17
「道彦や九条さんは尋ね方を間違えましたね。私なら、こう聞きます。『くだんが発した語を順に言ってください』です」
「あぁ、そうだねぇ。そう聞いてくれたのなら自分は『一言一句言えた』だろうね」
「くだんのお告げはもう意味が分かりましたか?」
「おかげ様で。須藤家に婿入りして涼を授かって十数年後、くだんのお告げは確かに当たったよ」
「……くだんは爽太さんの……いえ、何でもないです。もう当たったと言うなら、それで」
私は背を向けたまま軽く頭を下げて、小走りで車に戻った。
全部聞くのは野暮ってものだろう。
くだんのお告げは、大学で獣医師をしていた爽太さんには意味不明の内容だったのだろう。
けれど、正武家屋敷に連行されて、五村のことや須藤家の事情を知り、ようやく理解できたのではないだろうか。
だから道彦や九条さんは、五村に関わり合いがあるか、と質問を重ねたのだ。
五村の安寧を何よりも優先する正武家の道彦と稀人の九条さんからすれば、くだんが何かを予言したとしても五村を揺るがすような予言でなければ、依頼された事案でもないし捨て置いて構わないという判断だったのだろう。
そして爽太さんは……くだんのお告げは自分に向けられていたと理解したのだろう。
なにせ、『なんじ』とは『汝』、つまり『お前』という呼びかけから始まったお告げなのだ。
爽太さんは多分、道彦たちにも最初の部分は伝えたはずだ。
だからこそ道彦たちも個人に向けられた予言ならばと深くは詮索しなかったのかもしれない。
で、お告げの内容だけど。
私の勝手な予想だけど。
きっと……ううん。ま、男と女には色んな切っ掛けがあって、結ばれるってことよね。
それが『くだん』だったとしてもね。
久しぶりに頭をフル回転させた私は車の後部座席に座ってから寝そべる。
身体を動かすよりも頭を使った方が疲れるって、なんなの。
「大丈夫? 上守さん。変なモノ視ちゃったから疲れちゃった?」
「ありがとう、須藤くん。平気。ちょっと頭使ったから疲れただけ」
「え、疲れたの!? じゃあもうお屋敷に帰ろう」
「オレの田舎散歩はー?」
「うるさい、鈴木」
須藤くんは車のアクセルを踏もうとしたけれど、タイミング良く彼のスマホが鳴って発進する前にスマホに出た。
「はい、須藤。あぁ、どうしたの? ……え? どうして?」
須藤くんは運転席から寝そべっていた私に振り向き、スマホに耳を当てたまま誰かと会話していたけれど、分かった、と言って通話を切った。
「なに?」
私が聞くと須藤くんは後から玉彦様から連絡が入ると思うけど、と前置きをして。
「飯野美里の件は問題なく終わったそうなんだけど……。玉彦様と豹馬はしばらく鈴白に帰れないらしい」
「え……?」
予想もしていなかった内容に私は疲れが一気に吹っ飛び、起き上がった。