第四章『S様』
「いや、お前。鈴木っ。話が無駄に長い! 大学時代に須藤のせいで小町ちゃんと怖い思いをしたってそれだけの話じゃねぇか! 誰がお前の心境を知りたいんだよ!」
「えええええええっ……。だってこういう話って一見無駄に思えることでも話した方が良いじゃん」
「一見無駄どころか、全部無駄!」
多門の身も蓋も無い感想に、鈴木くんは再び項垂れる。
でも、そうだったのかぁ。
私は小町視点の話だけだったから結構唐突な出来事に感じていたけれど、鈴木くんの話を聞くとなるほどと思う。
突然蓑虫お婆さんが襲来した訳ではなく、きちんと理由があったんだ。
お婆さんは小町と鈴木くんに自分の力が及ばないことを感じていて、どうにかしなくてはと思ってはいたけど、中々行動に移せなかった。
共生していた須藤くんの女友達が二人に危機感を持たないと動けなかったんだと思う。
そしてお婆さんの力が及ばなかった理由は、一つだけ。
完全に私の推測だけど、小町や鈴木くんは私や玉彦にとって切り離せない存在だ。
ということは、多分五村の意志の流れがお婆さんの力を上回っていたんだろう。
長いこと生きて力を持っていたお婆さんですら介入を許されない五村の意志の流れって……。
そんなことを考えていると、せっかくお話してくれた鈴木くんに散々悪態をついた多門が咳払いをした。
「で、鈴木はそういうことがあって、次代がそういう人だって知ったんだな?」
「うん。でもそういうのはそれっきりだったから」
鈴木くんは肩を竦めてようやく目の前に出されていた湯呑みに口を付けた。
「それで今回は? 何か問題があってあんなことになっちゃったんでしょう?」
駄菓子屋さんの前で黒い靄に覆われていた鈴木くんの惨状を思い出し、私は同情の目を向ける。
てっきり鈴木くんは感じるくらいの能力だと思っていたけど、今の話を聞くと結構はっきりと視えてしまっていた。
視えなくて何となく身体が重いなって感じるのと、色々視えてしまって明らかに何かに憑りつかれてるって解っているのとじゃ恐怖の度合いが違う。
「うん。それがさ。今、オレ、市役所に勤めてるんだけど」
「はいはいはいはい。スト―ップ!」
鈴木くんが口を開くと多門が両手を振って遮る。
「何よ、多門」
「こっから先の話は次代か当主にしなきゃダメなやつ。比和子ちゃんが聞いても解決できない」
「でも聞くだけ聞いても良いじゃないの」
口を尖らせた私の目の前に多門が人差し指を突き立てた。
「聞くだけじゃ収まんないから言ってんの! 絶対首を突っ込むでしょ! それに何回も話す鈴木の苦労も考えなよ! しかも無駄に長いんだから!」
多門の剣幕に押された私はわかったわかったと彼を宥めて、玉彦たちがお役目から帰って来たらみんなで話を聞くことにした。
そして鈴木くんも話す手間を考えたらそれが良いかもと同意をしてくれた。
ついでに今まで黙って知らないフリをして来たけれど、自分も色々話すから、そろそろ玉彦にも本当の事を話してほしいなぁとちょっとだけ寂しそうに笑っていた。
それから私と多門と鈴木くんが台所で仲良く三時のおやつの準備をしていると、お役目から帰って来た三人がお風呂に入って身体を綺麗にしてから合流した。
本日のスイーツは本当に簡単お手軽なフルーツババロアだ。
冷蔵庫で一旦冷やしたババロアを六等分に切り分けて、私たちはダイニングテーブルに着く。
そこで私と多門が鈴木くんから例の話を聞いたことを玉彦に言えば、そうか、とだけ言って特に感想はない。
鈴木くんは話したことが玉彦にバレてしまうことを恐れていたけど、そもそも小町と何かあって三枚の御札を渡したということは他でもない、玉彦から私は聞いている。
だからバレて怒られるとかそんなことは最初から心配する必要なんてないのだ。
玉彦も豹馬くんも須藤くんも、鈴木くんがあんな状態で鈴白村に来たということは、自分たちの不可思議な事情について彼も知らないふりをしてたけど知っていたと思っているはずで。
多門が言ったようにここまで来て今さら隠してたって仕方の無いことなのだ。
むしろ鈴木くんは知っていても玉彦とお友達でいてくれている訳だし、私はそれだけでも充分彼は貴重な人間だと思う。




