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「えええっ! なんの話だよ、玉様。いてぇよ!」


 掴まれた頭を振って、私の後ろに身体を隠した鈴木くんは苦々しく顔を歪める玉彦を涙目で見つめた。

 普通に鷲掴みにされても痛いのに、叩き落した手だったらもっと痛いよねぇ……。

 鈴木くんに同情していると、玉彦が私の手を取り引き寄せて鈴木くんから距離を置かせる。


「豹馬が貴様は比和子同様のトラブルメーカーだと以前言っていたが、まさに!」


 私が居ないところでそんなことを言っていたのか、豹馬くんよ。

 確かに気になることがあると首を突っ込んでしまうけど、半分くらいは私のせいじゃなくて勝手にそうなってしまうのだ。

 これは神守の性質でもある。

 特に不可思議な事案ともなると正武家の露払いの為に神守が先に反応してしまうのだ。

 神守で出来ることは神守が対処し、お役目を担う正武家の手を煩わせないために。


「玉彦?」


「比和子も聞いていたであろう。赤子の母親は鈴木と繋がっている」


「え……?」


 私が今、玉彦と一緒に聞いていた鈴木くんの話は、彼が勤める市役所の話である。

 鈴木くんは市役所で市営住宅課に配属されていて、市営住宅の入退去等々を管理しているのだそうだ。

 入居者には色んな人がおり、独居老人や母子、父子家庭、生活保護の人、もちろん一般世帯の家族も入居している。

 鈴木くんは今年に入ってから各市営住宅の外にある物置の点検に回っていて、住人たちと立ち話をすることがよくあったらしい。

 そこで住まいに関する苦情などを聞いては市役所に帰ってから上司と話合って対策を立てていると鈴木くんは話していた。

 住人にとって鈴木くんは人あたりが良くて話しやすいお役人だったようで、苦情以外の世間話もしていたっていうけれど……。


「今の話に赤ちゃんなんて出てきた?」


「赤子は出ておらぬが、母親が出ていた」


「えっ? お母さん?」


「母子家庭の話だ」


「流石にそれは考え過ぎなんじゃないの?」


 昨晩のこともあって玉彦は赤ちゃんという存在に過敏になりすぎている気がする。


 住人との世間話の中で、市営住宅に入居している母子家庭があって、母親は一日中外に出てこないことが多く、父親は最近見かけないし、仕事もしていないようだし、大丈夫か、とご近所さんの老人たちは心配しているとさらっと鈴木くんは話しただけだ。


「考え過ぎなものか。大方鈴木はその後、その母子家庭の母親と接触したのであろう。違うか?」


 玉彦の推理を聞いた鈴木くんは気まずそうに視線を横に逸らしてごにょごにょと口籠った。

 よくよく考えれば鈴木くんは午前中から自身に纏わる不可思議な出来事の話を一貫してしていた。

 ということは午後になっても彼の中でその流れは続いていて、物置点検が不可思議な出来事へと繋がる話になってもおかしくはない。いや、むしろそうなる。


「鈴木。事と次第によっては再び木に吊るすぞ」


 押し殺した声の玉彦は開け放っていた障子の向こう側に見える庭の一本の木を指した。

 その木は玉彦が悪さをすると竹婆や宗祐さんに罰として身体を縄で縛られて吊るされた由緒正しい木である。

 ちなみに豹馬くんも一度玉彦と一緒に吊るされていた。


「再びって、鈴木くん吊るされたことないでしょうよ」


 私が玉彦の膝に手を置くと、彼は眉間に皺を寄せて鈴木くんを見据える。


「ある。鈴木は以前、通山で一時居候していたのだが、鍵をな、どこぞに落としてきたのだ」


「あぁ、例のお婆さんの時でしょ。でもすぐに戻って来たじゃないの」


 そうだ。

 落としてもすぐに須藤くんの女友達が持ってきたと鈴木くんは言っていた。



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