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 そして夕餉の席。


 いつも通り当主の母屋にて澄彦さんと玉彦と私で美味しく頂き、食後のお茶の湯呑みを二人に手渡していると、小難しい顔をした南天さんが現れた。

 基本的に空になったお膳は私たちが立ち去った後に下げられるので、南天さんがこのタイミングで現れたことに澄彦さんも玉彦も揃って首を傾げた。さすが親子である。


「どうした南天。なにかあったのか?」


 澄彦さんが声を掛けると南天さんは澄彦さんの隣に膝をついて、白い長封筒を無言で手渡した。


「えすさま?」


 封がまだ切られていない長封筒の裏表を確認してた澄彦さんは不思議そうに再び首を傾げる。

 私の目にはチラッと封筒の表面に『S様』と書かれていたのが見えた。

 切手も貼られていなく、住所すら書いていない。

 と言っても五村では住所はあってないようなもので、同じ村内であれば名前だけ書いておけば郵便物は大体届く。

 他村の人間への郵便物は村名と名前だけで届いてしまうし、五村内であれば正武家様とだけ書いておけば間違いなくここに届く。

 でもさすがに切手は必要だし、住所の無い『S様』だけで正武家に届けられるのは有り得ない。

 ということは、このお手紙は直接離れの事務所の郵便受けに入れられたのだろうけど、松梅コンビや那奈、高田くんが事務所にいるので誰かが気が付いていたはず。


 澄彦さんはピリピリと封を手で切って、中から便箋を取り出し目を走らせた。

 そしてギョッとして目を見開くと、南天さんと手紙を何度も交互に見て、ちょっとだけ身体を仰け反らせた。


「ここに、今、居るのか?」


「居ます」


「どこだ」


「離れの事務所で梅様が」


「一大事じゃないか!」


「警察に届けますか?」


「いや、ちょっと待て。まずは会いに行く。次代、行くぞ」


「何用だ」


「お前の弟か息子か、誰かの子供が来ている」


 酷く真面目な顔をした澄彦さんの言葉に、玉彦と私は固まった。


 でも、澄彦さんが真面目な顔をしてる時ってさ……。


 しかも弟か息子って絶対に有り得ないんですけど、正武家の男性の特性的に。


 惚稀人が伴侶ではない場合、子供を産んだ女性はお屋敷から出て行かなくてはならないために次代に恵まれると、正武家の男性は女性が出て行った以降は子作りをする機会がない。

 そして惚稀人が伴侶の場合であっても、昔は出産リスクが高かった為に二人目を儲けようとすることは無かった。

 私が以前話を聞いた鷹彦は雪彦が生まれてから、惚稀人とも子供をと頑張ったけれど恵まれなかったことから察するに、正武家のお力が次代へと受け継がれてしまえばたとえ惚稀人が相手だったとしても受け継ぐものが無い為に子供は出来ない。


 玉彦と私はそれでももしかしたら惚稀人である私が次代を産み、次の子を望めばできるかもしれないと思っていた。

 玉彦の推測によれば、次代を産んだ女性は次も産める可能性が残されているという。

 長い正武家の歴史の中で、試みた人間はまだいない。

 条件を満たす女性はお屋敷を出て行ってしまうか、出産リスクを考えてそういうことを控えていたからだ。

 でも現代は昔よりも医療技術が発達し、出産リスクは低くなっている。

 医療技術が発達した以降に正武家の男性と結ばれた惚稀人は私だけなので、未知数なのだ。

 そして玉彦が言うには、惚稀人が子供を産んでも屋敷から出ることがないということがポイントらしい。

 惚稀人とそうではない人間の違いはまだあるはずだと彼は言う。


 そう考えると、だ。

 まず玉彦の息子であることはあり得ない。

 だってお力を受け継いだ子供は、私のお腹の中にいる。

 そして澄彦さんの子供であるはずもない。

 だって月子さんはもう五十手前なのだ。


 それにお屋敷から出た月子さんと澄彦さんとの間に子供が出来ないとは試みた人間がいないので言い切れないけれど、もし懐妊ともなれば澄彦さんは小躍りして絶対に月子さんを再びお屋敷に迎えようとするはずだし。


 しかし、である。


 長い正武家の歴史の中でそういうことがなかっただけで、お力を受け継がない子供が次代よりも先に産まれることもあるかもしれないし、次代を産んでいない女性が正武家の男性の子供を宿すことだってあるかもしれないのだ。

 疑い始めれば可能性は、無限大だ。



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