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「鈴木くん。お婆さんに何かお願いしちゃった?」


 考え込んでいたら紅美ちゃんが可愛らしくオレの顔を覗き込む。

 心配そうに見上げられて、オレはもうアレですよ。

 ずきゅんと胸を……射貫かれなかった。

 いつもならドキドキするはずなのに。

 おかしいな、と思ってよくよく考えればさっきの小町ちゃんスマイルが神々しく蘇り、オレはもうあれ以上のものじゃないとときめかない体質になったようだ。ハードルが高すぎる。


「ううん。してないよ」


「そっかー。よかったー。寿命減っちゃうみたいだから」


 そう言った紅美ちゃんはどんだけ寿命を減らしちゃったんだろう。

 そんな視線を無意識に送っていたのか彼女は困ったように頬を膨らませた。


「私もお試しで一回試しただけなんだー。それからあのお婆ちゃんに付きまとわれちゃっててー」


「あ、そうなんだ」


 紅美ちゃんはそう言うけど、オレは疑っている。

 だって蓑虫お婆さんを呼び出すには『意識して』言葉を繰り返す必要がある。

 多分制約でお婆さんは呼び出されないと自分から姿を現すことはしないはずなんだ。

 二度と会いたくないと思えば言葉を繰り返さなければいい。

 付きまとわれてるってことは何度も会ってるってことじゃん?

 どんなに馬鹿でも言葉を繰り返さなければ出てこないって思って繰り返さないじゃん?


 それに……紅美ちゃんは小町ちゃんの一件を知っているようだ。

 だって『私もお試しで』ってなんだよ。『も』って。

 オレはお願いしてないって言ってんのに『も』っておかしいだろ。

 そこは『私は』でしょ。


 紅美ちゃんが助けに現れてくれたことに感謝はしているけど、どうにもこの救出劇は胡散臭い。

 大人しく引き下がったお婆さんも不可解。

 もしかして最初から仕組まれていたんじゃないか?


 脳内で推理し疑う様子を見せないオレに気付かない紅美ちゃんは、途中まで一緒に帰ろうと背を向けて歩き出す。

 オレも少し遅れて足を踏み出した。


 前を歩く紅美ちゃんのワンピースの裾がふわりふわりと歩くたびに揺れて、今突風が吹けばラッキーエロがとも思ったけど、何故か想像で捲れたスカートの中には蓑虫お婆さんがニヤニヤと顔だけ浮かんでいた。


「鈴木くん。お願いがあるんだけどー」


 さっきの小町ちゃんと止まった信号で再び赤信号に足止めされた時、それまで無言だった紅美ちゃんが振り向いた。


「なに?」


「あのね、今夜のこと、涼くんには秘密にしておいてほしいんだー」


「ど、どうして?」


「だって変に疑われたくないでしょ? 私は何もしてないのに時間戻してズルしてたとか」


「……うん。わかったよ」


「じゃあ二人だけの秘密ね」


 紅美ちゃんはオレに右手を差し出して握手を求めたけど、タイミング良く信号が青に変わり人波に押される形でオレは歩き出す。

 こんなとこで握手をしていては邪魔になると思った紅美ちゃんは手を大人しく引っ込めた。

 信号を渡りきり、家はこっちだからーと紅美ちゃんは直進せずに右へと足先を向ける。

 じゃあねー、と振り返ってまで手を振ってくれたけどオレは見送るだけで何もしなかった。


 だって紅美ちゃんが『涼くん』っていうワードを出した途端に、彼女の背中にべっとりと張り付くように一昨年の葬式の遺影で見たお姉さんが姿を見せたから。


 やせ細り骨と皮だけのミイラの様なお姉さんはしっかりと彼女に憑りついていた。



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