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「小町の家、ここだから。送ってくれてありがと、鈴木。帰りは気を付けて『一人で』帰ってね」


「うん! どういたしましてだよ! ……ひっ、一人で」


 つい後ろを振り返り、橋の方向を見れば小町ちゃんがバックから玉様の御札を一枚取り出した。


「これ、一枚持って行きなよ。小町、まだ二枚あるし、今度会った時に返してくれればいいよ」


 小町ちゃんはそう言ったけど、オレは受け取らなかった。

 だってそういうのって、持っている人だけに効果を発揮するものが多い。

 小町ちゃん用に玉様が書いたなら小町ちゃんだけに効果があると思って間違いない。


「大丈夫だよ! 小町ちゃんから話を聞いたから、もしお婆さんに遭遇しても逃げる! そもそも呪文知らないから!」


「でも持っていきなよ! 備えあれば患いなしだよ!」


「いいっていいって!」


 玉様の御札を真ん中に押し問答していると、オレの頑固さに負けた小町ちゃんが大人しくバッグに御札を仕舞い込んだ。


「ほんっと気を付けて帰りなよ? 特に橋のとこ。小町、あそこで変なことになったから。あと、同じ言葉を何回も繰り返したら駄目だからね。声に出しても心の中でも。そうだ、鈴木。歌でも歌って帰りなよ!」


「それって変質者で警察に連行される案件じゃん……。心の中で歌って帰るよ」


「うん。それが良いよ。家に帰ったらメールちょうだい。小町それまで起きててあげるから。もしメールなかったら涼に電話して男の方の鈴木を探してって頼んであげるからね。あんたの足でも一時間もしないで帰れるでしょ」


「お、おう。気を付けて帰るわ。じゃあね、小町ちゃん」


 ぶんぶん両腕を振る小町ちゃんに見送られ、オレは一人で帰途に着く。

 やべぇ。帰りは一人になるんだったと後悔をしても後の祭りだった。


 行きはよいよい帰りは怖いってやつだな。

 なんだっけ、この歌。

 あぁ、通りゃんせ、か。

 子供の七つのお祝いの御札を天神様に納めに行く為に細道を通るんだけど、天神様に用が無いものは通さないぞって言われるんだよな。

 んで、御札を納めに行くんだと答えれば通してはもらえるんだけど。

 行きはよいよい帰りは怖いって言われるんだ。

 行きは良いけど、帰って来るのは難しいって。

 難しいけど、でも通りなさいって終わる歌。


 この歌の怖いところは、天神様のところから帰って来るのが難しい。なんで難しいんだ? ってところだとみんなは思うだろうけど、オレは違うんだよな。

 歌詞はさ、七つのお祝いの御札を持った人間と『天神様じゃない誰か』との会話なんだよな。


 この誰かって誰なんだろうと考えると、オレはとっても恐ろしい。

 だって帰って来るのは難しいっていうのに、通りなさいって言うんだぜ?

 そんな危険なとこに行くつもりの人間が目の前にいたら、普通止めるだろ。

 なのに通りなさいって、悪意が満載じゃないか。

 オレは思ったね。この誰かは天神様にお参りに来る人間を騙して喰ってるんだって。

 でも中には美味しくなさそうな人間がいて、一応忠告する形で声を掛けるんだ。

 そうするとだな、無事に帰った美味しくなさそうな人間が他の奴に話すんだよ。


『天神様のとこにお参りに行くと、帰りは危険らしいけど自分は無事に帰って来たぜ。誰かに忠告されたお陰だよ』ってさ。


 だから天神様のお参りに行って帰って来なかった人間は神隠しかなんかに遭ったんだ、運が悪いって昔の人は考えるようになった。

 実際は『誰か』に喰われて帰れなかっただけなのに。

 善人面した『誰か』が一番のわるってわけだ。


 そんなことを考えて、ぽぽぽんと何人かの友達の顔が思い浮かぶ。

 さっき会った小町ちゃん。須田。玉様に須藤に御門森。そして……紅美ちゃん。

 この中で間違いなく善人だとオレが断言できるのは、家に泊めてくれてる玉様と御門森と須藤。

 んで玉様の婚約者の比和子ちゃんの幼馴染の須田と彼女で親友の小町ちゃん。

 ……残念ながら紅美ちゃんは、ヤバいと思う。


 小町ちゃんから話を聞いて確信に変わったんだ。

 紅美ちゃんに嘘を付いて帰した時、彼女の後姿は歪んで見えた。

 そしてさっきの庭まで来て窓をどんどん叩く暴挙だ。

 寝てるときに薄ら聞こえていた三人の会話からしても、確実にヤバい何かが絶対にある。

 このままあの家に帰っても大丈夫だろうか。

 待ち伏せされてたらどうしよ。


 なんて考えていると、オレはさっきの橋まで戻って来ていた。




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