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「子供を見ず知らずの家の玄関先に置いて行くって、どういう神経なんだろうな。オレは頭がおかしいと思う」
「余程切羽詰まっていたのだろう」
「だからって赤ちゃんだぞ? 夏だからまだマシだけど、冬だったらどうすんだよ。凍死するぞ。そもそも子供を置いて行くって考えに至るのがまず間違ってるだろ。事情を話して相談するってーのが筋だろうがよ」
「事情をどう話せば良いのか分からなかったのだろう」
「だからって……。はっきり言ってオレはこの飯野美里って女は信用ならないね。本当に何かに巻き込まれてたのか微妙だろ」
「しかし鈴木は何かを感じていたであろう」
「鈴木な。アイツが全部ややこしくしてくれてんだよなー。玉様はぶっちゃけどう考えてんの?」
「赤子に……痣があっただろう。そして飯野美里の住まう地。豹馬は以前、鈴木が話していたことを覚えてはいないか?」
「なんの話? いつ?」
「あれは、大学に入り間もなくだったと記憶している。地元に一軒、古びた立派な屋敷がある、と」
「屋敷?」
「うむ。何かの拍子に我らの出身地の話になり、自分が住んでいる家の広さの話になったときだ」
「……あぁ。あれな。玉様の家が広いって話になって、鈴木が自分ちでもないのに見栄張ってきたやつな」
「その時に、言っていたであろう。その家は旧家で、昔から栄えていたと。そして地元住民は敬い畏れている、と」
「どっかで聞いたような話だな」
鈴白村から出発し、目的地まで半分というところで玉様がようやく今回の事案についてオレに話を振ってきた。
基本的にお役目は正武家の澄彦様か玉様が独断で進めるのがセオリーで、稀人であるオレたちに意見を求めることはまずない。
稀人は正武家家人のサポートに徹して、彼らの邪魔を排除し、スムーズにお役目を遂行できるように尽力するのが仕事だ。
分かり易く言ってしまえば御膳立て。
段取りとかそんなのは些末事で、彼らの手を煩わせることは稀人としての恥とさえ教えられていた。
今回の事案は既に問題人物とのコンタクトが済んでおり、玉様が出張って終いの予定だ。
母親は子供を正武家屋敷に置き去りにしたろくでなしのひとでなしだとオレは思っている。
お役目の完了後、子供を迎えに行く彼女を連れて鈴白村へ戻る道中が堪らなく面倒で、嫌だった。
どんな事情があったにしても、断腸の思いだったとしても、子供を手離す気が知れない。
そんな女と数時間、車内を共にするって正直うんざりだ。
玉様は会話を率先してするタイプではないから、自然とオレに矛先が向くだろう。
そして女はお屋敷に到着するまでの間、謝罪と言い訳を繰り返すだろうことが容易に想像できて辟易する。もしくは泣き倒すか。
そりゃあ同情はする。
自分の家で怪奇現象が起きて、押し入れに男が居たら怖いだろう。
でも、それと子供を置き去りにするのは話は別だ。
子供を危険から遠ざけたつもりかもしれないが、オレからすれば呪われてるのは子供だから捨ててしまえって判断したんだろうと思ってしまう。
鈴木の話からしても、母親は一度そう思ったようだからとんでもねぇよ。
だったら近所の神社や寺に連れてくとか、子供を手離す以外の方法を探せよ。とオレは思う。
外部から齎されるお役目の依頼人に対して、過剰な憶測や先入観は持ってはいけないことになってはいるが、今回の事案は依頼でもなければ五村内の事案でもなく、鈴木経由で玉様に持ち込まれたただの厄介事だ。
本来ならわざわざ玉様が出張る必要もなく、他所へ振ってしまえば良いほどの小さな案件のはずだった。
しかし持ち込んだ鈴木は困ったことに玉様の友人というポジションだから事がややこしくなってしまった感は否めない。
鈴木が憑かれてしまった元々の原因は飯野美里の家を訪れ、不用意にも首を突っ込み、足を踏み入れてしまったことにある。
鈴白村で健康を取り戻した鈴木が元の職場に戻り、元凶の飯野美里の家を訪れれば同じことが繰り返されるのは火を見るよりも明らかだ。
だったら飯野美里の家の押し入れに潜む何かを祓ってしまえば良い。
ここまでの流れなら、オレだって文句はない。
でも鈴木が余計なことを彼女に言ってしまい、子供を正武家屋敷に置き去りにしてしまったことが正武家を一時でも無駄に混乱させたので、非常に腹立たしく思う。
現在正武家を混乱させても許される人物は、玉様の伴侶の上守だけだ。
上守は神守でもあるから仕方ないと正武家家人と稀人衆は諦めているだけだが。




