比和子の学習能力 比・玉・須
「はぁ……」
「どうしたの、上守さん」
「あっ、須藤くん。夕餉の準備?」
「うん。今日も美味しいもの作るよ」
「ありがとう、須藤くん」
「それで溜息ついてどうしちゃったの?」
「字がね、読めないのよ」
「えっ!?」
「顛末記とかの昔の文字」
「あぁ、びっくりした。それはもう慣れじゃないかな」
「慣れる以前に読めないのよ。現代文に書き起こそうとしたら、玉彦に複製は禁止だって言われちゃってさ」
「そっかー。じゃあ僕の家にある白猿退治の書物、読んでみたら? 複製は禁止じゃないよ」
「そうなの? じゃあ借りて読んでみようかな」
「明日にでも持ってくるよ」
「ありがとう。お願いします」ぺこり。
「ということで、須藤くんから白猿の昔の書物を借りたの。だから、読むの邪魔しないでね」
「うむ。勉強をすることは良いことである」
「……って言ってるそばから邪魔しないでくれる?」
「共に読み、分からぬところは教えてやろう」
「いいよ、別に。自分で読むから」
「……そうか」しょんぼり。
「わからないことがあったら聞くね」
「任せておけ」
「玉彦。これなんて読むの?」
「これは、朝方、藍染村にて、だ」
「玉彦。これはなんて読むの?」
「これは、しばらくすると草陰から、だな」
「しばらくって漢字で書くの、止めて欲しいわー」
「玉彦。これ」
「これは先ほども出てきた藍染村だろう。同じ文字ぞ」
「えええっ。ちょっと違う感じするんだけど」
「書き崩しているからであろうな」
「玉彦」
「もう、読むのを止めろ。比和子には無理だ」
了。




