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第六章『件《くだん》の話』


 昨夜は聞いてはいけないものを聞いてしまった……。しかも見てしまった。


 玉彦が声を出して笑うのは珍しく、余程須藤くんの大好き発言が彼のツボにハマったのだろう……。

 玉彦も須藤くんも必死に否定していたけど、い、いいのよ、別に。

 元々正武家では惚稀人以外の伴侶は子供を産んでから五年でお屋敷を去らなければならなかったから、彼女たちが居なくなって以降、当主や次代のそういう欲求というのを解消するためになにかしら何かがあったと私は考えたことがあった。

 でも玉彦をみて分るように、自分で決めた女性以外とは具合が悪くなってしまうし、もし万が一他の女性とそういうことをして子供が出来てしまっても困るだろうから、自然と男性と……という話は有り得るかもと。

 衆道という言葉が大昔からあるくらいだから男性社会の中ではよくあることだったのかもしれない。

 女犯にょぼんという戒律がある僧侶や戦国武将なんて、稚児をそういうために囲っていたっていうくらいだからきっと珍しくはないこと。なんだと思う。うん。

 でもさすがに私がいる時にそういうのは控えて欲しいかな、と玉彦にお布団の中でお願いしたら絶句していた。


 朝餉の席では玉彦が澄彦さんに本日の予定として、飯野美里に会いに行くと報せていた。

 豹馬くんと二人で向かい、昼前には彼女が住まう市営住宅に到着する予定だ。

 飯野美里とは昨夜遅く連絡が取れて、電話の向こうで美咲ちゃんを手離してしまったことを酷く後悔していてすぐにでも迎えに行くと鈴木くんに言ったけど、どう考えても交通機関が止まっており無理なので、まずは原因を解決し、玉彦たちと一緒に鈴白村へ帰って来て美咲ちゃんを引き取る算段になっている。


 美咲ちゃんは一人目の赤ちゃんと同様、今は保育園に預けられていて健康状態は良い。

 南天さんの見立てでは美咲ちゃんにはまだ何も悪影響は出ていなく、何かに憑りつかれてもいないそうだ。

 澄彦さんはそれを聞いて、たぶん美咲ちゃんよりも居心地の良さそうな鈴木くんが近くに居たので彼の方に悪いモノは引き寄せられていたんだろうと言っていた。

 オレが居たことに意味はあったんですね、と鈴木くんはよせばいいのに胸を張って、後ろから豹馬くんに頭を叩かれていた。


 玉彦と豹馬くんを裏門で送り出して、私と須藤くんと鈴木くんは母屋へと戻る。

 澄彦さんと南天さんはこれから午前のお役目があって、本来なら須藤くんも当主の間でお仕事なんだけれど私と鈴木くんを二人だけにすることは色んな意味で危ないと玉彦が言い出して、三人で行動するようにと言われていた。

 澄彦さん的には鈴木くんを本殿の竹婆に預けるかうちのお祖父ちゃんの畑の手伝いでもさせて、私と須藤くんには当主の間という自分の目の届く範囲に置いておきたかったようだけど、それにも玉彦は『座敷豚にさせられる恐れがある』として断固反対した。

 たった数時間で座敷豚になることは絶対に無いんだけど。



 母屋の雑事を三人で手早く終わらせて、さぁこれからどうするとなったとき、鈴木くんがせっかくだから外に出て歩きたいと言い出した。

 前に来た時は祝言の時でお酒を呑み過ぎ、その前は気が付かない間に気絶させられて帰途に着いていた鈴木くんは田舎を満喫したいんだと私と須藤くんに懇願した。


「田舎を満喫するって言っても、なーんにもないわよ? 本当に、何にもないんだから」


「鈴木のいう田舎を満喫するって、なんなの?」


「そりゃあ、のんびりとした田舎をな、満喫したいんだよ」


「例えばどういうのが田舎なんだよ」


「牛がその辺を歩いてたり、畑に蛙とかオタマジャクシがいたり?」


「放牧しているところは鈴白村にはないし、鈴木はオタマジャクシを見て何が楽しいんだよ」


「だから田舎をだな」


「てゆうか鈴木くんは田舎っぽいことを経験したいってこと?」


「そうその通り!」


「じゃあとりあえず散歩で良いんじゃないかな、須藤くん」


「散歩かー。車でも良い?」


「それはドライブっていうんだぞ、須藤!」


「そんなこと言われなくても解ってるよ。ただ……」


 須藤くんは私を見てから逡巡する。


 先日の神落ちの件で澄彦さんから基本的に外出禁止を仰せつかっている私は、稀人と一緒ならお屋敷から出歩いても良いことになっている。

 でも須藤くん的には私を歩かせたくないようだ。

 散歩といえどこの田舎である。

 相応の距離を歩くことになるだろうことは想像できる。

 しかも鈴木くんの意気込みからして時間の許す限り歩き回りたいのだろう。

 寝込んでいて身体が鈍っていると無意識に発散したくもなる。


「うーん……。じゃあ途中まで車で、そこから散歩しようか」


 須藤くんの頭の中で今日の予定が素早く立てられたようで、私たち三人はそれに従うことにしたのだった。




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