差し出せと言われたけど、娘じゃなくて変装した老婆だったり男だったりを差し出して喰わせれば竜神は理に反したことになり自壊する。

 この場合は犠牲が出てしまうけど、犠牲が出ない様に策を練っているのが正武家の様な類まれな能力を持った人間たちだ。

 陰陽師は式神を使い、人間の犠牲は出さない。

 正武家は宣呪言を特化させて祓い鎮める。とか。

 ちなみにスズカケノ池の鈴彦様は惚稀人と共に人柱になったが、あれはちょっと事情が違ってるんだよな。


「ともかく飯野美里は若い男をと無意識に呟き、オスキマ様に願った格好となった。オスキマ様は若い男に姿を変えて、押し入れで供物が捧げられるのを待っていたところにやって来たのが……鈴木だ。しかし鈴木の本能は部屋に踏み入ることを拒絶した。あれだけ経験を積めば馬鹿でも拒絶するようになるのだな……」


 玉様は自分で言ったことに妙に感心して何度も首を縦に振った。




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