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「でも夜道は危ないし、オレ、家まで送るよ。ちょっとそこで待ってて」


 小町ちゃんの返事を待たず、オレは裸足で出て来ていたからベランダから中に戻り、玄関から出直した。

 比和子ちゃんのお母さんから貰った紙袋の中身はきちんと冷蔵庫に入れておいたんだぜ。

 もしかすると先に歩いて行っちゃったかもな、と門を過ぎると小町ちゃんは大人しく待っていた。マジか。

 てっきり強気でさっさと歩いてしまっているだろうから走って追い掛けねばと思ってた。

 オレは御門森から預かっていた鍵をジーンズのポケットに入れて、小町ちゃんに駆け寄る。


「お、お待たせ」


「別にそんなに待ってない。小町の家、こっから遠いけどあんた歩けるの?」


「頑張る」


「途中に守の家あるし、もし帰り疲れたら守んとこに行けば良いよ」


「うん」


 といいつつ、途中に須田の家があるんならそこで須田とバトンタッチすればいいんじゃないかと思ったけど、ここは空気を読む鈴木和夫。

 最近二人が何となく上手くいってないのを知っている。

 好きになった嫌いになったとか感情の話じゃなくて、もっと別の、大袈裟に言っちゃえば己の生き方、みたいな?

 特に会話の無いオレたちは、小町ちゃんを先頭にストーカーの様にぴったりと後ろについて歩くオレという陣形で歩いていた。

 小町ちゃんは短大を卒業してから芸能事務所に所属してて、モデルとしてちょこちょこ活躍していた。

 なので後ろを歩いていると、歩き方が凄く綺麗で、ドラマの風景に見えてくる。

 しかも後ろ姿も美人さんだしな。


 赤信号で止まった小町ちゃんに近付こうとする男の二人組が居たので慌てて隣に並ぶと、小町ちゃんがちょっと驚いた表情をしてから目を細めて、ありがと、と言ってくれる。


 もうね、オレの心はずきゅんとしてあれですよ。

 ファンになりましたとも!

 普段は毒舌だけどたまにデレるとか悪女か。悪女なのか。


 小町ちゃんは視線を前に向けて赤信号を真っ直ぐに見つめる。


「鈴木さ」


「うん」


「お化けって信じる?」


「え?」


 聞き直したと同時に信号が変わり、小町ちゃんを乗せて人波が進む。

 オレは一瞬立ち止まってから、彼女の背中を追い掛けた。



 ずんずん歩く小町ちゃんが人気ひとけがなく何の変哲もない橋で立ち止まる。

 そこは住宅街への入り口で、小町ちゃんが言うにはこの先に須田と比和子ちゃんの家があるらしい。

 閑静な住宅街に並ぶ一軒家は造りは若干古さを感じるものの、きちんとリフォームされている家が多く、寂れた雰囲気はない。

 玉様たちの家はどちらかと言うと通山市でも繁華街寄りにある新興住宅街で、新築一軒家が多く、若い夫婦や子供が多い。

 小町ちゃんはオレを振り返って肩から下げていた赤いバッグの紐をぎゅっと両手で握り締めた。


「鈴木は、お化けって信じる?」


 さっきと同じ質問を繰り返した小町ちゃんの綺麗な顔は強張っていて、冗談で言っている訳ではないようだ。

 信じる? って聞かれても、うん、見えてるよーなどと答えても良いのか。

 彼女から話が巡り巡って玉様たちの耳に入って、オレの友達が減ってしまう恐れがある。

 でも……玉様たちの田舎で出遭った半魚人ってアレは絶対に夢じゃないと思うけど、玉様と御門森は夢だとオレを言い包めたつもりでいる。

 二人は半魚人は『いない』とは言わなかった。

 『夢』とは言ったけど、半魚人を見たというオレの言葉は否定しなかった。

 もし小町ちゃんから話を聞いても、簡単に否定はせずに話を聞いてくれるんじゃないだろうか。

 玉様たちに話をしたからどうこう変わる訳ではないが、少なくともあの三人はオレが見えるって言っても頭ごなしに否定して距離を置くような事はしないような気がする。多大な自分の勝手な希望を含んでいるが。


「うん。信じるよ。お化けっていると思う!」


 いると思うっていうか実際にいるけどな!

 オレが胸を張って肯定すると、小町ちゃんは握り締めていた手を弛めた。


「この前の夜さ、小町、ここで変なお婆さんに追い掛けられたんだよね」


「お、お婆さん?」


 想像しただけでも怖い。

 夜道で、走られそうもない年齢のお婆さんに追い掛けられるって普通の人間だったとしても怖いじゃねぇか!

 お婆さんじゃなくっても誰かに追い掛けられるって怖い。このご時世だしな。

 しかも小町ちゃんは美人だから変な男とかに追い掛けられる率が高そうだ。


「うん。『顔は』お婆さんだった」


 ……顔は、ってナンナンデスカ?




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