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 小町ちゃんを迎え入れて、彼女がリビングに向かう背中を見ていた。

 ということは最後に玄関に残っていたのは、オレ。

 他人の家に来て鍵を締める習慣なんて普通はないから小町ちゃんに期待は出来ない。

 そしてオレは鍵を締めた覚えがない。


 万が一、紅美ちゃんがピンポンを鳴らして、ドアを開けようとしたら?

 ヤバいヤバいヤバい! 家に入ってきちゃうじゃないかー!


 駆け出したオレがリビングのドアを開けるのと、二階から荷物を抱えて降りてきた小町ちゃんは同時で。

 そして玄関のドアを勝手に開けた紅美ちゃんが顔を覗かせたのも同時だった。


「入って来るな!」


 小町ちゃんの鋭い声が飛んで、紅美ちゃんはびくりと動きを止める。

 抱えていた荷物をオレに押し付けた小町ちゃんはずんずんと大股で玄関に向かい、ドアの隙間から見えている紅美ちゃんを睨み付けた。


「絶対に入って来るな。小町は認めない。あんたがこの家に入ること。小町は玉様が帰るまでこの家の管理を任された。小町が認めない人間は絶対に家にはれない!」


 語気強めの小町ちゃんの発言に紅美ちゃんが目を丸くしたのが見えたけど、にやぁっと瞳の形をいやらしい半円に変えた。


「でもー、涼くんがバイトで帰って来るまで家で待っててって言ったんだよー?」


 須藤のバカー! 


「涼が良いって言ったとしても、小町が認めないから。それにそれって嘘でしょ。小町は涼から全部聞いてるから知ってるもん。あんた、涼の彼女でもなんでもないって。そんな女に家で待ってろっていう訳ないもん」


 小町ちゃん、ここでそんな煽りは止めてくれ!

 逆上した紅美ちゃんがお婆さんを使って反撃にでたらどうしてくれんだ!


「そんなことないよー。涼くんは私のこと、大事にしてくれてるから手を出してこないだけだもの。一緒に遊びにも行ってくれるし、いつも家まで送ってくれるし」


「そんなの小町にアピールされたって知らない。涼はそんなこと言ってなかった。とにかく家には絶対に入れないから帰れ、勘違いバカ女!」


 ああああああああ……毒舌にも程があるだろ。

 親の顔が見てみてぇよ!

 最後の捨て台詞って必要だったか!?


 言われ放題だった紅美ちゃんは固まった笑顔のまま、小町ちゃんの忠告をものともせずにドアを開けようとしたけど、不思議なことにドアは開いたものの一歩を踏み出さない。

 戸惑う様に足を出すものの、すぐに引っ込めるを繰り返した。


 なんだろう、この違和感。

 まるで住人に招き入れてもらわないと室内に入られない吸血鬼みたいじゃないか?

 小町ちゃんはいつもの様に太々しく顎を少しだけ上向きにさせて、玄関から一段低いところの紅美ちゃんを見下ろす。


「やっぱりね。あんた、そうなんだね。玉様が言ってた通りだわ。とっとと消えろ」


「な、なにを言ってるの? ちょっと嫌な感じがするだけだもん。入れるもん」


 そう言った紅美ちゃんが意を決して足よりも上半身を前に出したら、音もなく何かにばいーんと弾かれて後ろに二、三歩下がった。

 これ幸いと小町ちゃんは内側からドアノブを握り、呆然としていた紅美ちゃんの目の前のドアを勢いよくバタンと閉めた。

 カチンカチンと音をさせて上下の鍵を締め、チェーンまで下ろす。

 一体何が起こっているんだよ。

 振り返った小町ちゃんは紅美ちゃん同様呆然としていたオレに向かってきて、押し付けていた荷物を腕から奪い取った。


「鈴木、和夫」


「は、はい?」


「今から玉様が帰って来るまであんたのこと、鈴木じゃなくて和夫って呼ぶから」


「へっ?」


「だって鈴木って呼んでたら外のアイツも鈴木だから、もしかしたら小町が危ないこと言って入って来るかもしれないから」


「い、意味が解んないんだけども?」


「だから『鈴木』に小町が何か許可したら、外の『鈴木』にも許可したことになっちゃうかもしれないでしょ!?」


 小町ちゃんが言いたいことは何とか理解できた。

 要するにオレと紅美ちゃんは同じ『鈴木』という姓だから、小町ちゃんは和夫の方の鈴木に対して言ったのに紅美ちゃんの方の鈴木にも言ったことになるかもしれないと危惧してるんだろう。


「言いたいことは分かったけど。それってどういうことなの? 小町ちゃんが許可するとか何の話なの?」


「『そう云うものだから、そう云うものだと思え』って玉様が言ってた」


「あ、はい」


 玉様のその台詞を言われたら、もうそう思うしかねぇ……。じゃないと山に捨てられる恐れがある。

 ここは通山市だけども玉様の家は鈴白村のルールが適用されているらしかった。



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