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そして翌日、である。
リビングのソファーで寝ていたオレは、玉様に蹴落とされて目が覚めた。
昨日から話をしていなかったから何とも気まずかったけど、玉様はいつもの調子でオレが居なくなったソファーに座って新聞を広げた。
「玉様……」
「なんだ」
「おかえりなさい……そしてごめんなさい」
「ペットが何を吠えようとも気にせぬ」
「あ、はい……」
新聞を読む玉様の足元に正座して小さくなるオレは、本当にペットのようだ。
そのまま大人しくしていると、昨日結局泊まることになった須田と小町ちゃんが二階から姿を現して、リビングに集合する。
御門森は朝食の準備をしているが、須藤の姿はなかった。
玉様は須田と小町ちゃんがソファーに座るとようやく新聞から目を離して、オレを見た。
「して、鈴木よ」
「はい」
「ここ数日から昨晩まで、何か変わったことはあったか?」
「へっ? あったも何もあったじゃん!」
蓑虫お婆さんとか紅美ちゃんとか!
「本当に何かあったのか? 守はどうだ? 小町は?」
「んー? 小町は特になんも無かったよ。守もないよね」
「無かったな」
須田と小町ちゃんは二人で顔を見合わせて、頷き合っている。
いや、ちょっと待てよ。絶対にあったよな!?
オレは立ち上がって玄関に向かい、外に出てから振り返った。
でも。
そこにあるはずの御門森が鉄の棒を突き立てて出来た数々の穴が忽然と消えていた。
目を皿のようにして修復跡を探したけど、そんなものはなかった……。
首を傾げつつリビングに戻ると、玉様が背凭れ越しに振り返った。
「何も、無かったな?」
「ありませんです……」
「そう言えば鈴木ー。あんた昨日すっごい寝言酷かったよー」
「え?」
「ひゃあとか言ってた!」
小町ちゃんはイヒヒと笑ってオレを指差す。
夢、を見てたのか?
いやいやいやいや、そんなはずはない。
あんなにリアルで内容が濃すぎる夢なんてあって堪るか!
オレが玉様に突進しようとすれば、コーヒーカップを片手に持った御門森が立ちふさがった。
「御門森。お前だって昨日……!」
「何もなかったぞ。つーかお前。前も半魚人がどうのって言ってたけど、妙な夢を見やすい体質なんだな」
「へっ?」
まさか、こいつら。
また夢だとオレを丸め込もうとしていやがる!
そうそう簡単に丸め込まれてなるものか!
意気込んで息を吸ったオレに、テレビを観ていた須田の今日からまた猛暑日が続くんだなーの声が耳に流れ込んだ。
猛暑日ってアレですよ。
三十五度の気温ですよ。
クーラーの無いオレの部屋は四十度を軽く超える、そんな厳しい日ですよ。
「あのう……玉様……」
「なんだ」
「オレ、ここに居ても良いんだよね?」
「構わぬ」
「そう云うものだから、そう云うものだと思った方が良いんだよね?」
「何を今更」
「ですよねー」
オレは決して猛暑日に負けた訳じゃないんだぜ。
オレは友達と友情を長続きさせるために、見て見ぬふりと言うスキルを習得しただけなんだぜ。




