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「脅迫じゃないよ? お願い、だよ?」


 紅美ちゃんはリビングに一歩踏み込もうとしたけど、さっきみたいに足を引っ込めた。

 ……ここには入れない、のか?


「でもお願い聞かなかったら、違う世界に行ってもらうって死ねってことじゃん」


「そこで彷徨ってもらうだけだよ?」


「彷徨って死ぬだけじゃん」


「そうなるかもだけど、仕方ないよねっ。だってお願いを断ったんだから」


 ダメだ。話にならねぇ。

 お願いとか言ってもほぼ強制だ。

 なんだって戻りたくもない時間を戻すために自分の寿命を一年犠牲にしなきゃならんのだ。

 そう思っていたのはオレだけじゃなかったようで、隣の須田がキラリと眼鏡のレンズを光らせた。


「あと数時間もしないで須藤が帰って来る。君はそれまでに今の状況をどうにかしないとまずいことになるって『知ってる』んだろ。だから危険を承知で下に降りてきた」


 おおお。

 さすが須田。

 小町ちゃんとオレからしか情報が無いのに、推察能力が高過ぎる。


 それで、別時間軸ではどうなったんだ?

 彼女が強硬手段に出たってことはかなーりヤバいことになったんだとは思う。

 図星だった紅美ちゃんは何も言わずに須田を睨んで後ろを振り返った。


「お婆ちゃん。もう面倒だからまとめてやっちゃってよ」


「無理無理無理無理。札がまだある」


「だから札ってなんなのよー。そんなのあったところで別にいいじゃないの」


 お婆さんは浮かんだまま御札をバッグに仕舞っていた小町ちゃんを指差す。


「札は中には入れない入れない」


「は? なに? 小町ちゃんが札なの? 札ってなんなのよ?」


 お婆さんに詰め寄る紅美ちゃんを横目に、ジリジリと小町ちゃんは後ろ向きのままカーテンの隙間に腕を差し入れ、音もさせずに鍵を下ろした。

 須田とオレに、ベランダから逃げるわよ、と目配せをして小町ちゃんは身を翻した。


 ガラリと勢いよく開けたベランダの窓から、一番近くに居た小町ちゃんが庭に出た。

 次いで須田が後を追う。

 オレも足を縺れさせながら転がり出た。

 小町ちゃんと須田はもう庭を横切り、玄関前まで迫っている。

 オレも後を追ったんだけど……。


 御札を持った小町ちゃんがリビングから出ちまったもんだから紅美ちゃんが普通に追い掛けて来て、玄関前でふわりと空中から降りてきた蓑虫お婆さんに前を塞がれ、背後には紅美ちゃんと挟み撃ちをされてしまった。

 マジで万事休すだろ、これは。


「どうして逃げるの、鈴木くん。てゆうか鈴木くんが小町ちゃんなんかに話しちゃったからこんなことになったんだけど!」


 紅美ちゃんに詰め寄られたオレは後ずさりして、浮かぶお婆さんの蓑藁に衝突し、情けなくも、うひゃあと叫んで尻餅をついた。

 だ、誰か助けてくれよー。

 門の向こうにはこちらに来ようとして二の腕を須田に掴まれた小町ちゃんが暴れていた。

 須田ー、そこは小町ちゃんを止めてくれるなよ!


「とりあえずお婆ちゃん。まず鈴木くんからお願い。小町ちゃんから離れたら戻れなくても行けるでしょ?」


「行ける行ける」


 頭上でくるくると回転し始めたお婆さんの蓑藁がふわっと捲れて、オレは見たくもないのに中身を見てしまった。

 細い手足のように身体も細いのかと思っていたら、そこに身体はなく、真っ白い何十もの骨があった。

 人体を構成させる骨の形じゃなくて、無造作に蓑藁の中に溜め込んで折り重なっている骨。


 これって今までお婆さんが犠牲にしてきた人間のものなんじゃ……。


 パラパラと頭に骨の欠片が降り注ぎ、オレは恐怖で動けなくなった。


「じゃあね。鈴木くん。涼くんに話さなかった事だけはありがとね」


 紅美ちゃんにニコリと笑いかけられても何も嬉しくない。

 オレの人生、こんなところで終わってしまうのか!?




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