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 南天さん同様小難しい顔をして考え込んでいた私の顔を覗き込んだ玉彦は、唇を僅かに上げて笑う。


「比和子」


「何よ」


「比和子以外の女の裸体を見て具合が悪くなる俺がその様なこと出来るはずもなかろう」


「確かに」


 前にお役目で玉彦は女性の裸体を見て卒倒するほど具合が悪くなって、ゴミ箱を抱えて吐き戻していた。

 澄彦さん曰く、正武家の男性は伴侶と決めて裏門を通った女性を抱いた以降は、他の女性に対して性的な拒否反応が出てしまうそうだ。

 けれど伴侶を決める前に女性経験をある程度していれば拒否反応はそんなに酷くはないらしい。

 女性が裏門を通らなければ子供は出来ないので、伴侶を決める前であれば次代を儲けることもなく経験は出来る。

 でも玉彦の場合、経験は惚稀人の私だけだから、女性の裸体に対しての拒否反応が物凄く酷いものになってしまっていた。

 まぁ確かにあんな状態になってまで、他の女性としようとする玉彦は想像できない。

 それに何より忘れていたけど、正武家の子を生むためにはまず裏門を通らなければならないお約束だ。

 ということはもし万が一澄彦さんが原因だったとしても、相手の女性は一度は裏門を通っているはずで。

 そうなると村の人間か、お役目の相談者ということになる。

 子供が既に生まれているということは、少なくとも一年前よりもっと前のことになる。


「父上と離れへくが、比和子は来なくともいぞ」


「行くわよ。気になるじゃないの」


 よっこらせと立ち上がった私に差し伸べられた玉彦の手を取り、澄彦さんと南天さんを先頭にして私たちが外廊下を渡っていると、離れから微かに赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、私と玉彦は顔を見合わせた。


「赤子か……」


「でも、じゃあお母さんも来てるってこと? でも……」


 お母さんが来ているならお手紙なんて必要ない。

 南天さんが警察といっていたから……。


「捨て子か?」


 玉彦がギュッと私の手を握ったので、私も握り返した。

 たぶん、二人が思ったことは同じだと思う。





 離れの事務所に到着すると、那奈が部屋の外に出ており私たちを見て駆け寄ってきた。

 澄彦さんと玉彦に微妙な視線を向けて、私の袖を引っ張る。


「裏門を閉めようとしたら大きなカゴに入ってて。赤ちゃんだよ。どっちの子供よ?」


「どっちって……どっちも違うと思う」


 那奈は正武家の男性の特性を知らないので、かなり冷ややかに目を細くして二人を見ている。

 でも澄彦さんも玉彦も全く身に覚えがないらしくどこ吹く風だ。

 南天さんに続いて中に入れば、事務所のソファーに松梅コンビが座り、赤ちゃんは高田くんの腕に抱かれていた。

 さっきまで泣き声が聞こえていたけど、高田くんに抱っこをされて安心して泣き止んだようだ。

 さすが子育て現役のお父さんである。

 水色のおくるみに包まれて、まだ少しだけぐずっている赤ちゃんの顔はまだ生後半年位といったところだ。

 私は中学生の時に弟のヒカルが生まれて、弟が赤ちゃんの時も鮮明に記憶に残っていたのでなんとなくそう判断した。


「泣き疲れて寝ちゃったの?」


「ううん。さっき飲んだミルクのげっぷを出させたんだけど、自分でも驚いちゃって泣いちゃったみたいだ」


「そうなんだー」


 高田くんは左右に身体を揺らしつつ、複雑な表情で赤ちゃんを見つめ、そして私にそっと腕を差し出す。


「抱っこ、してみる?」


「いいの?」


 久しぶりに赤ちゃんとの触れ合いに思わず頬が緩み、両手を前に出そうとしたら澄彦さんが私と高田くんの間に身体を滑り込ませ、ソファーに座っていた松梅コンビが珍しく音を立てて立ち上がったのが同時だった。


「比和子」


 後ろから肩を引かれて振り返れば玉彦が眉根を寄せて二度首を横に振る。


「え、なによ。別に普通の赤ちゃんよ?」


 至って普通の赤ちゃんで、鈴木くんの様に黒い靄を纏っている訳でも、いつか見た新田さんの子供の様に何かに憑りつかれている訳でもない。



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