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 言われ放題だったお婆さんは呆気に取られていたが、皮肉気に口元を歪めて笑うと人間っぽい表情を見せた。

 ニヤニヤとした笑顔は造り物っぽかったから、こっちが本性なんだろう。


 お婆さんは蓑のどこに隠し持っていたのか赤い柄の煙管を取り出して咥えると、ぷかりと煙を吐き出した。

 気怠そうに色が混ざり合って混沌とした夜空を見上げて、白い煙を燻らせる。


「なんなんだろうね。お前もあのお嬢さんも」


 さっきまでの口調とは打って変わって、お婆さんは言葉を繰り返さずに流暢に話す。

 作り笑いを浮かべ、特徴のある話し方の時はちょっととぼけた道化の様なイメージだったが、この素だと思われる表情と話し方は老齢で狡猾さを窺わせるには十分だった。

 愚者を演じた方が獲物は引っ掛かりやすいんだろうな。


「オレは普通の人間だ。あのお嬢さんって誰だよ」


 心当たりは二人いる。

 小町ちゃんと紅美ちゃんだ。


「えらく別嬪で勝気なお嬢さんさ。永いことこうしているけどね、初めて見られちまったんだよ」


「何をだよ」


「時間を戻す瞬間さね。しかもあのお嬢さんは影響を受けなかった。こんなことは初めてさ」


 小町ちゃんが紅美ちゃんを街中で目撃して向こうから再び歩いて来た時の事を言ってんのか。

 そう、だよな。

 普通に考えて時間を巻き戻すって言うのは一人だけじゃなくて全員を巻き込む。

 目撃者がいたら辻褄が合わなくなっちゃうもんな。

 深く深く煙管の煙を吸い込んだお婆さんは、だらしなく口元を弛めてモハァ~と魂を口から出すみたいに煙を吐き出す。


「そしてお前」


「オレぇ~?」


 何も変なモノは見ていないぞ。


「お前が見ている前で時間を戻すことが出来なかったんだよ」


「それって……雨の日か?」


 紅美ちゃんに須藤は留守だからって嘘を付いて帰した日。

 彼女の後姿は歪んで見えた。

 後にも先にも小町ちゃんや紅美ちゃん関連でおかしなことといったらそれしか思い浮かばない。


 お婆さんは無言で煙管を逆さにして灰を落とし、再び蓑の中に仕舞い込む。

 オレに向けられた眼差しは何の感情もなく無で、虚の目はどこまでも暗く暗く、ひたすらに暗い。


 やっ、やべぇ……。


 なんか良く解からんがさっきまでのお婆さんと違って勧誘じゃなく、オレを殺しに来る雰囲気びんびんじゃねぇか。

 戻らなかったのが原因じゃなくて、見てはいけないものを見てしまったのが原因なのは明白だ。

 もしかしてだから小町ちゃんも狙われたのか?

 自分の力を利用せず、ただ見て知ってしまったオレたちはお婆さんにとっては脅威に成り得る。

 自分の支配下に置けばどうとでもなるが、野放しにして置くことは出来ないってわけだ。

 不穏な空気を察知してじりりと下がってはみたものの、正直このへんてこな世界から脱出できる可能性は低そうだ。

 逃げ出す算段を考えていたオレをさらに見つめていたお婆さんはニヤニヤ顔を始める。


「お前お前。試さない試さない言ったけどもう試した試した」


「へっ?」


「記憶を持たずに一回一回もうもう試した試した」


「う、嘘だろ?」


 もう試しただって!?


「家家から逃げる逃げる時もう試した試した」


 家から逃げる時……紅美ちゃんの襲撃か。

 とすると、過去のオレは紅美ちゃんの襲撃に遭って逃げた先でお婆さんに遭遇し、襲撃をなかったことにして上手く逃げるために時間をお試しで戻したってこと、なの?



 ……。


 いやいや。


 いやいやいやいや。


 ちょっと待てよ。襲撃を躱したいなら、記憶を持って戻らなきゃ意味ないじゃーん?

 過去のオレも今のオレも考えることは同じだ。

 どうせタダのお試しなら記憶を持って戻るんだぜ。

 そこまでおバカじゃない。

 それにしてもこのお婆さん、油断ならねぇ。

 嘘を付いてオレを騙そうとしてきやがった。



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