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25


 最初小町ちゃんが御札を出した時、まだ隅がちょこっと黒いだけだった。

 でもオレが触って半分くらい黒くなっちまって。

 それから紅美ちゃんが現れて急激に御札が黒くなってしまった。

 普通に考えて紅美ちゃんに反応して黒くなってしまったんだろうけど、オレには理由が解らない。

 玉様の御札にどんなご利益があるのかと言えば、小町ちゃんがオレに御札を持って帰れと言ったことから察するに良くないものから身を守るためのものなんだろう。


 つーことはだ。

 紅美ちゃんは良くないもので御札が黒くなってしまったと考えるのが妥当だろう。


 ……。


 どう考えてもヤバいだろ!?

 だって紅美ちゃんが現れてからまだ数時間なんだぞ!?


 夕方に小町ちゃんが来て、紅美ちゃんが襲来し、追い払ってから夕飯。

 それから少しして外に彼女がまだ居ることに気が付いて、須田が呼び出されて、今。

 時計を見ればまだ二十一時半で、精々四時間だ。

 一枚目の御札が半分黒くなってから紅美ちゃんが登場して、二枚目の御札の半分が黒くなったってことはおよそ四時間で御札一枚分が消費されるってわけだよな。

 須田が手にする御札は一枚と半分がまだ白いままだから単純計算であと六時間は御札の効果があるんだろう。

 小町ちゃんに言われ放題でもお婆さんを呼び出そうとしなかった紅美ちゃんには何か考えがあったのか、御札の効果で呼び出せないのか。

 彼女が大胆な行動に出ない理由は御札にあるのかもしれない。


 ただただ無言になって御札を三人で見つめていたけど、須田がポツリと三時と言う。

 それはオレが考えていたことと一緒で、御札の効果が午前三時に切れるということを示していた。

 須藤のバイトは早ければ零時には終わるはず。何のバイトをしてるのか知らんけど今夜は残業が無いことを祈るばかりだ。

 須藤が帰って来れば何とかなるのか解らんが紅美ちゃんの暴走は止められるはずだ。

 でも須藤が帰って来ることを待っている彼女に会わせるのは危険なような気もするけど……。


 にっちもさっちもいかないまま時は過ぎ、とにかく外に出て、須藤の帰りを家の前で待とうと小声でリビングで相談するオレたちが同時に口を閉じたのは夜中の零時前で、二階から降りて来る足音が聞こえてきたからだった。

 リビングのドアノブがカチャリと音を立てて下げられると、ドアの隙間からこちらを覗き込むように紅美ちゃんが顔を出した。

 悪びれもせずいつも通りの可愛い顔で微笑み、引き攣る顔のオレたちとは対照的だ。

 ゆっくりとした動作でドアを開き、全身を見せた紅美ちゃんの背後に例の蓑虫お婆さんがニヤニヤと浮かび、オレたちは思わずソファーから立ち上がった。

 小町ちゃんやオレは見たことあったけど、須田は今回が初めてだったので眼鏡の向こうの目をまん丸にして唖然としている。

 家を出ようと相談していた矢先の登場に、先手を打たれたとオレは思った。

 別の時間軸のオレたちが家の外に出て何かをして、紅美ちゃんは過去に戻りやり直して、外へ出ようとするオレたちの阻止に来たんだろうと。

 警戒する三人を見渡して紅美ちゃんは両手をギュッと胸の前に組んだ。


「あのね、みんなにお願いがあるのー」


 死んでくれる? とか言い出すのか!?

 須田は小町ちゃんの二の腕を掴み引き寄せると背中に庇う。

 オレは引き寄せられていないけど、須田に寄って行って少し後ろで構えた。


「誰があんたのお願いなんて聞くか!」


「小町っ」


 打てばなる鐘と一緒の反応で、小町ちゃんは紅美ちゃんに答えたけど須田が遮る。

 紅美ちゃんは気にする風もなく、いやむしろ少しは気にしろよと思うんだけども、勝手に自己中に話しだす。

 さっきから思ってたが、絶対になにか紅美ちゃんも普段から違う感じで、普通の状態ではない。


「私ね、今夜の事を『なかったこと』にしたいのね」


「へっ?」


 間抜けな声を上げたオレは須田と小町ちゃんに睨まれて口を手で押さえた。


「お婆ちゃんとも相談したんだけど、小町ちゃんと鈴木くんはお婆ちゃんの力じゃどうにもならないみたいなの。でもね、二人が戻るって同意してくれたらもしかしたら戻れるかもしれないんだって!」


 強制的に小町ちゃんとオレは戻すことは出来ないけど同意があれば戻れるってことか。

 須田は、どうなんだろう。


「それでね、戻るって同意してくれないかな? 記憶は持たないで戻るだけだから寿命は一年で済むし、同じこと繰り返さない様に戻ったら私が違う行動をすれば良いだけだし、どうかな?」


 当然受け入れてくれるでしょ? とでもいうように紅美ちゃんはオレたちに微笑む。

 寿命が一年で済むとかそんな話じゃない。

 そもそもオレたちには戻る理由がない。


「戻らないって言ったら?」


 須田が紅美ちゃんを見据えると、彼女は小首を傾げる。


「須田くんは……お婆ちゃん?」


 紅美ちゃんが振り返ると同時にお婆さんはくるくると全身を回転させた。

 すると紅美ちゃんの姿がぼんやりと歪んだものの、すぐに元に戻る。


「うーん。二人がいるからダメなのかな。須田くんには拒否権ないけど小町ちゃんのおまけみたいだから、仕方ないっか。戻らないならちょっと違う世界に行ってもらってそこでずうっと彷徨っててもらうことになっちゃうのよね」


 軽い感じで何でも無いように紅美ちゃんはさらりと怖いことを口にした。

 ちょっと違う世界って、例ののっぺりとした音も無い変な世界のことだよな?

 あんなとこで彷徨ってたら餓死するか孤独で発狂して人生終わっちまうじゃねえか。


「私のお願い聞いてくれる?」


「お願いってゆーか、脅迫じゃーん?」


 ほんと、本当に思わずオレは思ったことを言ってしまった。

 オレを見つめた紅美ちゃんの目は昨晩の須藤の肩越しに見えた冷めたもので。

 一気にぬめりとしたイヤな汗がこめかみを伝った。


 口は禍の元! マジでそう思う!



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