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「それで、鈴木はどうしたいのよ。小町的には放って置くのが一番だと思ってるよ。玉様にも関わるなって言われてるしさ」


 小町ちゃんは長い足を組みかえてテーブルの上の御札に視線を落とした。

 オレも釣られて見て見れば、左端の御札の下の端っこが焦げたように黒くなっている。

 せっかく貰った御札なのに雑に扱うなよー、と思いつつ指先で擦り落としてやろうと御札に触れると、リトマス試験紙の様に御札の三分の一まで黒墨が一気に広がってオレはそのまま固まった。

 え。オレって指先から墨が出ちゃう人間だったの?

 黙って見ていた小町ちゃんは慌てたように赤いバックからゴールドのスマホを取り出して画面をスライドさせたまま指先を止める。


「鈴木」


「はっ、はい」


「玉様に電話して」


「えっ? 自分ですればいいじゃん」


 そのためにスマホを出したんだろ? と言い掛けたけど、オレは御札を汚してしまった後ろめたさもあり自分のスマホを手に取る。


「玉様さ、今比和と一緒にいるじゃん? なのに小町から玉様に電話があったら比和が気にすると思うんだよね」


「比和子ちゃん? そんな小さいこと気にするような子なの?」


「そうじゃなくて……それもあるけど、玉様と小町はこの件に比和を巻き込みたくないんだよね。心配させたくないわけ」


「ふーん……。あ、玉様に繋がったよ。もしもし玉様?」


 通話状態になったはずのスマホを耳に当てても玉様は無言で、何も言ってくれない。

 またタイミングが悪かったんだろうか。


「玉様? 玉様?」


『……何用だ。くだらぬことだったら帰宅後家から追い出すぞ』


「ええええっ! ちょちょ、ちょっと待って! 今、小町ちゃんに代わるから!」


 とんだ疑いをかけられてしまったオレは急いで小町ちゃんにスマホを手渡した。

 小町ちゃんは神妙な顔つきで受け取ると玉様に、比和子ちゃんが近くにいないかを確認してから話しだした。

 昨日のオレのこと、玉様の家に来ていること、御札が黒くなってしまったことを説明している。

 そして玉様から何か言われた小町ちゃんはわかったと返事をして通話を終えた。


「玉様、なんだって?」


「うん……とりあえず玉様が帰って来るまで小町もここに居ろって」


「え? 泊まるの?」


「うん。二階に比和のお泊りセットがあるから使えって」


 聞きたいのはそこじゃないんだぜ。

 どうして小町ちゃんがここに留まらなくてはならないのかってこと。

 今は土曜日の夕方で、玉様は日曜の夜中か月曜の早朝に帰って来るサイクルだと須藤は言っていた。

 最低でも丸一日以上小町ちゃんを家に拘束する理由とは……。


「小町ちゃ……!」


「ちょっと二階に取りに行ってくるー」


 話を回避したい様子の小町ちゃんはそそくさとソファーから立ち上がって二階に駆け上がった。

 逃げられちゃったがまだ時間はあるから急いで話をする必要はないよな。

 とりあえず須藤はいないけど今夜は小町ちゃんが一緒にいてくれるから、夜は安心だ。

 小町ちゃんの爽やかな残り香を目一杯に吸い込み肺を満たしたオレも立ち上がる。

 一人だったら適当な夕食で良いけど、モデルの小町ちゃんがいる今夜はきちんとした食事をしよう。

 比和子ちゃんのお母さんから貰った惣菜もまだあるから、米とみそ汁でも作ろう。

 健康的な考えを持って台所に向かえば、ぴん、ぽーんと鳴ったチャイムに足が止まりガクガクと震え出す。

 恐る恐る振り返っても家の中は変わらないけど、来客を告げるインターフォンの緑の点滅が胸をざわつかせた。


 ぴん、ぽーん。ぴん、ぽーん。


 この独特の鳴らし方は紅美ちゃんだ……。

 須藤が居ない時にどうして来るんだよー。ここに須藤以外の理由で来る必要なんかないだろうがよ!?

 居留守、使うか?

 小町ちゃんだって来客が紅美ちゃんだって知れば反対はしないだろ。

 むしろ率先して居留守を使うはずだ。

 電気は点いてるけどカーテンは閉めてる。

 それに昨晩須藤が紅美ちゃんを送る時に、誰が来ても出なくていいと言っていたのを聞いていたはずだ。

 居留守をしても言い訳はできる。

 と、そこまで考えてハッとオレは気が付いた。


 鍵、締めたか?



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