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 本当は蘇芳さんのところへ出向いていた多門が帰って来てから鈴木くんの話を聞く予定だったけれど、二人目のS様宛の赤ちゃんが屋敷に置き去りにされてしまったことを切っ掛けに、澄彦さんが取り纏める形で関係者が当主の間に集められたのは、予定通りの夕方だった。


 当主、次代、稀人三人、そして私。

 鈴木くんは当主の間の真ん中に座らされており、居心地が悪そうだ。


「鈴木和夫」


「はっ、はい!」


 真正面の高座に座っている澄彦さんに呼ばれて、鈴木くんは姿勢を正して拳を膝の上で固く握りしめた。

 見ている私も心配するほどの緊張っぷりである。


「正武家澄彦である。玉彦の父にして、正武家当主である」


「あっ、はい。いつも玉様にはお世話になっています。鈴木和夫です。本日はお日柄も良く……」


 と、鈴木くんが言いかけたところで豹馬くんがワザとらしく咳払いをし、ズレたことを言い出すなと遠回しに助け船が出された。

 鈴木くんは全身全霊で当主の間の空気を読んで、両手をついて頭を下げる。


 正武家屋敷の当主の間でのお作法は村民には伝えられているけれど、依頼人には説明されない。

 しかし当主や次代の雰囲気に気圧されて何故かみな一様に頭を下げる。

 鈴木くんも例外ではなく、澄彦さんから上げよと声を掛けられるまでずっと畳と睨めっこをしていた。


「上げよ、鈴木和夫。お前に聞きたいことがいくつかある」


 身体を起こして澄彦さんを見て、それから鈴木くんが不安そうに玉彦へと視線を移せば、玉彦は静かに一度頷いて、話をせよと促した。


「さきほど見た赤子は知り合いの子で相違ないか」


「ありません。飯野さんの一人娘の美咲ちゃんです」


「赤子はどの子も同じに見えるが、言い切れるか」


「は、はい。オレは、自分は何度か美咲ちゃんに会ってますし、それに……」


「それに?」


「左手の小指の付け根に赤い小さな痣があるので間違えません」


「……そうか。では次に、美咲の母親の名は何と言う」


「飯野美里さんです」


「お前は飯野美里に鈴白の正武家について語ったことはあるか」


 核心に迫る澄彦さんの質問に鈴木くんは眉間に皺をよせ目を固く閉じてコクリと頷いた。


 澄彦さんに怒られると想像したのだろうけども、そもそも鈴木くんはその時はまだ玉彦がそういうことを生業としていると知らなかった訳で、何をどう話せば飯野美里が赤ちゃんを正武家屋敷に置き去りにすることになったのか全く理解できない。

 なので鈴木くんが友達の玉彦のことを誰かに話をしたとしても怒られることはない。と私は思う。


「それは次代のことを語ったのだな?」


 再び頷いた鈴木くんを尻目に玉彦を見た澄彦さんは少しだけ目を細めて笑ったように見えた。

 たぶん二人目の『S様』は自分ではなく玉彦を示すものだったことに満足したのだろう。


「して、何を語ったのだ」


「それは……あのう……。自分の友人の守護霊様は凄い強いって感じの話です」


「……守護霊?」


 澄彦さんは楽し気に片眉を上げて、腕組みをしてから身体を前に乗り出す。


 鈴木くんは正武家が連綿と受け継ぐお力のことは知らなくて、蓑虫お婆さんの時に勘違いしたまま今に至っていた。

 私もまだ午前中に彼の話を一方的に聞いていただけだったのでその辺りの事は教えていなかったし、私よりも玉彦から聞いた方が良いかなと思って黙っていたせいもある。


「なぜそのような話になった」


「それは……飯野さんの家の押し入れが……」


 鈴木くんはじっくりと思い出しながらゆっくりと語り出す。

 私たちは彼の話を聞き漏らさないように耳を傾けた。





 鈴木くんは例の話の通り、お仕事で市営住宅の物置の修復等について調査していたそうだ。

 そしてとある市営住宅群の一角を訪れた。


 四階建てで一棟に八宅あるタイプの住宅で、二棟が連結されていて、合計八棟、遠目に見ると大きな住宅が四棟、六十四世帯が入居していた。

 半数以上がベビーブーム世代の親の代の人たちだそうで、高齢者が多数を占めていて、そこにポツリポツリと若い世代の家族が入居していたらしい。

 建物は何度か修繕されてはいたものの、昭和時代のもので四十年以上前に建てられていた。



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