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頑として家から出て行かない意志を貫こうとする紅美ちゃんだけど、なんだってそんなに須藤の帰りにこだわるんだろう?
須藤が帰って来ると何かあるのか?
それとも帰って来た須藤に何かしようとしているのか?
紅美ちゃんの背後に蓑虫お婆さんがいる、と小町ちゃんとオレが知ってしまったから須藤にバレる前に早めに決着をつけようとしてるのかも?
本当は小町ちゃんとオレを消そうとしたけど、お婆さんに靡かなかったからとうとう須藤に直接ってことなのか?
目の前で繰り広げられていた問答の嵐の中、オレは参加せずにずっと考えていた。
何が一番の最良の手なのか。
紅美ちゃんを家から出すことか?
それとも火中の栗を拾うように今の安全ではなく、須藤のこれからを考えて今夜、須藤に会う前に紅美ちゃんをどうにかすることか?
でも家から追い出すことは出来ても、紅美ちゃんを、蓑虫お婆さんをどうにかすることなんてオレには出来ない。
散々考えてみたけどオレに出来ることは何一つなかった。
「あーもう、腹立つ。そんなにここに居たいなら、玉さまか涼に連絡してよ。二人が良いって言ったら良いよ!」
「わかったー。じゃあ涼くんに聞いてみるねー」
とうとう折れた形になった小町ちゃんに紅美ちゃんはニコリと笑って、スマホを耳に当てた。
え。オレたちの使えないのに紅美ちゃんは使えるの?
そう思って手元のスマホを見たけど相変わらずネットには繋がらない。
「あ、涼くん? 部屋で待ってて良いんだよねー? ……うん。わかったー。小町ちゃんにもそう言っとくね」
須藤と会話しながら小町ちゃんを勝ち誇って見ていた紅美ちゃんだったけど、小町ちゃんが素早く動いてローテブルを飛び越え紅美ちゃんの手からスマホを奪った。
「あんた、この画面で涼と会話できんの?」
何を言ってるんだと紅美ちゃんに向けられた画面を見ると、普通に待ち受け画面だった。
エア会話してたのかよ……。
絶対に無理だと解かってる小町ちゃんはわざとらしくスマホを耳に当てて、もしもし? と繰り返す。
そして仁王立ちしてソファーに座る紅美ちゃんを見下ろして、スマホを投げつけた。
「あんた頭おかしいんじゃないの!? そもそもね涼はここに小町が居ることなんか知らないわけ。だから最初っから会話がおかしいって小町は思ったけど!」
これで紅美ちゃんは家から出て行くかと思いきや、投げつけられたスマホをバッグに仕舞い込んで小町ちゃんを押しやりながら立ち上がり、リビングのドアへ向かうと素早く二階へと勝手に駆け上がった。
えええええええっ!?
須田が一瞬遅れて追い駆けたけど、紅美ちゃんは既に須藤の部屋に入り込んでしまったようで、中から鍵を締めて籠城を決め込んだようだった。
リビングに戻って来た須田はソファーに座り、小町ちゃんが運んできたグラスに口を付けて水を一気に飲み干した。
「あの子が本体なのか?」
「ううん……他にキモイお婆さんがいる」
「キモイお婆さんって何だよ……」
二人の会話には疲れが見え隠れしてたけど、オレはちょっと須田に安堵した。
小町ちゃんと二人きりだったら怖いけど、理性的な須田が加わったことにより良い案が出てくるかもしれない。
それにしても。
リアリストなはずの須田は小町ちゃんからほぼ全くと言って良いほど説明を受けていないのに、なぜかこの薄気味悪く不思議な状況に馴染んでいる。
須田も案外オカルトとか信じることにオレは内心驚いていた。
須田や小町ちゃんはオレよりも玉様と付き合いが長いから、もしかして村で変な出来事に遭遇したりして信じるようになったのかもな。
小町ちゃんはチラチラと二階を気にしつつ、須田に最近の話を語り、聞き終えた須田は大体の事情は飲み込めた、とさらりと言う。
疑ったり嘘だとか言わず、須田は小町ちゃんの話を全面的に信用しているようだ。
ちょっとな。羨ましいよな。
普通なら有り得ない出来事で、頭がおかしいと思われても仕方ないことなのに、無条件で信じてもらえるってなんか良いよな。
「それで玉様の御札は今どこにある?」
「小町のバッグの中だよ。ちょっと待って」
ソファーの裏側に置いていたバッグを手にした小町ちゃんは、重ねられた三枚の御札を須田に差し出した。
須田がトランプのカードのように御札を両手で扇状に広げると、オレと小町ちゃんは同時に息を飲んだ。
さっきまで一枚の御札だけ黒く染まっていて、残りの二枚には変化はなかったはずなのに。
須田が手にしている御札は真っ黒なものと半染状態のもの、そして綺麗なままのものになっていた。
「なん、で、こんなに急に黒くなっちゃうのよ!?」
小町ちゃんは須田の手の御札を凝視して唇を噛み締めた。




