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「ちょっとアナタ! 何をしているの! 警察呼ぶわよ! ヒカル、スマホ出して!」


 外から中年の女性の声が聞こえたかと思えば、ガサガサと庭から気配が消えてアスファルトを蹴って走り去る音が微かに聞こえた。

 オレはガタガタと震える手でリビングのカーテンを開ける。

 すると門のところに偶にここで見かける多分比和子ちゃんのお母さんと弟、そして煙草を咥えたお父さんらしき人物が走り去る人物の背中を見送っていた。

 ガラリと窓を開けて裸足で庭に降りて、オレは三人の前でへたり込んだ。


 大人の存在の偉大さよ……!!


「誰だ、お前は。泥棒か?」


 煙草を咥えたままオレの前にしゃがみ込んだ比和子ちゃんのお父さんらしき人は、遠慮なくオレの髪を掴み顔を上げさせた。

 酷い扱いだけども、この際どうでもいい。

 ちょっと釣目で年を取ってるけどイケメンに睨まれてオレは涙が込み上げる。


「たっ玉様の友達の鈴木ですぅ~……」


「あら。そう言えば見たことある顔だわね。玉彦くんは? 車が無いからもう出発しちゃったかしらね?」


 少しふくよかなお母さんは両手に持っていた紙袋を残念そうに見てから、オレに差し出した。


「今回のお留守番は誰なのかしら。良かったら食べる?」


「留守番は須藤なんですけど今出掛けてますぅ~……」


 ちゃっかりと受け取った紙袋の中身を覗き込めば、透明な使い捨ての容器に入れられた惣菜が一杯だった。


「うちの娘の好きなものばかりだから偏ってるけど、ごめんなさいね」


「ありがとうございますぅ~……」


「てめぇもいつまでも泣いてんじゃねぇよ。だからあんなおかしな奴が寄って来るんだよ」


「ええぇっ……!?」


 玉様の様にオレの頭を鷲掴みにしたお父さんはポンポンっと叩いてから手を離した。


「あれっ? 比和のおじさんとおばさんじゃん! ヒカルもなにやってるの? あっ鈴木も!」


 門の前で話し込んでいたオレたちに向かって小走りで近寄って来たのは小町ちゃんだった。

 すっかり先日の嫌な気配が全くなくなった小町ちゃんは、お父さんとお母さんにぺこりと頭を下げて、弟のヒカル君とハイタッチをかます。


「おう。小町か。お前こそこんなとこで何やってんだ」


「小町はここの三人に用があって来たんだよ。ちょっと使い方が良く解かんなくてさー。あっ。おじさんなら知ってんのかな。これ」


 小町ちゃんは大事そうに肩から下げていたバッグから白い紙を取り出し、煙草を咥えたまま立ち上がったお父さんに手渡す。

 釣られて立ち上がったオレと、隣にいたお母さんがお父さんの手元を覗き込む。

 お父さんは煙草を唇で上下させて、ニヤリと笑った。


「なーぁんにもしなくていいんだよ、これは。持ってるだけで良いの。正武家次代様のありがたーい御札だからね」


「持ってるだけで良いの?」


「そうそう。持ってるだけで勝手になんかしてくれるから。良く知らんけど。いやぁそれにしても玉彦くんは達筆で美しい御札を仕上げるんだなぁ。澄彦のなんか、若い頃ミミズが這い蹲った字の札で有り難くもなんともない、尻を拭く紙ですらなかった」


「おじさん、言い方……」


 小町ちゃんの手に戻った、正武家次代様のありがたーい御札は確かに綺麗な筆文字で何か書かれていた。

 読めないけど、綺麗だなって素直に思う。神社の厄払いの御札によく似ていた。

 でも正武家次代様って玉様のことだけども、玉様が書いた御札がありがたいってどういうことなんだ?

 玉様の家は村の名士で、神主だって聞いたことも無いけど。

 しげしげと手元を見ていたオレから隠す様にして小町ちゃんは御札をバッグに仕舞い込み、オレを一瞥する。

 なんだよ。なんか文句あんのかよ。御札を見たかっただけで小町ちゃんの綺麗にネイルされた指先を眺めていたかった訳ではない。


「おじさんたちもう帰るの?」


 気を取り直した小町ちゃんがそう聞くと、お母さんがこれから親戚の家に行くのよ、という。


「家まで送ろうか?」


 反対車線に止めていた車の運転席に座りつつ小町ちゃんに声を掛けたお父さんだったけど、小町ちゃんは歩いて帰るから大丈夫と手を振って走り去る車を見送った。



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